第83話 真耶に無い力
「日本に帰る?あなた、本当に召喚者なの?」
「だから、さっきからクラスメイトだっつてんだろ」
真耶は半分呆れながら言う。結花は少し驚いたような表情をした。真耶なそれを見てため息をついた。
「まぁ、なんでもいいけどさ本当に帰ってくれないかな?」
「何度も言ってるけど嫌よ!」
そう言って手を振り払うような仕草をした。真耶はそれを見て少し考えると、アルテマヴァーグに手をかけた。
「どうしてもついて行くって言うなら力づくでも止める。それか、結花。お前がそこで裸で土下座して俺の剣を舐めるなら良いぜ」
真耶そう言って地面を指さした。結花は顔を真っ赤に染めると怒りのオーラを醸し出す。
「はぁ!ふざけないでよ!」
「じゃあ帰れ。足でまといだ」
真耶はそう言って振り返った。そして、背中のアルテマヴァーグを抜く。そして、振り上げた。
真耶はアルテマヴァーグに少しだけ魔力を込める。魔力は無駄遣いしたくない。だから、結花を力づくで止めるなんて言うのは嘘だ。
真耶は少し結花から目線を外した。そして、仄羅を見つめる。仄羅は静かに2人を見つめるだけだった。だが、その瞳には熱い何かを感じる。
だが、熱い何かを感じるからと言って中にいる玲奈と戦って勝てる訳では無い。勇気と無謀を履き違えてはだめだ。
「……」
真耶は静かに剣を下ろした。そして、静かに2人を見つめる。2人は本当に行く気なのだろうか。そんな考えが頭をよぎる。
だが、ここで行くことを許してしまえば犠牲者を増やすだけだ。そんなことはさせない。それに、奏達に文句を言われそうだ。
「ねぇ、中にあなたの敵がいるんでしょ。その人はあなたより強いんでしょ」
はぁ?なんでそうなる?こいつは馬鹿なんじゃないのか。ついそんなことを思ってしまった。
「なんでそうなるんだよ」
「だって、私達をかばいながら戦えないってことは、1人でもきつい相手だからなんでしょ」
あぁ、なるほど。そういう事か。だが、その考えはおかしいぞ。多分戦ってきた回数が少なかったんだろうな。
「それは違うな。俺一人なら楽勝できる。だが、お前らがいると人質に取られるかもしれない。それだけじゃない。お前らを集中攻撃するかもしれない。そうなればお前らを助けることは出来ない」
それに、中に人がいる。多分こいつらがここに来たのも玲奈のせいだろう。玲奈は葵を連れ去ることでこいつらをここに呼んだ。そして、俺と一緒に中に来るように仕向けた。そうなれば俺の戦力は圧倒的に小さくなる。
だから、なんとしてでもこいつらを行かせる訳にはいかない。やっぱり眠らせるべきだろうか?いや、玲奈に殺される可能性がある。それはやめておこう。
「……ねぇ、自分のことは自分で守るわ。それならダメなの?」
「守れるのか?こんな炎を作り出すようなやつだぞ」
「……私は結界術士よ。守りには自信があるわ」
「自信があるだけじゃだめだ。確信がないとな。もう一度聞く。お前はこの黒い炎を防げるのか?」
真耶の問いに少し顔を俯かせた。そして、少しだけ涙を流す。
「泣いても行かせんぞ」
「……えぇ、わかってるわ」
「そうか、なら答えろ。お前はこの炎を防げるのか?」
真耶は同じことを何度も聞く。その様子はまるで、壊れたロボットのようだった。だが、今この状況でそれをツッコム者などいない。
真耶は結花を見つめた。その横では仄羅が静かにたっている。仄羅は、何かを確信したような表情だった。
「……出来るわ」
その時、突如声が聞こえた。そして、結花は顔を上げ目から流れ落ちる涙を拭うと伊勢よく言った。
「出来るわ!私も仄羅も葵も全員守ってみせるわ!だから、連れて行って!お願い!」
結花はそう言って土下座をした。自ら額を地面に擦り付けそう懇願する。
真耶はその様子を静かに見つめた。顔がる部分を見ると、少し濡れている。涙を流しているのがすぐにわかった。
本当にこいつらは自分達の力で仲間を助けたいんだろう。だからこそこんな行動をとることが出来る。
仲間を思いやる力……俺にはない力だ。
「フッ、良いだろう。お前らも連れて行ってやるよ」
真耶がそう言うと、2人は顔を明るくさせた。そして、さっきより多い量の涙を流す。
「泣くなよ。泣くのはまだ早い。仲間を助けたいんだろ」
真耶はそう言いながら近づき結花の肩に手を置いた。結花はさっきまでの気の強さはどこに行ったのかと思うほど弱々しい顔をして泣き始めた。
「フッ、まぁいいさ。泣ける時に泣いてとくのが良い。俺の涙はとっくの昔に枯れ果ててしまったからな」
真耶は小さく呟くと振り返り炎の前に立った。目の前には、自分よりも高く全てを燃やし尽くす高温の炎が揺らめいでいる。その炎は近づくだけでも火傷を作り、触れてしまえば二度と治らない傷を作る。そして、1度着いたら二度と消えない。
まぁ、真耶だけはこれは通用しない。神眼で炎を別の物質に変えながら進めばいい。ただ、結花達にそれは出来ない。だったら、この炎をどかしてしまえば良い。
触れずにこの場から違う場所に移動させる。簡単な話だろ。
「どいてろ!危ねぇぞ!」
真耶はそう言ってアルテマヴァーグを背中から引き抜いた。そして、勢いよく振り下ろす。すると、さっき溜めた少しだけの魔力が波動となり炎に向かっていった。その波動は炎にぶつかると、炎の壁を裂いた。そして、その裂け目は道となった。
「さてと、行くか」
真耶はそう言って炎の裂け目から中に入る。その後を結花達も追ってきた。真耶は中に入るなりすぐに気配を殺す。それに気づいた結花達も気配を殺した。しかし、完全に消すことは出来ていない。やはり足でまといだったようだ。
炎の壁の中は真っ暗だった。炎が黒い炎だからか、影におおわれている。そして、真耶達が入ったと同時に炎は高さを上げていき完全に真耶達を閉じ込めてしまった。そのせいでさらに暗くなる。
真耶はすぐに炎の壁を別の物質に変えようとした。炎を少し変えて明かりにするつもりだ。だが、それは出来ない。なにかの魔法でプロテクトされている。
「やられたな。てか、初めてだよ。俺の魔法が効かなかったのは」
「あらそうなの。それは悪いことをしたかしら?ねぇ、真耶」
暗闇の中から人が現れた。現れたのは、やはり玲奈だった。まぁ、当然と言えば当然なんだが。
「会いたかったわ、真耶」
「俺も会いたかったよ。さ、早く殺りあおうよ。俺達の戦いに決起着をつける時が来たんだ」
真耶はそう言ってアルテマヴァーグを構えた。玲奈もどこからか剣を取りだし構える。
「え!?いきなり!?ちょ、ちょっと待ってよ!どういうこと!?」
結花はわけも分からず戸惑いながらそう言った。それに対し真耶はやれやれと言った感じの雰囲気を出して、そんな仕草をした。すると、玲奈も同じ格好をする。そして、2人して言ってきた。
「おいおい、雰囲気をぶち壊すなよー」
「ムードが台無しだわ。こういうのはテンプレだったらすぐに戦いが始まるものよ」
2人は同じようなことを言って結花を責める。結花はいたたまれなくなって少し後ずさった。
「まぁいい。まずは人質を返してくれないかな?」
「何言ってんの?人質ならとっくの昔に逃げたわよ」
「……は?」
「え?うそ……知らなかったの?3日前くらいに自分で逃げ出したわよ」
玲奈の口から意外な言葉が発せられた。そのせいで真耶は一瞬固まってしまった。
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