第90話 休養
「そういえばだが、マヤ、君はこれからどうするつもりなんだ?」
シュテルはそう聞いた。すると、突然真耶は顔を暗くして自分の手のひらを見つめ始めた。
そして、1度絨毯を見て自分の胸に手を当てて辛そうに言った。
「……少しの間森にでも隠れて過ごすよ。ゆっくりしたいしさ」
その言葉はシュテルにとって驚きのものだった。
「戦いを放棄するとでも言うのか!?あの敵はどうする!?この世界がめちゃくちゃになってもいいと言うのか!?」
思わずシュテルは怒鳴りつけてしまった。しかし、真耶はそんなことは全く気にせずシュテルに言う。
「もう……戦うのが嫌になったんだよ」
「っ!?ふざけるなよ!」
シュテルはそう言って胸ぐらを掴む。そして、目を見つめていおうとした。しかし、真耶は目を合わせようとしない。
「マヤ!私の目を見ろ!本当にそれで良いのか!?彼女達がいいと言うとでも思ったのか!?」
「思うわけないだろ」
「だったらなぜ……」
「うるせぇな!奏達がいいか悪いかは関係ねぇんだよ!そもそも俺はこの世界とは関係がない!奏達のために色々してきた。それだけだ!だがな、今度の敵はそんな考えでどうこう出来るような敵じゃないんだよ!これ以上戦えば今度は奏達が殺されるかもしれない!逆に、俺が傷つけば奏達は悲しむだろ!」
真耶はシュテルの胸ぐらをつかみ返してそう怒鳴りつける。シュテルは初めて真耶が怒鳴ったのを聞いて、思わず後ろに倒れる。
「そうか……すまなかった……」
「いや、別にいいさ。それに、俺も少しは強くならないといけないしな」
真耶はそう言って振り返ると絨毯の方まで歩いていく。その時、ふとシュテルの目にあるものが映りこんだ。
「おい、その胸の傷はなんだ?」
「胸?あぁこれね。これはアロンダイトで刺された時の傷だよ。時眼ですら傷を治すことが出来なかった。傷口が開くのを止めることすらな。1種の呪いに近いものだろう」
真耶はそう言って胸の傷を見せた。そして、すぐに戻すとシュテルにほほ笑みかける。
「そうか、もう決めたんだな……じゃあ、君が帰ってくるまでの間は僕がこの世界を守るよ」
シュテルはそう言って笛のようなものを取り出してきた。
「これは、通信笛と言う。もし、君が私の力を必要としたら呼んでくれ。逆に、私が君の力を必要とした時は呼ぶ」
「あぁ、分かったよ。いつでも呼んでくれ」
真耶はそう言って絨毯を元に戻した。そして、玲奈とリルを担ぎあげ絨毯の中に連れていく。
そして、真耶は絨毯の中から出てくるとシュテルに言った。
「途中まで乗せていくよ」
「いや、いい。ここでお別れだ」
「そうか。じゃあな」
真耶はそう言って絨毯を進めた。そして、遠くの彼方まで飛んで行ってしまった。シュテルはそれを見届けると、直ぐにその場を後にした。
そして、その日からこの世界は混沌に包まれた。
━━それから5ヶ月後……
真耶は1人立っていた。後ろには自分が作ったログハウスがある。そして、その家の中からは楽しそうな声が聞こえてきた。
真耶はそのログハウスを背中に森の中心部を見つめ続ける。そして、静かに森の方まで歩き始めた。
「まーくん、どこに行くのー?」
「ん?あぁいや、なんだか嫌な気配を感じるなって思ってさ」
真耶はそう言うが、奏は分かってないと言った感じで首を傾げる。真耶は少し注意しながらも奏の元に行き頭を撫でた。
「ま、俺らには関係ないか」
そう言って優しく頭を撫でた。それが気持ちよかったのか、猫のように甘えてくる。
真耶はそのまま奏の手を繋ぎ家の中に戻った。
「あれ?マヤさんどこに行ってたんですか?」
「外でたそがれてた」
「なんですかー?それー。でも、マヤ様らしいです」
ルーナとアロマはそう言って笑う。真耶はその笑顔を見て優しく微笑む。これはいつもと同じだ。そして、その後クロバがご飯を作って持ってくる。
「皆ー、朝ごはんだよー」
ほらな。やっぱりだ。ここまでがいつも通り。そして、ご飯を食べ始めると玲奈がだいたい飲み物をこぼす。
「うきゃあ!」
ほらな、牛乳をこぼしやがった。
「ほら、雑巾だ。あとタオルもあるよ」
真耶はそう言いながらタオルと雑巾を投げ渡した。これもいつも通りだ。そして、フェアリルはだいたいご飯中は静かだ。何も喋らないのがいつも通り。
「……いつも通り……か」
初めは嫌だったんだけどな。意外と悪くは無いか。それに、感謝もされたからな。そう言えば、あの日のことを説明しておこう。
あの日俺達はこの森に向けて絨毯を飛ばした。だが、その途中で結花達を見つけた。結花達は葵を抱えて逃げていた。
俺はそんな結花達に近寄って話をした。俺達と一緒に来るか?と聞いたが、結花達はやめとく、と言った。だから、あの事件の時に起こった時の事実を書き換えた。技の試し打ちのついででな。上手くいったよ。葵が犯された事実はなくなった。だから感謝されたんだ。
だが、俺はその時に分かった。新しく手に入れた目は扱いが難しい。それに、使い過ぎれば俺は死ぬ。
真耶はそっと心の中でこれまでを振り返った。そして、その場で立ち家の外に出る。そして、左目を見開いた。その目には円形の模様が浮かび上がり青白い光を放っている。その光はまるで炎のように揺らめいでいる。
「フッ……デジャブかな。確か、この世界に来た時もこんな感じだったな。あーあ、楽しかったんだけどなぁ……」
そう呟いて家の方を見る。その家は真耶が建てた家だ。アダマンタイトを少し使っている。だから、強度は他の建物より高い。多少は揺れたり風が吹いたりしても大丈夫だろう。
「やるか……フッ、いつも通りの日常は眩い光によって……壊された」
真耶がそう呟いた時、目の前から白い光を放つ球体が迫ってきていた。
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