第98話 復讐者の目覚め
それから真耶達は1度宿に向かった。奏達は泣いたせいで目元が赤く腫れてしまった。しかし、何故か真耶はなんともなっていない。真耶曰く、アムールリーベの自動回復スキルが発動して勝手に治したとか。
まぁ、そんなことは置いといてだ。今は装備を整える必要がある。
今から行く場所は敵の本拠地。エンカウントすることを見越して装備しなければ。
「荷物をきちんと整えてから行くぞ。今回は少し多めに持っていけ」
真耶はそう言って支度を始めた。奏達もそれを見て支度を始める。
ポーション、予備の剣、真耶が作った魔道具、etc……
真耶はそれらの荷物を全てルーナの収納魔法に収納した。……ていうか、俺以外全員収納魔法が使えるんだが……
もしかして俺ってお荷物?考えてみれば、この中で魔法が1つしか使えないのは俺だけだ。だとしたら、1番弱いのは俺かもしれない。
魔法……使えなくてもいいように俺は魔道具を作った。あの魔道具は魔法を使えるようにする。
真耶は自分のステータスプレートを見た。そこには、やはり魔法が1つしか書かれていない。
物理変化、この世界に来たときに初めて手に入れた魔法だ。他の人達は皆魔法を使っていた。でも、自分だけが訳の分からない魔法で、使えなかった。
今でも異端者認定される可能性はある。もしかしたら、突然国から追放されるかもしれない。狙われるかもしれない。そうなれば、俺達に未来は無い。
どうせ、俺が奏達だけでも助けようと知らない人の振りをしても、奏達は許してくれない。一緒に殺されるだろう。
だったら、やっぱりこの力は隠すべきだ。アーサー達に狙われている以上、これ以上敵を増やす訳にはいかない。
「……くん……まーくん!」
「っ!?」
「もぅ!まーくん!そろそろ準備が出来たよ!」
「ん?あ、あぁ、そうか。俺も……出来てないな」
真耶はそう言って準備を始める。奏はそんな真耶を見て少しだけ不安な気持ちになった。いつもの真耶ならすぐに準備を終えて、自分達を急かしてくる。なのに、今日は遅い。
「ねぇ、まー……」
「マヤ様!」
『っ!?』
突如アロマが大声を出した。その声に、その場の全員が驚きアロマの顔を見る。
「おい、どうしたんだよ?」
「どうしたもこうしたもないですよ!なんで1人で考え込むんですか!?どうして私達を頼ってくれないんですか!?」
「は?なんだよ急に……」
パチィィィン!
急に乾いた音がなった。それと同時に真耶は頬に痛みを感じた。気がつくと、真耶はアロマにビンタをされていた。
「私が……私が好きなのは、こんなマヤ様じゃない!もっと強くてかっこよくて、それでいて悩んでいても顔に出さずずっと1人で考えて、結局自分一人で解決できなくて私達に頼んだら私達が盛大にやらかして、最後はなんやかんやいいながらもどうにかしてくれる……そして最後に私達にお仕置をしてくれる……そんなマヤ様が大好きなの!でも、今のマヤ様は全然違う!」
アロマはそう言って泣きながら怒る。真耶はその時、その言葉でハッとした。何をしていたんだろうと自分で思う。ついさっき奏達にあんなことまでしてもらっておいて、まだこんなうじうじしていたなんて。……本当に俺はダメダメになっていたようだ。
フフフ……フハハハハハハハハ!俺が俺じゃなくなる?バカを言え。休みたい?アホか。オタクに休みなどない。常に推しを追い続けるのがオタクだろ。こんな異世界というオタクにとって最高のシチュエーション。黙っていられるわけないだろ。
「フフフ……フハハハハハハハハ!!!目が覚めたよ。どうも俺が俺じゃなくなってたみたいだな。だが、もう俺は帰ってきた。ククク……楽しくなりそうだな」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。それを見て奏達は安心する。そして、満面の笑みを浮かべた。
フフフ、可愛い顔をしやがるぜ。全員後でいい事してやるよ。洗濯とか、めちゃくちゃ美味い飯を作るとかな。
真耶はそう考えて指を鳴らした。どこか違っていた世界。まるで自分の心や体にフィルターが掛けられていたかのようだ。昔の心は封印され、新しい、弱い自分に作り替えられた。多分マーリンの魔法だろう。多分シュテルもそれに気がついたんだ。だが、俺は帰ってきた。フィルターは壊れ、全てを取り戻した。
そう、全て間違っていたんだ。俺は安心して暮らすために世界を助ける?違うな。それだったら日本に帰った方が安心だ。俺は……奏達を幸せにする。そのために世界を救う。いや、それも間違っている。
そもそも世界を救う理由なんてない。ただ日本に帰れる方法を探せばいいだけだ。それも、ルーナやクロバ達全員を含めてな。
だったら何故俺は世界を救う?答えは簡単。俺は復讐者になればいい。俺をこんなことにしやがった奴らを殺せばいい。
「まーくん、行こう!」
「あぁ、そうだな」
真耶はそう言うと右目に掛る髪を退けた。そして、不敵でかつ少し恐怖を感じさせるような笑みを浮かべて言った。
「俺は、死の錬金術師……世界を救うために、世界を壊して創り変える者だ」
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