第85話 玲奈の気持ち
一方その頃結花達は……
「あ、葵!葵!大丈夫なの!?」
何とか迷路を攻略し葵を見つけた。葵は裸にされて十字架のようなものに磔にされていた。
結花は仄羅に見ないように言いながら葵を助ける。葵はなにか嫌な思い出を思い出したかのように怯えていた。そして、その目からは光は失われ、魂が抜けたようになっていた。
結花はすぐに魔法で回復をさせた。結界術士とはいえ、仮にも勇者パーティ。それくらいのことは出来る。
しかし、葵の表情は変わらない。
結花は少し考え、仄羅に葵を担いでもらうと、すぐにその場から離れた。
そして真耶達は……
カキンッという甲高い音が鳴り響いていた。
「っ!?クソッ!遅かったか」
真耶は少し呟いてその場から離れようと後ろに飛び退く。しかし、途中でとてつもない衝撃波をくらい、炎の壁まで吹き飛ばされた。そして、そのまま炎の壁の中に突っ込む。
「カハッ!グァッ!ガッ!」
真耶は衝撃波で100メートルほど吹き飛ばされる。そして、炎の壁の中を突き抜けたせいで服に炎が引火してしまった。
「チッ……」
真耶は急いで服をぎすてる。幸いなことに、ズボンや下に来ていたシャツには引火しなかった。だから、上着を脱ぎ捨てるだけで良かった。
「やられたな。ちょっとしか見えなかったけど最悪な文字が見えちゃったよ」
そう言って目の前を見据えた。今は夜だ。そして、目の前には黒い炎があり明るいはずがない。なのに、目の前は謎の光で輝いていた。
「お待ちしていましたわ」
玲奈の声が聞こえる。そして、その後すぐに聞いたこともない声が聞こえたきた。
「待っていた?どういうことだ?なぜ貴様のような悪に満ちたものが我らを待つ?殺されたいのか?」
「いえ、少々貴方様方の力をお借りしたく、呼んだ所存にございます」
「そうか。ならもう貴様に用はない。死ね」
「っ!?」
突如目の前で爆発的に魔力が増幅した。そして、とてつもない圧力を感じる。
真耶がその場で固まっていると突然玲奈が飛んできた。それも、右手と右足、左目を失っている。体が少し帯電していることから、雷系統の技を使われたのだろう。
「姉貴!?クソッ!ちょっと痛むが我慢しろよ。”物理変化”」
真耶が魔法を唱えると玲奈の傷が治っていった。失った右手と右足、左目も修復している。
「……ありがとう……」
「ったく、なんなんだよ?あいつらは」
「……あの方達は……っ!?」
突然体が軽くなった。まるで無重力空間に入ったのかと思うほどだ。理由はすぐにわかった。真耶だ。真耶が突然玲奈の体をお姫様抱っこのように持ち上げ逃げ出したのだ。
「ちょっと、一体何するのよ」
「うるさい、黙ってろ。お前のせいで矛先が俺に変わったんだよ。”物理変化”」
真耶はそう言って雷の鳥を作り出し前に飛ばす。雷の鳥は光の速さで真っ直ぐ飛んでいった。
玲奈は真耶に言われたことを少し考え込む。そして、言ってきた。
「私のせいじゃないわよ。元々あの方達は貴方を殺すつもりだった。なんせ、真耶を殺すために呼んだんだから」
そんなことを言ってくる。なんともはた迷惑なやつだ。完全にとばっちりじゃないか。
「ふふ」
急に玲奈が笑いだした。そして、優しい笑顔で真耶の顔を見る。そして、優しい口調で言ってきた。
「今の真耶すっごく可愛いね」
「は?何言ってんの?意味わからん」
「もぅ、そんなツンツンしないでよ。いや、ツンツンして当たり前よね……」
そんなことを言いながら顔を俯かせる。
「……」
そんな玲奈を見て真耶は小さくため息をついた。そして、右手で玲奈を持ち上げ左手を玲奈の顔の前に出した。
「ん?どうし……ふがっ!?」
急に真耶が玲奈の鼻を押してきた。そのせいで玲奈の鼻は上に上がり、豚のようになる。
「あのなぁ、言いたいことがあるならちゃんと言えよ。お仕置なら後でしてやるから」
そう言って真耶は手を離した。玲奈の鼻は元に戻ったが、少し赤くなっている。そして、少し顔を明るくして真耶の目を見つめた。すると何故か悲しくなって涙が出てくる。
「ごめんね……ごめんね!真耶!」
玲奈は泣きながら真耶に抱きついた。そして、泣きながら何度も謝る。
「ごめんねぇ!私……私……!本当は真耶のことが大好きなの!お姉ちゃんだからこんな気持ち持っちゃったらいけないと思ってたのに、真耶のこと好きになっちゃったの!なのに、真耶にあんなことしちゃって……!」
玲奈は泣きながらそう言った。真耶はそれを見て少しだけ目を瞑ると、小さくため息をついた。
「はぁ……アホくさ」
「っ!?……何よ……真耶には分からないわよ!友達が犯されていくのを見るのも、あなたのことが好きなのに、あなたを突き放さなければならない私の気持ちが!あなたに分かるわけないよね!」
「あぁ!分からねぇさ!そうやって好きだっていう気持ちを抑え込むお前がな!俺やっとわかったよ。なんで姉貴がこんなことになったのかがな。俺のせいなんだろ。覚えてるか?あの時のあの言葉を」
その時、ふと思い出した。あの時の言葉、それは私があの事件から生還した日、落ち込んでいる私に真耶が言ってくれた言葉。
『姉貴、おかえり』
『ただいま……』
『……姉貴、言いたいことがあるなら言え。やりたいことがあるならやれ。自分に嘘はつくな。それは、死ぬことに等しい』
真耶はそう言った。その時は、あの男を殺すことしか考えてなかった。だからこんな気持ちになることは無かった。
でも、やっとわかった。なんで真耶がそう言ったのか。きっと私を守るためだったんだ。だからあんなことを……
「真耶……あなた……っ!?」
突然真耶が玲奈を投げ飛ばした。玲奈は不思議に思って真耶を見ると、真耶から青く光るもう1人の真耶が飛び出してきた。
その真耶は落ちてくる玲奈をキャッチするととてつもないスピードでその場から逃げ出す。青く光っていない真耶はアルテマヴァーグを引き抜くと高速の連撃を繰り出す。すると、その2秒後にとてつもない強風がふいた。
「きゃあっ!な、なんなの!?」
玲奈は思わず情けない声を出した。そして、青くない真耶の方を見た。真耶はその場で動かなくなって固まっている。
「真耶……っ!?」
よく見れば動かないんじゃなかった。真耶は、身体中に無数の傷を負っている。それに、腹の当たりを大きく切り裂かれていた。
「まやぁぁぁぁぁぁ!」
玲奈は泣きながら叫んだ。しかし、青く光る真耶は振り返ったり止まったりすることなく走り続ける。真耶の姿は段々と見えなくなっていった。
「ちょっ、そんな、戻ってよ!」
玲奈はそう言ったが、青く光る真耶は首を振るだけだ。玲奈は降りようともがき始めたが、降ろしてくれない。
そうこうしていると、遠くの方で光る何かを見つけた。先程真耶が飛ばした雷の鳥だ。その鳥がいる場所には広げられた謎の絨毯があった。
「これって……私が真耶にあげた……」
「ぷはぁ!もぅ!マスターが丸めるから出てくるのに時間がかかったです!」
そう言って絨毯の中から真耶の部屋にあった美少女フィギュアのような小さな女の子が出てきた。
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