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モブオタクの異世界戦記  作者: 五三竜
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第78話 シャイニングモード

「……なぜ生きている?」


「それも簡単な話だ。俺は魂だけで魔法を使った。お前にバレないようにしたからあまり回復は出来なかったがな」


 それに、魂だけの存在となるために1度幽体離脱をした。そのせいで、精神的な疲労が半端じゃない。強烈な眠気が真耶を襲う。


 それだけでは無い。魂だけの状態を続けていたからか、魔力の残りがあとわずかしかない。さらに、そのせいで傷は全く塞がっておらず、いつ心臓が破裂するかも分からない。


 さらにさらに、大量出血に加え、大量の吐血のせいで血も足りなくなってきた。そのせいで、激しい頭痛に見舞われる。そして、判断力は鈍り筋肉はほとんど断裂している。右目はかすみ、左目は血で滲んでよく見えない。


 要するに、極限状態なのだ。今の真耶は。


 こんな状態で何が出来るというのだろう。次の攻撃は避けられない。そして、次の攻撃が最後の一撃になるかもしれない。時間を戻そうにも生命力が足りないせいで出来ない。


 今の真耶では界に勝つことは出来ない。その場の誰もがそう思った。


「そんなフラフラの体でどうやって私に勝つというのだ?愚かなやつだ。君を殺したら彼女達は私のモノにするよ。可愛がってあげるからさ」


「……させるわけねぇだろ……ゴフッ!ゲホッゲホッ!」


 吐血をする。さらに、胸の辺りから血が滝のように流れ落ちてくる。そのせいで、足元は紅く染まった。


「まーくん!もうやめてよ!もう私達のことは気にしなくていいから!」


「そうですよ!マヤ様が死んだら私……もう生きるのが辛くなっちゃうじゃないですか!」


「マヤ様!もう逃げてください!私は奏様と一緒にいれば耐えられます!だから、もうやめてください!」


 皆は口々に言ってきた。しかし真耶は言うことを聞かない。落ちてあるアルテマヴァーグを拾うとフラフラになりながら構えた。


 血が足りないせいで、視界が霞み、歪む。そのせいで上手く距離感が掴めない。握力はほとんど無くなってしまい、剣先はブレ、今にも落としそうだ。


 それでも真耶は戦おうとする。界はそんな真耶を見て哀れむような目をした。


「残念だよ。君には優しい死を与えようと思ったのに。もう死んでもらうよ」


 界はそう言ってナイフを取りだした。そして、流れるような手つきでナイフを投げつけてくる。


「まーくん!逃げてぇぇぇぇぇ!」


 奏の声が響いた。しかし、真耶はその場から動こうとせずに顔を俯かせた。


 奏は目を瞑る。もう見たくなかったのだ。真耶が死ぬところは。だから、目を瞑った。そして、覚悟した。今から界によって犯されるということを。


「ごめんね。私のせいで……私が弱いからまーくんを助けられなかった……皆も助けられなかった……!」


 そう小さく呟いた時、それは聞こえた。よく聞いておかないと聞こえないような声で、真耶は言ってきた。


「お前のせいじゃない。顔を上げろ」


「っ!?」


 奏は急いで顔を上げた。すると、さっきまでふらついていた真耶が、きちんとたっている。全くふらついてなどいなかった。


「全部見えている。それに、わかっている。お前の技は、高速で自分と物を交換する、いわば身代わりの術のようなものだ。だったらそれ以上の速さで動けばいい。それ以上の速さで攻撃を当てればいい。そう、簡単な話だ。お前に勝つのは簡単なことなんだ」


 真耶は語りかけるようにそう言う。


「”物理変化ぶつりへんか”」


 真耶は自分の体に魔法をかける。すると、体が白く発光し始めた。そして、もう一度剣を構え直す。


「全部簡単な話だ。俺にとってはな。……そう、この”シャイニングモード”になった俺からしてみればな」


 そう言って構える真耶の目には青紫色に輝く目が映っていた。そして、その全身は白い光とオーラで包まれていた。


「っ!?なんなんだ!?それは!?それに、本当に君は一体何者なんだ!?」


「だから言っただろ。お前のクラスメイトだ。そして……世界一のモブで宇宙一のオタクだ」


 真耶はそう言った途端消えた。


「っ!?どこに……!?」


 界は慌てて周囲を見渡す。しかし、どこにも真耶は居ない。


 その時、不意に足に痛みを感じた。見ると、切り傷が着いている。それだけじゃない。急に手、足、顔、胴体に切り傷ができ始めた。


「本当に何が起こってるんだ!?」


 そんなことを呟くと、あることに気がついた。奏達が居ない。何故か遠くに行かされている。


「クソッ!なんで……!?」


「それは、お前が遅いからだよ」


 唐突に声をかけられた。しかし、どこから声をかけられたのかは分からない。全方向から声が聞こえた。


「クソッ!どこだ!?出てこいよ!」


「良いぜ……ここだよ」


「っ!?」


 真耶が現れたのは界の目の前だった。界は突然現れた真耶に反応出来ずに体が硬直する。その隙に真耶は界の心臓に剣を突き刺した。


 そして、また真耶の姿が消えた。界は心臓を突き刺されてなおまだ生きている。やはり、心臓を突き刺したくらいでは死なないらしい。


「クソッ!クソッ!クソォ!どこに行きやがった!?」


 界の雄叫びが聞こえた。だが、それでも真耶は姿を現さない。たまに現したかと思うと、すぐに消える。


 そして、遂に界は呪文を唱え始めた。恐らく全体魔法で消し飛ばすつもりだ。だが、呪文を唱えるため当然のように隙ができる。真耶はその隙を見逃さなかった。


「これで終わりだね」


 真耶の声が聞こえた。そして、真耶の姿が突如として現れる。


「何!?」


 真耶の体は光を強めると光の尾を引きながら光速で動き始めた。そのせいで、界の周りに光の檻ができる。


 そして、真耶は1点集中で界を突き刺し始めた。真耶の作る光は一点に集まり花火のように煌めく。それに加えて界の血が飛び散り幻想的……とまではいかないが、凄まじい光景を作り出した。


「ぐぁぁぁぁぁ!」


 界の断末魔が聞こえる。だが、それもそのはずなのだ。真耶の目には魔眼が写っている。その能力は、与えるダメージを倍にする。だから、今の界は通常の2倍ダメージを負っているのだ。


 真耶はその目を青紫色に輝かせながら動き続けた。そして、界に攻撃を当てていく。界はその攻撃を1つも躱すことが出来ず血を流すばかりだ。


 そして、遂に界は力尽き膝から崩れ落ち始めた。真耶はその途中で界の前まで行き、界の首を切り裂いた。


 界の首から血が吹き出る。真耶はそんな界に見向きもせず剣に着いた血を払った。そして、背中の鞘に収め言った。


「俺の勝ちだ」


 その言葉は、静かな空間に響き渡った。

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