第97話 真実
女王様と呼ばれた偉い人は静かに真耶を見つめた。そして、何時でも殺せると言わんばかりの態度をする。
さらに、その場を埋め尽くすほどの殺気を漂わせた。その殺気を受けて、奏達は萎縮してしまう。
「あ……う……」
後ろからうめき声が聞こえる。そして、何故か足が濡れた。振り返ると奏達全員がお漏らしをしている。
そのせいで、足元には巨大な水たまりが出来ていた。
「あのなぁ、別に漏らすのは良いんだけどさ、姉貴は漏らすなよ。後で姉貴だけお仕置な」
「ふえぇ!?ゆ、許してぇ!」
そんなことを言ってすがりついてくる。……はぁ、本当に姉貴は俺より年上なのだろうか。実は妹だったなんてことはないよな。
真耶はそんなことを思いながら玲奈の頬をぷにぷにして引っ張ったり押したりした。そして、胸をしっかり揉むと不敵な笑みを浮かべた。
「や……やめてぇ……手犯さないで……」
「馬鹿か。姉を犯す弟がいるか。そんなことよりさ……やってくれたね。女王様……」
そう言ってほんの少しだけ殺気を強めた。その殺気に耐えきれなかったのか、周りの衛兵は吐いたり気絶したりする人が沢山出てきた。
実際のところ、奏達も耐えきれずに少しふらつきいてしまった。そして、真耶にしがみつく。クロバとフェアリルは耐えきれずに吐いてしまった。それに、さらに多くのお漏らしをする。
その場はカオスな状況になってしまった。だが、女王様はその殺気の影響を受けない。相当強い精神力を持っているようだ。
「やってくれますね。まさかここまでの力とは」
「やられたからやり返しただけだ。覚えておくことだな。相手に嫌なことをするということは、同じことをやられてもいいという覚悟が必要なんだぜ」
「覚えておきますわ」
2人はそう言って静かに火花を散らす。しかし、周りの人達は全く気づいてないようだ。いや、それどころじゃないと言った方がいいかもしれない。
真耶は少し強めた殺気を元に戻すと振り返った。そして、その部屋の出入口まで歩くと首だけ振り返って言った。
「お前ら行くぞ。……行ってやるよ。この世界を守るのは、俺の役目だからな」
そう言って部屋を出た。奏達はふらつきながら急いで真耶の後を追った。
「まーくん!……あ」
奏は走ってきていた。そのせいで途中で躓き転けそうになってしまった。真耶はそんな奏を途中で受け止めると優しく頭を撫でて言った。
「ごめんな。辛い思いをさせて。こんなこともうさせない……こんなことをするやつは、敵も見方も関係ない。誰であろうと殺す」
それが、俺の決めたことだ。たとえそれが自分だとしても、それでも俺は俺を殺す。それが俺のやるべき事……俺の、望みなんだ。
「マヤ様……ん!」
その時、突如アロマが抱きついてきた。不思議に思っていると、ルーナやクロバ、紅音にフェアリル、玲奈までもが抱きついてきた。
「おい、一体どうしたんだよ?」
「……マヤさん……いや、マヤ!」
突然叫ばれドキッとしてしまう。しかし、ルーナ達はそんなことは気にせず言ってきた。
「なんで……なんでそんなに辛そうな顔するの!?辛いことがあるなら相談してよ!変えて欲しいとこがあるなら言ってよ!なんでいつもそうやって1人で解決しようとするの!?」
「私達だって我慢してたんだよ!5ヶ月前だって1人で行って……何か策があったのかと思ったけど……心配だったんだよ!」
2人は泣きながらそう言ってきた。真耶はそんな2人が必死だからか、言葉を失う。
「マヤ様……私はカナデ様のためにあなたには笑っていて欲しかった。でも、今は違う。あなたが苦しんでるのを見ると、胸が苦しい。胸が痛い。逆に、あなたが楽しんでいると、笑っていると、胸がドキドキする。キュンキュンする。だから、辛い思いはしないで欲しい……」
「私は、転生前は真耶くんのことあんまり知らなかった。正直名前を見たことがある程度だった。でも今は違う。私、真耶くんのことが好きだよ。だから、そんな辛そうな顔しないで」
2人はそう言って優しい笑顔を作って見せた。しかし、目尻には涙が浮かんでいる。それに、目も少し潤っている。
「真耶……私のせいであなたの人生をめちゃくちゃにしてしまったわ。だから、こんなこと言っても信用出来ないかもしれない。でも、私はずっと真耶のことが好きだったわ」
そう言って力強く抱きしめてきた。その時真耶は気がついた。俺は、俺自身で自分の存在を否定していたのだと。ずっと、他人の記憶に残らずモブの人生を歩むのだと決めつけていた。
多分諦めていたんだと思う。それに、モブになることを望んでいたんだと思う。両親を殺してしまい、自分というからに閉じこもってしまった。
友達が犯されたという話を聞いて、さらに鍵まで閉めてしまった。自分を救ってくれるような、癒してくれるような親友の言葉も、全て自分を侵略する暴力になるのではないかと恐れ、自分の言葉という殻に閉じこもっていたのだと思う。
「お前ら……」
その時真耶は何も言えなくなってしまった。何かを言ってしまえば、これまでの自分を全て否定してしまうのではないかと思ってしまったからだ。
だけど、何も言わない訳にもいかなかった。ここで黙ってしまえば、奏達の意思すらも否定してしまうことになる。それだけは絶対に嫌だ。
「……いつかは、答えを出さなければならないと思っていた。だが、その答えを出すことが怖かった。まるで、自分自身を否定するかのようだったから。でも、違った。初めから自分のことを否定してしまっていたんだ。自分の人生には、世界には、自分だけがいなかった。それは俺の人生だけじゃない」
真耶は苦しそうに、それでもたんたんと話す。
「俺は……俺は、きっと嫌われたくなかったんだ。そして、忘れられたくなかった。お前らが大切だと言って、本当は自分が1番大切だったんだ」
そう語る真耶の頬には自然と涙が伝っていた。その時、奏が真耶の前に立った。
「良いの。だって、自分が大切じゃない人なんていないもの。たとえドMだろうと死ぬのは怖い。自殺志願者も、本当は死にたくないんだ。自分のことが嫌いな人や大切にしない人なんて、この世界に居ないんだよ」
奏はそう言って優しく微笑んだ。真耶はその笑顔を見て少し大粒の涙を流す。そして、奏に抱きついた。
真耶にとって、その笑顔はこの世界で……いや、生きてきた中で一番可愛い思い出となった。
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