第84話 玲奈の過去
「は?嘘だろ。逃げたって……っ!?」
そんなことを言っていると、玲奈は剣を構えて攻撃してきた。煌めく白刃が真耶を襲う。真耶はその刃をスレスレのところで回避した。
「おいてめぇ!何しやがる!」
真耶は半ギレでそう聞く。すると玲奈はクスクスと笑って気持ちの悪い笑みを浮かべながら言ってきた。
「あんなの嘘に決まってるわ。馬鹿じゃないの?惜しかったわ。あとちょっとで殺れたのに」
そう言って笑う。真耶はその言葉が無性に腹を立てた。しかし、むやみに突っ込んだり怒ったりしない。冷静さを欠いてしまえば相手の思うつぼだ。
それに、なぜか玲奈といると調子が狂ってしまう。いつも通りの冷静な感じが出せない。
ほら、もっとこう、クールな感じを出さないといけないのに。
「なぁ結花、今の俺ってクール?」
「はぁ?何言ってんの?まじで意味わかんないんだけど」
おっと、おかしなことをしてしまった。どうやら冷静じゃないみたいだ。ここは一旦心を落ち着かせよう。
「隙だらけよ!」
玲奈の声が聞こえた。真耶は目を瞑って静かに構える。そして、襲いかかる白刃を全てスレスレのところで回避した。
「っ!?……やっぱり真耶にこういうのは効かないね」
「当たり前だろ。いつ何が怒っても心を乱さない。それがオタクだ」
真耶はそう言ってアルテマヴァーグを横に振り払った。アルテマヴァーグから波動が放たれる。その波動は玲奈に向かって飛んで行った。
玲奈はその波動をジャンプして避けた。すると、波動は玲奈の足元を通り過ぎ後ろの炎にぶつかる。すると、その炎は切り裂かれ再び裂け目を作った。
「よし、お前らはあそこから外に出ろ」
「いや反対側にあったら無理でしょ!」
「結花、俺に任せろ」
「え?」
急に仄羅が男らしくなった。そして、急に拳を構える。この構えは正拳突きだ。仄羅は構えるとすぐに魔力を拳に溜め始めた。
「”波動拳”」
仄羅は全力で炎を殴る。すると、炎は仄羅の拳にギリギリのところで当たらず波動により裂け目を作った。
「こんな感じか?」
「うん。そんな感じそんな感じー」
「感謝するよ」
そう言って仄羅な結花を連れて出ていった。一体なんだったんだ。あれほど戦うと言っておきながら出ていくとは。
いや、逆に邪魔が入らなくなって良かったのかもしれない。それに、初めから無理だと思ってたんだよ。
「じゃあ、やり直そうか」
「そうね」
2人は半分呆れながら戦いを初めからやり直した。
結花達は外に出た後すぐに葵を探した。しかし、見つからない。炎の外に出たからと言って、まだ大きな炎の壁の中にいる。下手な動きもできない。さらに、その中は迷路のようになっている。結花達は地道に探す気がなかった。
真耶は戦いをやり直して、調子が良くなったのか動きが鋭さを増していく。
「あら、何故かしら?当たってないのに切られたわ」
「んー、まぁそういう技だと思ってくれたらいいよ」
「ふふ、適当ね」
そんな他愛の無い会話をしながら攻撃を続ける。2人は攻撃を避けながら攻撃を当てに行く。この動きをただひたすらに続けるだけだった。
状況が変わったのはそれから五分ほど経ってからだった。突如玲奈は自分の体に異変を感じた。見ると、何かが足に刺さっている。
「しまった!毒……!」
「もぅ遅い。あと、毒じゃない。ただの水酸化ナトリウムだ」
そう、毒では無い。ただの水酸化ナトリウム……それも大量の。あれだけの量のアルカリ性を体に注入されれば異変は起きる。まぁ、殺すことは出来んがな。
「はいもう終わり。さよならだ」
真耶はそう言って剣を縦に振り降ろした。しかし、その刃は玲奈には当たらない。ギリギリのところで避けられてしまう。
「はぁ、またかよ。あのなぁ……」
「ねぇ、真耶。あなたに聞きたいことがあるわ」
玲奈は真耶の言葉をさえぎって話しかけてきた。真耶は少し驚いたが、真剣な眼差しで見てくる玲奈を見て話を聞く。
「なんだ?」
「ある空間に男女15人ずつ閉じ込められたとするわ。そして、そこから生きて出るにはそこにいる人達を皆殺しにするか、性行為……つまりセッ○スをするしかないと言われたらどうする?」
そんなことを聞いてきた。
「は?バカか?なんだよそれ?」
「いいから答えて」
玲奈は真剣な眼差しで見てきた。冗談ではないのだろう。真耶はその問いに対し全く考えることも無く言った。
「愚問だな。答えは初めから決まっている。だが、先にお前の答えを聞く。お前はどうするんだ?」
真耶はそう聞いた。すると玲奈はこれまで以上に顔を暗くして重たい空気を醸し出しながら話し始めた。
「私は……皆殺しにするわ」
静かな空間にその声は重く響き渡った。
「ねぇ真耶、あなたにわかるかしら。目の前で友達が犯されていく恐怖が。友達は散々犯されて魂が抜けたようになったわ。でも、それ以上に次は自分がされるという恐怖が体を襲うの」
玲奈は暗黒に満ちた表情で話を進める。その時真耶はあることを思い出した。あれは中3の頃の話。俺は奏とその友達と一緒に遊園地に遊びに行った。その時玲奈も来ていたらしい。
そして、その日、玲奈達は誘拐された。奏の友達も一緒に誘拐された。俺と奏はたまたまバスに乗れなかったので誘拐されなかったが、玲奈達はバスに乗ったせいで誘拐された。
これは、その奏の友達が目の前で見てきたことらしいが、本当かどうかは分からない。なんせ、奏が言ってたことだからな。まぁ、それでも確認ついでに話しておこう。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━あの日、俺達が乗らなかったバスは進路を変えてある廃ビルに行ったらしい。なぜわかったのかは、実際に救出したのが俺だからだ。
友達は気がつくと見知らぬ部屋にいて、テレビがあったそうだ。その中には人がいて、その人はこう言った。
「今からあなた達男女15人はセッ○スをするか皆殺しにしてもらいます。逆らうものは死んでもらいます」
こういうものだった。その言葉を聞いた友達はたまたま隣にいた友達2人を守ろうとしたらしい。しかし、女子が2人いたからか守りきれずに犯されたそうだ。まぁ、その友達も助かるために友達とやったらしいが、2人はカップルだったから良しとしよう。
友達は犯されていく友達を見て何も出来なかったと言っていた。犯されたあとは魂が抜けたように倒れ込み局部を隠すことも無く白い何かを垂らしていたそうだ。
あぁ、今思い出したが、その犯された友達は恋峰葵だったな。
そして、友達が話してくれたのはそこまでだ。いや、正確には奏が話してくれたのがそこまでだ。それ以降は有耶無耶にされた━━━
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だが、今答えがわかったよ。ニュースでは1人死亡者が出たと言っていたが、殺したのは玲奈だったんだ。俺はテレビに映った人だと思ってそいつをぶちのめしたが、違っていたようだ。
「ねぇ、もういいでしょ。あなたの答えを聞かせて」
「フッ、だから何度も言わせるな。愚問なんだよ」
「そういうのはいいから答えて」
「……簡単な話だ。皆殺しにもしないしセッ○スもしない」
「じゃあ死ぬの?」
「それは違うな。死ぬわけじゃない」
「じゃあどうするってのよ!?」
「そうならないように助け……いや違うな。そうならないように、テレビに映ったやつを真っ先に殺す。そして、その部屋を破壊する」
その答えは、とんでもなくぶっ飛んでいた。そんなことできるはずもない。なのに、真耶は自信満々で言う。
「どうやってするのよ!?」
「テレビがあったんだろ。その配線を使って爆弾を作ればいい。俺は常にそういう道具を持ち歩いていたからな」
その言葉に驚いて声も出なくなる。
「だから愚問だと言ったんだ。もうお前じゃ俺に勝てない。諦めろ」
真耶はそう言って剣を突き出してきた。
「そうかもね。でも、負ける訳にはいかないのよ!」
玲奈はそう言って地面に魔法陣を描き始めた。
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