第81話 別れ再び
「プレゼント?」
「あぁそうだ。これがあれば、俺は玲奈を倒せる」
「でも、どこにいるか分からないじゃん」
「いいや、分かるさ。その力を手に入れた。だがその前に、俺もいくつか技を手に入れなければならない。と言うより、そう言う詠唱的な言葉が欲しい」
『……』
いきなり真耶がおかしなことを言い始めた。真耶の持ち味は、無詠唱魔法の発動速度が早い事だ。そんな、変な言葉を付け足して長くすれば、元も子もない。
奏達は呆れて何も言えなくなった。そして、それと同時に辞めさせるように強く懇願した。しかし、真耶は聞き届けない。なぜか、そこにこだわろうとする。
「やはり、文言というものは大事だ。俺はこれまで作ってこなかったが、1度作ってしまうと、無いとどうもしっくりこん。お前ら、なにかいい案はあるか?」
「あるわけないわよ」
「そんなものないですよ」
「突然どうしたのですか?」
皆は口々にそう言ってくる。全然相手にされなかったせいか、涙が出てきた。
真耶は落ち込んで木の影に隠れると、草をいじいじしながらグチグチと何かを呟いている。
「いいさ。どうせ俺の言うことなんか聞いてはくれないのさ。でもさ、皆そう言う文言があるんだもん。俺なんか物理変化だけだよ。もっとゴッドフェニックスとか言いたいよ」
グチグチグチグチグチグチグチグチグチグチ……
「もぅ!わかったわよ!好きにしたらいいじゃない!」
思わず奏はそう言って叫んでしまった。しかし、真耶はそれも気にせず草をいじくり続ける。そして、突然何かを思いついたかのように立ち上がった。
「ど、どうしたの?」
「……簡単な話だったんだ。その時作ればいいんだ」
そんなことを爽やかな顔で言う。奏達は、さっきから突然気が変わる真耶を不思議に思い、調べてみた。しかし、これといって原因が分からない。
そんな時、ある仮説が生まれた。それは、こういう仮説……
”もしかしたら真耶は頭を打っておかしくなったのではないか?”
と、言うものだった。なんせ、ついに時間前まで戦ってたのだ。もしかしたらどこかで頭を強く打っておかしくなったかもしれない。
しかし真耶は、そんな奏達を一瞥すると突如違う方向を見て静かに歩き始めた。
「どうしたの?まーくん……」
奏達は真耶の進む方向に目をやると、そこには驚きのものがあった。
「……これは……」
そこにあったもの。それは、壁だ。黒い壁。だか、普通の壁ではない。炎の壁。……そう、黒い炎の壁だった。
「あれは玲奈の……」
真耶はそれを見ると慌ててアルテマヴァーグの置いてある方向に向けて手を突き出した。そして、左目に太極図を浮かべ言った。
「”来い”」
すると、アルテマヴァーグはカタカタと動きだし、真耶の元まで飛んで行った。
「よし……てこれ、波動がもう切れかかってんじゃねぇか。お前ら、鞘に入れないで放置してただろ」
『ギクリ!……』
「し、し、し、してないよ」
「そ、そ、そ、そんなことするわけないじゃん」
いや、その反応は絶対しただろ。そこまで慌てなくても良かったのに。
「あーあ、嘘をついた人にはお仕置をしないといけないなー。一体誰が嘘をついてるのかなー」
そう言って1度目を閉じた。そして、次に目を開けた時には目の前で皆土下座していた。しかも、律儀にプラカードのようなもので”許してください”と、書かれてある。
しかも、自分で額を地面に擦り付けて服を全部脱いであった。
「いや、そんな裸で土下座するか?普通。これ、はたから見たら俺はただの変態だぞ。まぁいい、しばらくそうしてろ。そしたら両手を紐で釣って色んな人が見れるようにしてやるから」
『やめてぇぇぇぇぇ!!!』
皆はいっせいに立ち上がって真耶を押し倒してきた。そして、大粒の涙を流す。
「……邪魔なんだけど……」
真耶が一言そうつぶやくと、皆は一瞬でその場から離れ、もう一度裸で土下座をする。
「だから、それは俺が変態みたいに見えるだろ。てか、俺は社長か」
そんなことをツッコミながら黒い炎の壁に目をやった。そして、神眼を発動する。
「……地獄炎……地獄の炎。触れれば、一生治ることのない傷を負い、一生消えることの無い炎で焼き尽くされる」
怖いな。下手に触れられない。考えてみれば、あいつの魔法は触れたことがなかったしな。
さて、どうするものか。玲奈の野郎としてることは分からないが、ここに興味深いことが書かれてある。
「フッ、この炎を消せる者は唯一神だけ……か」
と言うことは、神がこの世界にいるということだ。そして、恐らくその神は俺の仲間になることは無い。
もし、この世界の神が俺の仲間になるというのであれば、俺が召喚された国が俺達を追い出すことは無い。
「……なぁ、お前らに話があるんだけど……」
「何?どうしたの?」
「”……眠れ”」
その言葉で奏達は眠ってしまった。真耶は奏達を絨毯の中に入れると安全な場所に隠す。そして、黒い炎の壁がある方向に向かって歩き始めた。
「……もうあいつらを巻き込む訳にはいかないよな。それに、最近あいつら強くなったから中々俺の目の力が効かなくなってきたんだよねぇ」
本当に呆れてしまう。自分でやった事なのに何故こんな方法を取ったのか、後悔しかない。
まぁ、傷つけたくなかったし、下手なことしてバレたら対策される。こんな猿芝居するくらいじゃないと通用しない。
「皆強くなったな。でも、これくらいじゃあいつには勝てない」
真耶はそう呟いて振り返ると、少し微笑んでその場を後にした。
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