第70話 敗者への罰
真耶のいた教室から校庭までは歩いて2分もかからない。1分ほど歩くと校庭が見えてきた。そこには小さな闘技場のような施設が見える。その真ん中にメロンはいた。
「あら、遅かったわね!お仕置きされる覚悟は決まったのかしら!?」
「あらあら、それはあなたの方ではないかしら」
「フンッ!なんとでも言いなさい!どうせ、あと一時間後にはあなたのお尻はお猿さんより真っ赤になってるわ!」
メロンはそう言って指を指してきた。しかし、真耶は何もしないで何も言わない。それを確認した審判が手を挙げ素早く振り下ろした。
どうやらもう戦いは始まったらしい。他のところと違い、始まりが唐突だ。それに、メロンが何かブツブツ呟いている。
「”我が体にみちる炎の魔力よ……”」
(長文詠唱魔法か……詠唱魔法は無詠唱魔法より威力は高い。だが、長文詠唱魔法の場合だとただ長いだけで威力は変わらない。無駄なことだ)
「”ファイアーボール”」
メロンはやっと詠唱を終えて魔法を放ってきた。真耶はそれを難なく避ける。
「なんですの?ふざけてらっしゃるの?」
「そんなわけないでしょ!普通の人ならこれで倒せるのに……!まぁいいわ!ちょっと試しただけよ!次は絶対倒すわ!」
そう言って手のひらを向けてくる。真耶はそれを少し警戒しながらも足に力を入れた。
今は、いつもの動きやすい服装と違ってかなり動きにくい制服だ。そして、なれないスカートにハイヒール。……なんで学校の制服がハイヒールなんだよ。
「”ファイアーボール”」
そんなことを考えていると、炎の球体が飛んできた。真耶はそれを避ける。
「っ!?なんで!”ファイアーボール””ファイアーボール””ファイアーボール”……」
いくつもの炎の球体が飛んできた。真耶はそれをヒラヒラと避け続ける。そして、魔力を少し回復させようとしたのかメロンの攻撃の手が止まった。
「あらあら、もう終わりですの?残念ですわ」
「何がよ!?」
「うふふ、勇者候補の力がこんなものだったということがですわ」
「何っ!?ふざけないで!」
「あらあら、ふざけるなんてとんでもない。少し私の力を見せてあげますわ」
そう言って手を突き出した。さすがにここで物理変化というのは良くないので、無詠唱で唱える。
空気を炎に変え、形を整える。そして、魔力を少し流し意識を持たせる。真耶自身の意識を送り込むことによってこの炎は自動追尾機能が追加されるのだ。
その炎は大きくなると、不死鳥のような形を作る。そう、これはゴッドフェニックスだ。
「……クッ!私も出来るわよ!”ゴッドフェニックス”」
メロンも負けじとゴッドフェニックスを使用した。しかし、大きさが全く違う。2人は同時に不死鳥を放った。
「嘘っ!?」
メロンの不死鳥は、瞬く間に飲み込まれてしまった。そのおかげで真耶の不死鳥は大きくなる。
「やだっ!」
メロンは目を閉じた。そして、死ぬのを怖がっている。別に真耶は殺す必要が無い人を殺したりはしない。不死鳥を寸止めした。
「わたくしの勝ちですわ」
そう言って不死鳥を消した。真耶は服のホコリを払うとメロンのもとまで歩いていく。
メロンはそれが怖いのか、後ずさる。しかし、途中で腰を抜かしてしまい動けなくなった。それでも真耶は足を止めない。コツコツとハイヒールがなる音がする。
「わたくしの勝ちですわ。罰を受けるのは貴方の方でしたわね」
そう言ってメロンを気絶させる。そして、真耶は闘技場のような場所から出た。すると、周りに人が集まってきている。遠くの方には先生もいた。そして、時計を見るとまだ5分も経っていない。23分くらいか……
かなり時間がかかったな。やはり長文詠唱魔法はめんどくさい。長いだけで使い物にならん。本で読んだだけだが、作ったやつの気がしれんと読んだ時は思ったな。
そんなことを思っていると、さっきの2人が近寄ってきた。
「凄いですマヤさん!」
「まさか、あのメロン様を倒すなんて、尊敬します!」
「あらあら、そこまで言われると照れてしまいますわ」
真耶はそう言って少し照れる仕草を見せる。さらに、少し頬を赤くして、さも照れてるかのように見せる。こうすることで、自分は照れ屋でかつ強いが、自分の力をひけらかそうとしない謙虚なお嬢様という印象がつく。
と、そんな時、遠くから先生の声がした。
「ちょっとどいてくれ!」
何やらすごく慌てているようだ。
「あら、始まりましたわね。いい気味ですわ」
「え?どういうことですの?」
「メロン様のせいで、辛い思いをした人が大勢いるのです。本当にマヤ様には感謝しかありませんわ」
全く意味が分からない。はてなマークが20個ほど頭の上を飛んでいるような気分だ。
そんな時、2人が手を掴んできた。そして、真耶を闘技場の中に連れていく。
「マヤ様、見ててください。あれが罰です」
そう言って指を指した方向を見ると、倒れたメロンとバケツを持った先生達がいた。
「あれはなんですの?」
「……あれは、罰ですわ。勝負に負けた者、ルールを破った者、成績が低い者に与えられるものですわ」
「罰……?」
何度聞いても理解できない。なぜ罰を受けるのだろう。負けるのは仕方がないことだ。それだけじゃない。2人はかなり罰に怯えている。一体どんな罰なんだ?
「おい!起きろ!」
突然先生の声が聞こえた。そして、先生がバケツの中の液体を勢いよくぶっかける。最初は水かと思ったが、水にしては粘っこい。それに、何故か服が溶けている。
「……っ!?……スライム……!」
真耶は思わずそう小さく叫んでしまった。2人はその声が聞こえたのか、こちらを見て微笑んでいる。
「マヤ様、今後勝負にはお気をつけくださいませ。負けると、あんなふうになります」
「おい!お前負けたな!罰を受けてもらう!」
「っ!?や、やめてください!お願いします!次は、次は必ず勝ちます!だから、だから見逃してください!」
「バカか!お前のような弱者はこの学校に必要ない!罰を受けて心を入れ替えろ!」
「イヤ……イヤだぁ!いやだいやだ!やめてください!!!ひぐっ!いぎぃ!もうやだぁ!」
その光景は残酷なものだった。死にはしないものの、死ぬより辛そうだ。
服は溶かされ裸にされる。闘技場は全校放送で、全員から裸を見られる。そして、お尻を鞭で叩かれ血のように赤くなる。それだけじゃない。すぐさま口の中に、少し弾力のあるスライムをねじ込まれる。そのせいで、ヨダレがダダ漏れだ。それに、涙も止まらない。
「これが……罰ですの?」
「はい。これだけでは終わりませんよ。メロン様は2分で負けた。負けるのが早いとその分罰も大きくなるんです」
「今のメロン様だと1週間はずっと罰を受けなくてはなりません。寝る時間も、風呂に入る時間も、トイレも、どんな時でも」
「1週間もですの!?」
ついうっかり素っ頓狂な声を上げてしまった。
だが、そんなことより1週間というのがおかしい。なぜそんなに罰を受ける必要があるのだろうか。いや、そもそも1週間ずっとどうやって罰を与えるのだろうか。
「あの、どうやって1週間もやるというのですか?」
「簡単な話です。この学校は寮です。だから、特別な寮に移され罰を受けます」
なるほどな。それならうなずける。だが、それにしてもやりすぎだ。
真耶がそう考えていると、メロンに与える罰は過激になっていった。
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