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伏線にもならなかった宝具の行方

作者: いと


 世の中には重要な道具と言われていても、使うことなく処分される物がある。

 その重要度は人それぞれ。例えば思い付きで購入したダイエット器具はそれに分類される。部屋のお洒落オブジェになってしまい、ゆくゆくはホコリを被る悲しい末路を辿ってしまいます。

 そんな悲しきアイテムを買い取るのもワタチの仕事です。雑貨店『寒がり店主のオカルトショップ』という名前で暗い路地裏にあるものの、知る人ぞ知る隠れた名店です。

 雑貨店なので色々と面白いお守りも販売していますが、それだけでは商売なんてやっていけません。不要な物に付加価値を付けて販売するのもまた商売。将来的にはこんな暗い路地裏では無く、最低でも道路が目の前に見える場所に店を置きたいですね。


「こんにちはー」


 おや、お客様ですね。

「いらっしゃいませ」

「えっと、ここが『寒がり店主のオカルトショップ』で間違いないですか?」

「はい。そしてワタチが店主です」

「え、こんな小さな女の子が?」

 失礼ですね。確かにワタチは見た目年齢こそ十歳ですが、実際は結構な年齢を重ねています。少なくとも目の前でスーツを着た二十代前半の社会人よりは年上ですよ。

「それで、何の用ですか?」

「えっと、これを買い取ってもらいたくて」

「おや、買い取りですか。最近はダイエット器具が多いので、それ以外なら喜んで買い取りますよ」

「いえ、その、ダイエット器具では無いんです」

 ダイエット器具ではないにしろ、なぜ目の前のお客様の目が泳いでいるのでしょうか。まあ良いです。とりあえず布を取って中身を見ましょう。


 布を取ると、大きな剣が姿を現しました。中世のヨーロッパ辺りにある剣でしょうか。何かのお土産か、もしくは発掘した物とか?


「勇者の剣です」

「そうですか。勇者のええ!?」


 いやいや、意味がわかりません。勇者の剣!?

「えっと、俺、先週まで異世界に行ってて、いわゆる転生して勇者になったんですけど、こっちに戻ってきてこの剣の使いどころがなく」

「いやいやいや、情報過多です。まず転生とか言いました!?」

 意味不明が意味不明を生み出しています。いや、ワタチも『その手の』話は通じるので、百歩譲って転生は理解しました。ですが、勇者って何ですか!?

「ここしかお願いできなさそうなんです。タダでも良いのでとりあえず引き取ってもらえませんか?」

 ぐいぐいと勇者の剣を押し付けてくるスーツを着た男性。うう、そんな神聖な物を押し付けないでいただきたい。ワタチはこう見えて……こほん。

「とりあえず奥の客室に来てください。詳しい話はそこでしましょう」


 ☆


 客室と言っても畳の上にテーブルが一つあるだけの小さな空間。最低限の食器にお茶の葉とポットがあります。

「で、異世界に行った勇者さん。一から説明してください。ドバドバと話をされても引き取れるものも引き取れません」

「えっとですね、まず俺の名前は幸太郎と言います」

「ふむふむ」

「ある日突然トラックに当たって、なんか知らないけど神様に出会い、異世界を救ってって言われました」

「ふむふむ」

「色々冒険を重ねていき、最終的に魔王を倒すために必要な伝説の剣を手に入れました」

「それで?」


「うっかりそれを使わずに魔王を倒しちゃって、剣を持ったまま帰って来ちゃいました」

「なんで伝説の剣を使わないで倒せちゃったんですか!?」


 こういう時ってお約束で、伝説の剣を使うと凄く力を得るとかのバフがかかりますよね!?

「その、自慢では無いんですが、俺ってここではコアなゲーマーで、道に落ちてる石だけで中ボスを倒すとかを結構やっちゃうタイプなんです」

「それで?」

「最初に魔王と衝突した時、普段使っていた鉄の剣で良い感じにダメージが入ったので、そのまま……」

「魔王も魔王ですね!」

 なんという世界ですか。その世界を創った神は神失格です。というか魔王がいる時点で管理できていないわけですから、一度全人類に土下座して欲しいものですね!

「と言う事でこの勇者の剣を引き取ってください。地球では使いどころが無くて」

 やけに光り輝く剣を前にワタチは少し引いていました。この光りは少し苦手です。なんかこう、浄化されるんですよ。

「例えばキャンプの時の巻き割りとかで使えば良いじゃないですか」

「巻を粉砕しちゃうんです。普通の武器と違って力が千倍に増加するらしくて、うっかり落とすこともできないんですよ」

「そんなヤベー物品をこんな辺鄙な雑貨店の茶の間の机に置かないでくださいよ!」

 招いたのはワタチですが、それでも限度はありますよ!

「ですが、ここならあらゆる物を買い取ってくれたり、引き取ってくれるという噂を聞いたんです」


 間違いではありません。

 ここ『寒がり店主のオカルトショップ』は、怪しい雑貨店。売っている物は目玉に翼が生えた『空腹の小悪魔ちゃんキーホルダー』という不気味な物や、コウモリのはく製等。

 そしてワケアリ商品を買い取りもします。例えば、呪われた人形や悪魔の書籍等。ほとんどは偽物ですが、中には本物もあります。

「その、ワタチが扱っている買い取り商品は使わなくなったダイエット器具とかです」

「この勇者の剣、良い感じに重いのでダイエット器具になります」

「なりませんよ!」

 何言ってるんですかこの勇者は!

「というか、別の世界では勇者だったんですよね。もしかしたらもう一度転移とかして帰る可能性もあるんじゃないですか?」

「あ、それは大丈夫です」

「え?」


「その世界に住む全員の悩み事は全部叶えました。アフターケアもばっちりで、達成率的には百パーセントで魔王討伐に行きました」

「廃人ゲーマーですか貴方は!」


 道に落ちている石で中ボスを倒す人が異世界に転移すると、そんなことも起こるのですね。その結果ワタチの店にこんなにもヤベー商品が回って来るとは思いませんでしたよ。

「はあ、わかりました。とりあえずこちらで引き取りますが、一万円くらいで良いですか?」

「良いんですか!?」

「良いですよ。というか、逆に一万円という額に納得する辺り、本当に処分に困ってたんですね」

「そりゃ、はは」

 苦笑するお客さんに一万円を渡し、とりあえずお客様ということで店の外までお見送りすることにしました。

「ありがとうございます。店主さん」

「別に良いですよ。そういうお店です。というか貴方は地球に帰ってきて良かったと思っているんですか?」

「え、何でですか?」

「地球の、特に日本人は異世界という分野に憧れがあります。貴方は経験者ですが、行ったことが無い人にとっては憧れの土地だと思うのですが」

「あー、それはアニメの見過ぎです。あっちでは毎日が戦い。勇者としての仕事が終わったら用済み。得た能力もこっちでは使えない。なんというか、俺にとって異世界はそれほど良い物ではなかったんです」

 そういう世界だったんですね。

 確かに『ワタチの』元々住んでいた世界も、毎日魔獣がどこかに現れて、この地球と比べたら生きるのに必死な世界でした。

 一億人の人生の全てが良いというわけでは無い。仮にそこから百人異世界に行ったとしても、全員がハッピーエンドというわけではありません。きっとこの人は悪い世界に行ってしまったんですね。

「では店主さん、今度来るときは雑貨を買いに行きますね」

「お待ちしてますよ」


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