第77話 謎のマジシャン
「……」
辺りに沈黙が流れる。しかし、その沈黙は長くは続かなかった。
「まーくん!大丈夫!?」
「マヤ様!アルテマヴァーグが突然どこかに行ったんですけど……て、 あ!」
「アルテマヴァーグなら俺が呼び寄せた」
そう言って鞘に収める。そして、界の死体を消そうと近寄った。
「ん?まーくん。それって謎目木君?」
「あぁ。コイツは玲奈と一緒にいた。そして、俺を殺そうとしてきた。だから、殺した」
「っ!?……なんで謎目木君が……!?」
「分からない。だが、コイツは相当強かった。奏、多分お前より魔法のセンスがある」
真耶のその言葉に、その場の全員が言葉を失う。真耶はそんな奏達に1度微笑むと、界に向かって魔法をはなとうとした。
しかし、真耶はそれをしなかった。なぜなら、目の前にいる界は本物ではなかったから。
「おやおや、気づくのが遅かったねぇ」
後ろから声が聞こえる。すぐに振り返ると、界がいた。しかも、奏を人質に取っている。他の皆は両手足を縛られ猿ぐつわをつけられていた。
「ちっ、やってくれたな」
「フフ、君も相当やるよ。一体どうやって私に攻撃を当てたのかい?」
「フッ、いいぜ、特別に教えてやるよ。今のは波動さ。最初にお前に向かって切りつけただろ。あれを魔法で作り出した。それだけだ」
「凄いなぁ。君はよくそんなことが出来る。一体何者なんだ?」
「……お前、覚えてねぇのか?」
真耶は半分呆れながら聞いた。すると、界はよくわかっていないといった様子でとぼける。
やっぱり覚えてないようだ。そんな予感はしていたがな。
「あのなぁ、クラスメイトの顔くらい覚えてろよ」
「クラスメイト?君のような人は身に覚えがないな」
やっぱりね。まぁ、どうせそんなところだろうと思ってたけど……
改めてショックだなー。うん。本当にショックだなー。
真耶はそんなことを思いながら空を見た。青いはずの空は、黒い炎で覆われ黒く染っている。
その時、界がポッケから何かを取りだした。それは、漫画やアニメで怪盗が欲つけている眼鏡を取り出した。確か……そうそう、モノクルだ。
界はモノクルを取り出すと、右目につけて見つめてきた。
「下手な真似はしない方が良いぞ。私は君か魔法を使ってもわかるからな」
そんなことを言う。多分、あのモノクルで見えているのだろう。
「姑息な野郎だな」
「そんなこと言って良いのかな?フッ、まぁいいさ。とりあえずその剣を置け。やらなかったら……分かるな?」
そう言って奏の首元にナイフを突きつける。真耶は界の言う通り、アルテマヴァーグを足元に置いた。
「フッ、よくやった。次は動くな」
界はそう言ってナイフを向けてきた。やはり殺す気だ。
「……」
「おいおい、なんだよその目は?避けたら殺すからな」
界はそう言って奏に突きつけるナイフに力を込めた。すると、ナイフは少しだけ奏の首に傷をつけた。
真耶はそれを見て動かずに睨む。界は不敵な笑みを浮かべると奏に突きつけるナイフの力を緩めた。そして、ナイフを人差し指と親指で挟むように持ち、他の指をヒラヒラとさせる。
そして、2、3回手をグーパーさせると、突如界の手にはナイフがもう1つ握られていた。そのナイフを薬指と小指だけで投げつけてくる。真耶はそのナイフを避けようとしたが、奏が人質に取られているので動くことはなかった。
そして、真耶の左胸にナイフが突き刺さり紅い液体を吹き出しながら、膝から崩れ落ちた。
「まーむん!」
「まむむん!」
奏達の声が聞こえてきた。しかし、意識が遠のいていくせいか、全く頭に入ってこない。一体なんて言ったのだろうか。薄れゆく意識の中真耶はそう思った。
そして、真耶の意識は途絶えた。その場に残ったのは、静寂と奏達の涙が地面に落ちる音だけだった。
「泣かないで、君達はこの男に惑わされていたんだ。これからは私が君達を導いてあげよう」
そんなことを言って不敵な笑みを浮かべると、手を差し伸べてきた。奏達は、1度涙を拭うと界の手に向かって両手を伸ばす。そして、その手に1度触れると、勢いよく払い除けた。
「……これがどういう意味かわかってやってるのかい?」
その問いに、奏はこくりと頷く。界はそれを見て、奏達の両手を縛る縄を切り猿ぐつわを外した。そして、1度奏の鼻をつまみ持ち上げると今度はさっきより怒りのオーラを漂わせながら言った。
「死にたいの?君達も、彼みたいに死にたいの?」
その言葉はまるで、鬼のようだった。いや、もしかしたら鬼よりも強いかもしれない。それくらい殺気が強かった。
界は奏達の顔を見て手の力を緩める。すると、奏は重力にさからえず尻もちを着いた。しかし、すぐに界を睨みつける。
「なんだ?その目は。やはり死にたいみたいだね」
「……死んでも良いわ……でも、まーくんを傷つけたあなたは絶対に許さない!絶対に殺すわ!」
奏はそう言うと、どこからか杖を取りだし突きつける。そして、先端に魔力を溜め始めた。
それでも界は気にしない。ただ、その魔力が溜まっていくのを待つだけだ。ある程度魔力が溜まると、目で見えるほどには大きくなってきた。界はそれを見て不適に笑う。
「それが私に通用するとでも!?浅はかで愚かだ!」
「そんなことないもん!効くかもしれないじゃん!」
「いいや、効かない。だって君は弱いから。君が弱いから彼は死んだ。君が弱いから彼の仇も打てない。そう、君は圧倒的弱者なのだよ」
その言葉が胸に刺さる。涙が溢れて止まらなくなる。しかし、それでも奏は魔力を溜め続けた。
界はそんな奏の様子を見て楽しそうに笑う。そして、手袋をつけた。
「君は弱者、それがわかっていないようだ。そんな君にはお仕置きが必要だね」
そう言って杖の魔力が溜まっている先端を掴む。すると、杖の先端は砕かれ魔力は全て逃げてしまった。
先端が砕かれた杖は、全体にヒビが入り一瞬で砕け散った。奏は、砕け散る杖を見ながらただ呆然と立ち尽くすしか無かった。
「そんな……」
「さて、悪い子にはお仕置きが必要だね。まずは、逆らったらどうなるか体で覚えてもらわないと」
界はそう言ってナイフを取り出す。そして、奏を押し倒すと何時でも刺せるように構えた。
「やだ……やめて……!」
「やめないよ。だって、君が悪いんだから」
「そんな……やだ!いやだぁ!やめてぇ!助けて!まーくん!お願いだよぉ!起きてよ!まぁくぅぅぅぅぅぅん!!!!!!」
「うるさいな。無駄だって言ってるだろ。あの男はもう死んだんだよ!」
そう言ってナイフを勢いよく振り下ろした。そして、刃が奏の胸に……刺さることはなかった。
「”吹っ飛べ”」
「っ!?グァ!……なぜ……!?」
「簡単な話だ。俺の前で、俺の仲間を傷つけることは出来ない。誰であってもな」
そんな声が聞こえた。皆はいっせいに真耶のいた場所を見る。そこに立っていたのは、傷だらけで、胸から大量の血を流し、吐血をして苦しそうな真耶だった。
真耶は左目から血の涙を流している。それでも真耶は不適に笑った。そして、そんな真耶の目には太極図が浮かんでいた。
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