第96話 新しい街
リスタの街を救った真耶の噂は瞬く間に世界中に広がった。しかも、それが広まったのは真耶が冒険者の街に向かっている時。だから、真耶は自分達が有名人になったことなど何も知らなかった。
さらに言えば、世界中の人々は真耶の事など何も知らなかった。あれだけ決闘だのなんだのしてきたのにだ。
そして、何も知らない真耶は半日かけて冒険者達の街まで飛んだ。さすがに冒険者の街と言うだけあって、街の警戒は厳重だ。それ故に1つ崩れれば壊れそうでもある。もう少し遊びを入れてもいいだろうに。
間が大切なんだよ。そんなに密集していたら範囲攻撃を食らった時に全滅だろ。
とか思いながら真耶は絨毯を下ろした。ここは、山の上だ。事前に魔法をかけるなどしておかないと酸欠になりかねない。
真耶はそれを奏達に言ってから出てくるように言った。そして、奏達が出てくるとすぐに街の門に向かって歩き始める。
「おい!止まれ!何者だ!?」
「冒険者だ」
「ふむ……それを証明できるのか?」
「ついさっきリスタの街を救ってきた」
そう言うと、急に驚いた表情をしてコソコソと話し始める。そして、ちょっと待っていろと言い街の中に入っていった。
真耶はこの展開を既に知っていた。だからこそこの後どうなるかもだいたい予想が着く。だが、なぜ知っていたのか気になるだろう。それは、大手ゲーム会社が制作した大人気RPGのストーリーの中にこれと同じ展開のものがあったからだ。
だから、この後1番の権力者の前に連れていかれ、異端者認定された挙句追われ続けることになるのもだいたい予想が着いた。だがしかし、今はそんなことが出来る状況では無い。世界は壊され支配されてしまった。
この世界の街のほとんどは呪いや制約をかけられている。それは、リスタの街を助けた時にわかった。
だとしたら、この街もバレてしまえば潰される可能性は高い。だから下手に怪しい人物を入れることは出来ない。だからといって怪しい人物を返すことも出来ない。
「この感じだと牢屋送りかなー……」
「おい!貴様!そこで何をしている!?」
唐突に後ろから声をかけられた。振り返ると冒険者達が並んでいる。
「待たされてるんだよ。ここの兵にな」
「待たされる……フンッ、まぁいい。俺達は先に行かせてもらう」
そう言って少し怒ると冒険者達は中に入っていってしまった。
「……いや、それ言わなくて良くね。入れるなら初めから入れよ。このカスが」
「まーくん、口調が荒いよ」
奏は真耶を叱るように言ってきた。それに対し真耶は、申し訳なさそうに落ち込む。そんなこんなしていると街の門番が来た。門番はどこか異様な雰囲気を醸し出している。
真耶は魔道具を袖の中に潜ませた。そして、何時でも不意打ちできるように構える。そして、門番は一切喋ることなく真耶を街の1番偉い人の前まで連れて行った。
「あなたがマヤですね。噂は聞きましたよ」
偉い人の前に来るとその偉い人は話を始めた。真耶はその偉い人を静かに見つめる。そして、神眼を発動した。
とてつもないステータスだ。スキルの数も異常に多い。そして何より身につけている装備が全て神器クラスの装備だ。この世界の人間ならまともにやり合っても勝てないだろう。
「それで、俺らになんの用が?」
「ふふ、そんなに警戒しなくても良いですよ。あなた達には少し頼みたいことがあります。それは、この国を収める謎の黒騎士を殺して欲しいのです」
「黒騎士?」
「はい。あなたはここがエレメントの国ということは知っていますね。この国を収める黒騎士がインベルの街の城にいるのです」
「そいつを殺せと?断る。お前らで殺せ」
「いいのですか?それだとあなた達は私達を拒むということになりますが」
「俺らを殺すか?」
真耶は不敵な笑みを浮かべてそう聞いた。偉い人はその問いを受け、少し考えると微笑み言った。
「無理ですね。私達全員で襲っても勝てないでしょう。だが、社会的に殺すことは出来る」
「そうなれば、俺は世界を壊す」
真耶がそう言うと、周りいた衛兵が急に殺気を出しながら武器を構えた。そして、何時でも攻撃できるように気を引きしめる。
真耶はその様子を見て背中の剣に手をかけた。
「その剣1つでこの数を相手にしながら守り切れるのですか?」
「まぁな。この剣なら出来るさ」
そう言って手をかけた剣はアルテマヴァーグでもアムールリーベでもなかった。これも、真耶が作った新しい剣。
簡単に言うなら、守りに特化した剣だ。いつ以下なるところからの攻撃も全て防ぎ、カウンターを繰り出すことが出来る。
さらに、常時魔力の防壁が張ってあり自分の気づかない攻撃すらも防ぐことが出来る。
まぁ、これは剣を抜かないと発動しないんだけどな。実際のところ、自動で発動する物理変化があるからオート防御は必要ない。
これはただの保険なのだ。自分が魔力切れにまで追い込まれた時に対する保険なのだ。
「そうですか、では死んでもらうとしましょうか」
偉い人はそう言って手を挙げた。その手が振り下ろされれば戦いが始まる。さて、どうしようか。ここで全員殺すか?だが、それをしてしまえばアーサー達に対抗する勢力がなくなってしまう。
それに、シュテルから何かしらの形で愚痴を言われそうだ。
「ね、ねぇ、まーくん……」
「マヤ様……だ、大丈夫なのですか……?」
奏達は口々にそう言ってくる。どうやら皆今の状況を心配しているらしい。そして、恐怖している。
まぁ、奏達は分かるが姉貴まで怖がる必要はねぇだろ。お前に関しちゃどれだけ修羅場をくぐってきたんだよ。
そんなことを思いながら偉い人の目を見た。真耶達をいつでも殺せると言わんばかりだ。
「愚かな……」
「え?」
「フフフ……フハハハハハハハハ!やめとけ。どうせお前らじゃ俺には勝てない。”無駄な足掻きは止めろ”」
真耶がそう言うと、衛兵は全員力が抜けたかのように倒れ込む。どうやら限界だったみたいだ。
「馬鹿な奴らだ。実力差があるのを理解していない。いや、理解していたから一瞬で終わったのか。部下を動かすのなら相手の実力をちゃんと測った方が良いぞ。エレメントの国のインベルの街の女王様」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
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