第88話 真耶の死
しばらくすると風は収まった。玲奈達は周りを確認しながら外に出てくる。
「収まったみたいね……」
「なぁ、マヤはどこに行った?」
シュテルはそんなことを聞いてきた。たしかに真耶が中に入ってきたのを見てないし、絨毯の上にもいない。
その瞬間、急に不安な気持ちが押し寄せてきた。そして、すぐに真耶の捜索を始める。
「真耶!出てきて!返事をして!」
「マヤ!どこにいるんだ!」
2人は大声を出して呼ぶが返事は無い。玲奈は泣きながら全力で探した。その時、突如肩から声がした。
「えっ!?」
「ぷはぁ!やっと出られました。もぅ、マスターったら荒っぽい人です」
そんなことを言って玲奈の肩からリルが出てくる。どうやら真耶が玲奈の肩の中に逃がしていたらしい。リルは出てくるなりいきなり周囲を見渡し始めた。
「ね、ねぇ、あなたは一体何なの?」
玲奈は素朴な疑問をぶつける。それに対しリルは玲奈の肩の上でポーズを取ると、あれを言った。
「よくぞ聞いてくれました!私は魔法少女リルちゃんです!」
自信満々にそう言うが、玲奈は頭が着いていかず固まってしまった。そのせいで、リルは少し不機嫌になり落ち込む。玲奈は一瞬で思考を巡らせ何とか意識を取り戻すと、リルを慰めた。
「おい!それどころじゃない!マヤを探せ!」
後ろからシュテルの声がする。シュテルは少し怒ったような声でそう言ってきた。玲奈とリルは少し反省して真面目に真耶を探すことにした。
しかし、リルにとって真耶を探すことなど造作もないことなのである。なぜなら、真耶
とリルは共鳴し合っているからだ。
真耶とリルは絨毯を通して魔力の波長を合わせることに成功した。それだけではなく真耶の魔力を使って魂を留めているような状況である。だから、魔力が1番共鳴するところに真耶がいるのだ。
「という感じで探したらあそこにいるとわかりました」
リルはそんなことを言う。2人はリルが指を指した場所まで行くと、何も無かった。そこだけぽっかりと穴が空いたようになっている。しかし、そこには唯一木が生えていた。2人はその木に近寄ってみると、ちょうど2人の死角になっていたところに真耶が眠っていた。
「真耶!真耶、真耶、起きて!真耶ぁ!」
「おい、なんか様子がおかしいぞ」
2人は慌てて真耶に駆け寄る。そして、胸に耳を当てた。全く音がしない。脈も無い。
「ね、ねぇ、これって……」
その時、シュテルが異常に震えるリルに気がついた。
「どうしたんだ?」
「ま、マスターが……マスターの魔力が感じられない……」
『っ!?』
その言葉に全員驚愕する。心音は無い。脈も無い。魔力も感じられないとなると、答えはただ1つ。
《《真耶は死んだ》》のだ。
3人はその場で呆然と立ち尽くす。玲奈は目から大粒の涙を流した。その涙は真耶の上に落ちるが、テレビや漫画のように真耶が復活することは無い。
「なんで……なんで真耶は死んじゃったの……!?なんで傷が治らないの!?」
玲奈は泣きながらシュテルの襟元を掴んだ。シュテルは分からないと言った様子で顔を背ける。
その時シュテルは気がついた。真耶の体の傷が少し治り始めていることに。
「何故だ!?マヤはもう死んでいるというのに……」
「まさか!?」
リルはなにかに気づいたように真耶の体の上に乗る。そして、心臓の上に乗った。やはり鼓動は無い。呼吸も無い。魔力も感じない。だが、別の何かを感じる。
ヒンヤリとして、かつどくどくと脈打つのに似たようなものを感じる。そして、熱い。ヒンヤリとしてるのに熱いというのは矛盾があるが、そう感じてしまう。
その何かは段々とたくましくなっていく気がした。リルはそっと真耶の胸に手を当てた。硬くてたくましい。しかし、心臓は動いてない。なのに、熱い何かを感じる。
リルは急に舐めたくなって、舌を出した。そして、真耶の胸を少し舐める。
「しょっぱい……でも、美味しい……」
どうしてか分からない。でも、無性に舐めたくなる。理由はない。だが、体が勝手に動いてしまう。そして、それはリルだけじゃ無かった。
「ま、まやぁ……」
玲奈も顔を紅くして真耶を見つめる。そして、顔を近づけ舌を出した。そして、今度は真耶の腹を舐める。
「しょっぱい……でも美味しい……」
最初はフルフルで、だんだん硬くなってたくましい。なんでこんな気持ちになるかは分からない。でも、何故か無性に舐めたくなる。
「まさか……洗脳魔法か!?」
シュテルはそう思って周りを見渡した。しかし、どこにも人はいない。それどころか、周りには木々も無かった。全てなぎ倒されている。
シュテルは尚更不思議な気持ちになった。どうしてこんなに真耶を舐めようとするのだろうか。そういうシークレットアイテムでも使ったのだろうか。そんなことを考えてしまう。
「っ!?なんで!?」
その時、突如リルが声を上げた。シュテルはすぐにリルの元まで行く。すると、リルは真耶の胸を指さしながら慌てていた。
「一体どうした?」
「ま、マスターの心臓が、動いて……!」
「は?何を言って……っ!?」
シュテルはボヤきながら真耶の胸に耳を当てた。すると、音がする。ドクンドクンという音が耳の中に響く。
シュテルはその音を聞いて言葉を失った。
《《真耶は死んだ》》……さっきまでそう思っていたのに、まさか生きていた。いや、あの時心臓は確実に止まっていた。
だから、生きている確率はかなり少ない……いや、無いはずなんだ。胸に穴を空けられ心臓を潰された。かつ、右腕を切り落とされている。
この状況で生きていると考える方がおかしい。だが、真耶は生きていたのだ。いや、もしかしたら生き返ったのかもしれない。
それだったら納得が行く。だが、どうやって生き返ったのか、次にその疑問が来る。シュテルがそんなことを考えていると、真耶の左目がうっすらと開いた。そして、その目に映っていたのは、ピンク色に光るハートだった。
読んでいただきありがとうございます。感想などありましたら気軽に言ってください。




