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告白

来ていただいてありがとうございます。




えっと、王子様がこんなに何度も平民の家に来ても大丈夫なのかしら?


私の最初の感想はこれだった。そしてアマンダ。何でアマンダがアーチボルト殿下と一緒なの?一緒って言っても他にも二人ほど男の人達がいるんだけど。戸口に立ったアマンダは灰色のフロックコートの男の人達に両脇を固められていて顔色が悪い。一体何があったの?


「まあ、ようこそいらっしゃいました、殿下。よろしければこちらへどうぞ……アマンダも」

叔母様が応接室に通した。お茶をお出しして部屋を出ようとしたら、殿下に呼び止められたわ。

「エルシェ、君に話があるんだ。ここにいてくれる?」

「は、はい」

私は叔母様の顔を見た。叔母様がうなづいたので叔母様の隣に座った。ちなみにアマンダはフロックコートの男の人達と一緒に部屋の隅に立ってる。ちょっとこれって異様な光景よね?本当に何があったの?私はすごく不安になった。


それは叔母様も一緒だったみたいで緊張した声で殿下に問いかけた。

「それで本日はどのようなご用件でしょうか?」

「これを見て欲しい」

アーチボルト殿下がそう言ってテーブルに置いたのは……

「あっ!」

思わず声が出てしまった……。それはあの小瓶だった。私がつくったマーロの樹液の結晶が入ってるあの小瓶。どうして?クローバー学園の寮の自室の机の引き出しの中に入れてあったのに……。私は口を押えたけど遅かったみたい。叔母様が心配そうに私を見てる。


「やっぱり……。これはエルシェのものなんだね」


マーロドロップ。あれから色々本を読んだり、友達や先生に聞いて分かったことがあるの。それは、この結晶が私が思っているよりも更に高価で貴重なものだったという事。ユースティン様が私にアドバイスしてくれた時に理解したつもりだったけど、私がこれをつくったことは私が思っていたよりもはるかに大事だったわ。これを欲しがってる人はとても多いらしいの。それこそ国家事業として研究されるほどに。私はそれを知ってからはポケットに入れて持ち歩くのをやめていた。さすがに捨てるなんてことはしなかったけど、ハンカチに包んでしまっておいたの。それなのに。


「どうしてそれがここに……」


「それはアマンダ嬢が教えてくれるよ」






アマンダの話(エルシェの感想)


「お義姉さんの様子を見て来て下さいな」

アマンダは寮監のマダムに言われ、渋々エルシェの部屋に来た。アマンダは義姉が病気らしいけれど知ったことじゃないって思った。(それ、本人目の前にして言っちゃう?)


「お義姉さま、眠ってらっしゃるの?それにしても何もない部屋ね……」

(余計なお世話よ。)アマンダはエルシェの部屋を物色し始める。(何?私の義妹は泥棒か勇者なの?私はここでアマンダを睨みつけた。)そしてアマンダはマーロドロップを見つける。

「なにこれ!すごいじゃない!!お義姉様ったらこんなものを隠してるなんて!これがあれば……!!」

アマンダはマーロドロップを持ち出す。マーロドロップを売って新しいドレスを買おうとしたアマンダは店主の通報で役人に捕まってしまう。(まあ、普通に泥棒なんだけど、店主さんはどうしてそれが分ったの?)


「わたくしがつくったのですわ!わたくしはエバーグリーン家の当主夫人になるんですから!」

最初はそう主張していたアマンダも、証明するために樹液を煮詰める作業をさせられたけど、何度やっても上手くいかない。厳しい追及の後、ついにアマンダは白状する。

「実はわたくしの義姉が持っていたものです……」








アマンダがクローバー学園の生徒だと名乗ったため、確認のためにこの時点で話は学園に知らされ、、そしてアーチボルト殿下の知るところとなった。私が寝込んでる間に何だかとんでもないことになっていたのね。


実はマーロドロップは個人の売買が最近になって禁じられ、王家が現存するマーロドロップを管理することになったそうだ。マーロの森を管理するエバーグリーン家にもその通達は行われており、マーロドロップが出来た場合には必ず国と王家に報告するようにと伝えられていた。学園にいるアマンダにはまだそれが知らされておらず、私に至っては知らせる予定もなかったみたい。アマンダが換金しようとした場所が貴族御用達の貴金属店だったので、店主がそのことを知っていたらしい。

「まだ法の施行前だから、アマンダ嬢がこの件で罪に問われることは無いよ。安心してね」

アーチボルト殿下は私と叔母様に微笑みかけた。


「この話は今のところ、僕のところで止めてある。それで確認なんだけど、これはエルシェ、君がつくったものだね?」

「……それはその……偶然できたもので……」

私は何とか言い訳を試みたんだけどダメだったわ。

「間違いないんだね?」

圧が、圧が強いです殿下……。

「…………はい」

「そう、じゃあエルシェ、僕と婚約しようか」

「…………は?」

今、殿下は何て仰ったの?殿下は頬杖をついてにっこりと微笑んだ。


「な、なんでっ?どうしてお義姉様なんかが、アーチボルト殿下と?!」

口を挟んだのはアマンダだった。

「エバーグリーン家の跡継ぎはわたくしですわっ!わたくしの方がっ!」

アーチボルト殿下がチラッと視線を向けるとアマンダの両腕をフロックコートの男の人達が掴んだ。

「な、なにをなさるの?」

焦るアマンダに殿下は冷ややかな視線を投げる。

「家族とはいえ、他人の物を盗んで平気な顔をしてるような人間がエバーグリーンの後継とはね……。ああ、エルシェとはもう家族ではないんだっけね。マーロドロップを売買しようとした件では罪に問われないけど、窃盗は別だよ」


「い、いいえ!お義姉様は家族ですわ!ちょっとお借りしただけですのよ?ねえ、お義姉様?」

真っ青な顔色で私に話しかけてくるアマンダに私も冷たく答えた。

「私、あなたに何かを貸した覚えはないわよ。そもそも話しかけるなって言われてるし」

「そんなっ!お義姉様っ!」


アーチボルト殿下が目くばせすると、アマンダは男の人達に部屋の外へ連れていかれた。

「待ってくださいっ!お、お義姉様っわたくしたち、たった二人の仲良し姉妹でしょう?」

廊下から叫び声が聞こえてくる。相変わらず声が大きいわね。


まあ、たぶん血は繋がってるのよね、半分は。でも……

「……あなたと仲良し姉妹だった記憶はないわね」

話しかければ無視されることが多かったし、たまに話しかけられれば買ってもらったおもちゃの自慢話だったり、今日はアレックスとどこへ出かけたとか、地元の学校の成績がトップだったとか、私は全然勉強ができないって、馬鹿にしてきたり……。うわ、思い返してみると、ろくなこと言われてないわね。


「アーチボルト殿下、出来れば穏便に済ませてください」

私は頭を下げた。

「…………情けをかけるのは良くないと思うけれど……」

「あの子が盗んだのは私が相手だったからだと思うので……。今回だけは」

「……分かった。エルシェがそういうのなら……。今回だけは調書に残すだけにしておくよ」

「ありがとうございます」

私はホッとした。アマンダが罪人になってしまったら、エバーグリーン家の森や工場で働く人達に影響が出てしまうかもしれないもの。


「さて、話を戻そうか。今現在、マーロドロップは確認されているだけで百個に届かない。しかもこれみたいに上質なものはほぼゼロなんだ」

殿下は小瓶を振って見せた。

「君は研究所で初日にもマーロドロップをつくっているよね?」

私は下を向いたわ。答えたくなかったから。

「今現在、マーロドロップをつくれるのは君一人だ。このことが知れれば、君の自由はほぼ無くなるだろう」

監視されて、マーロドロップをつくらされる日々ってことね。

「王家と国は君を逃がさない。国益のために。でもね、僕と結婚すれば僕が守ってあげられる」

「…………」


国益のため。そうね。確かにマーロドロップはこのアラゴ王国に莫大な利益をもたらす可能性を持ってる。私だってアラゴ王国の国民だもの。国のためになるならと思う気持ちはある。それにアーチボルト殿下はとても良い方だと思う。王子様と結婚なんて平民の私にとっては夢のようなお話だわ。私は喜んでいいと思う。でも……。私の心がそれを望まない。ユースティン様のお顔が浮かんでくるの。私はお返事をすることが出来なかった。


アーチボルト殿下は少し悲しげな顔で私に言った。

「少し、外に出ない?二人だけで話がしたいんだ。よろしいですか?」

殿下は叔母様に許可を求めた。

「エルシェ?」

叔母様が私に向かって尋ねた。

「……はい」






雪が積もった庭の片隅。叔母様の家の庭にもマーロの木が一本植えられている。叔母様がお嫁に来た時に旦那様が植えてくれた木で、まだ若い木だ。学園のお休みに私がここへ来ると木精さん達もついて来てこの木にいることが多い。アーチボルト殿下はその木を見上げて話し始めた。



「僕はね、ずっと君のことが好きだったんだよ」







ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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