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金の涙

来ていただいてありがとうございます。



私はユースティン様と一緒にエバーグリーン家の森へ向かった。



「跳ぶよ」



跳ぶって……!?変化は一瞬だった。ユースティン様はこうやって私の部屋にも来たのね。私の目の前には懐かしいマーロの森が広がってる。……ううん、違う。

「どうしてこんな……」

そこで見たものは悲惨な森の姿だった。無残に幹を傷つけられた木々が悲しそうにそこに立っていたの。

「酷い……」

涙が浮かぶ。

「なんてことを……」

「樹液の量が減ってしまったから、幹をたくさん傷つけて少しでも増やそうとしたのか」

ユースティン様は怒りの表情を浮かべる。

「なんと欲の深い……」



一番近くにあった大きくて古い木に触れた。痛い……。悲しい……。伝わって来る感情……。

「私のせいだ……。私がここを出たから……放り出してしまったから」

涙が零れる。

「違う!エルシェのせいじゃない!人の欲のせいだ!」

「ユースティン様……私も人なんです……」

「エルシェ……君は……」

ユースティン様は何かを言い淀んでいた。


「ごめんね。みんな」

痛かったよね?伝わって来る。森番のお爺さん達は、森を守ろうと抵抗してくれた。でも親戚の皆が押し切って木を傷つけた。それでも思ったように樹液の量が増えなくて、八つ当たりの様にお爺さん達を突き飛ばして、木々を更に傷つけたのだった。


染み出してくる樹液が涙のよう。幼い頃にそうしたように幹におでこをつける。


溢れてくる気持ちと涙


痛いのを消してあげたい




光が溢れる







「エルシェ」

名前を呼ばれて、「わたし」は理解する。体、頭から足の先まで(ちから)が満ちているみたい。今までとは違う感覚。ユースティン様はそう、ローヌの木の精霊だ。かなり大きな力を持つ高貴な方だわ。そして「わたし」は「マーロ」だ。

「エルシェ、すごいね……マーロ達の傷が癒されてる。傷跡はまだ残ってるけれど、もう大丈夫なようだ」

ユースティン様は私の肩を抱いて、目の前の大木を見て、森を見渡してから私を見つめてる。マーロの森から痛みの感情が消えてるわ。私はほうっと息をついた。







ザクッと雪を踏みしめる音。


「エルシェ?どうして君が……森がすごい光に包まれて……今の光は……」

いつの間にかアレックスがやって来ていた。

「エルシェ?……その姿は……」

茫然としているアレックス。頬が紅潮しているわ。

「……金色の髪……君って一体……」

アレックスは何だか夢でも見てるみたいにこちらを見て来る。私は怒りが込み上げてきた。


「アレックス、これはどういうことなの?!なんてことをしたの?!私達は森から恵みをいただいて生きてきたのよ?」

私はアレックスに向かって叫んだ。

「ぼ、僕じゃない!僕は一応止めたんだよ。でも、あいつらが……。親戚連中が僕の言葉を全然聞かなくて。あいつらっ……!」

アレックスは悔しそうに唇をかみしめる。


「僕みたいな若造に任せておけない、生活がかかっているって。木を傷つけ始めて……。僕の言葉なんて全然聞かないんだ。あいつらは僕を持ち上げるだけ持ち上げて、自分たちの取り分を増やそうとしただけだったんだよ!」

両手を握り締めて吐き捨てた。まだ二十代のアレックスは確かに若いけれど、彼とアマンダとお義母様を中心としてみんな結束していたんじゃないの?


「それでもエバーグリーンの当主は君だろう?責任はすべて君にある」

ユースティン様の冷たくて厳しい眼差しがアレックスに向けられた。

「正当な後継者のエルシェを追い出したのは君であり、樹液の減産を招き、あまつさえ彼らの暴走を止めることすらできない。君の無能さが全てをもたらしたんだ」

「…………」


アレックスの顔色は真っ青だ。屈辱に震えているけれど、本当の事ばかりで何も言い返すことが出来ないでいる。

「君はエルシェに何と言った?彼女を悲しませ、長年酷い扱いをして押さえつけてきた罪は重い!」

「そ、それは僕だけじゃ……」

アレックスはオロオロと小声で言い訳を始めた。


『その通りですね。ここには、いいえ、この国にはもう祝福は必要ないでしょう』


「この声……」

遠くから呼びかけてくるような、耳元で囁かれているような不思議な声。優しいような、それでいて冷酷な響きを持つようなそんな声が聞こえた。

「女王……」

女王様?ユースティン様は私の隣で空を見上げている。



『エルシェ、愛しい子。わたくしの娘。金の雫の姫。ユースティンと共に帰っていらっしゃい』




圧倒的な光の奔流が私とユースティン様を包んで何も見えなくなった。






ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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