第69話 クラスのお嬢様
真耶は恐る恐るドアを開ける。
……いや、別に中の人を恐れている訳では無い。ただ、もし攻撃された時にうっかり殺してしまわないかが心配なのだ。
それに、何故か分からないがいつもよりメンタルが弱い気がする。多分、女体化した時の代償的なものがあるのだろう。その1つにメンタルの弱体化がある。
(もし……もし今尋問や拷問をされたら絶対に耐えきれない)
そんな思いもあって、真耶は更に気を引き締めてドアを開けた。
「失礼します」
中に入ってすぐ目に飛び込んできたのは謎の機械だった。その機械からは不思議な煙が出てきている。
見た感じ霊的な何かを感じる。しかし、それだけじゃない。そこにいた先生からは不思議なオーラを感じる。そのオーラを真耶は覚えている。
(すごい嫌な感じだ。嫌な思い出……)
……まぁ、認めたくは無いけどあんなことになったんだよな。それをどうにかしたいから会いに来たってのに。
「用事があるんだろ。早く言え」
先生は少し強い口調でそう言う。男バージョンのときだったら怖くないのに今は怖い。
「あ、は、はい。あの、先生に頼みたいことがあるのですが……」
「だから、それを早く言えと言っている!」
急に大声を出されてびっくりしてしまった。そのせいで、少し胸がドキドキする。心の中が恐怖で埋め尽くされていく。
……と、思っていたら、突然なんとも思わなくなった。どうやら今、このタイミングで代償が治ったらしい。
(ったく、一体なんだったんだよ)
そんなことを思いながら話を続けた。
「先生に頼みたいことと言うのはですね、わたくしの大切な方の呪いを解いていただきたいのです」
「呪いだと?なんの呪いだ?それに……雰囲気が変わったな」
「あらあら、そうでしょうか?少々緊張していまして」
真耶は口からでまかせをペラペラと言う。まるで、口からでまかせモンスターだ。
……いや、そんなモンスター本当はいないけど……
まぁ、そんなことはどうでもいい。今はこの女の人との駆け引き……いわゆる勝負だ。負ければそこで終わり、奏を助けて貰うことは出来ない。
「それで、なんの呪いか聞いてるんだが」
「フフ、デウスの呪いですわ」
「っ!?」
その先生は鬼のような形相で振り向いてきた。そして、ものすごい殺気をぶつけてくる。
5分くらい前の真耶なら泣いていたかもしれないが、今はなんてことは無い。殺してくるようなら殺すだけだ。
「何かありましたか?」
「……どこでその呪いを受けた?」
「依頼の途中にどうやら受けてしまったみたいで、よく理解しておりません」
「フンッ、どうだかな!もう君の顔は見たくない!デウスのことなんて離さないで欲しいな!」
先生はそう言ってものをなげつけてきた。真耶はそれをひらりひらりと避けるとすぐに部屋から出た。
「一体なんだってんだよ。それに、この道具……ギアの街で見たものと同じだ」
真耶はそれを1つ掴み取ると、服の中に隠して教室に戻った。
「……ん?」
ドアを開ける前に、ドアの向こうで騒ぐ女達が見えた。そして、その上には学園では定番のバケツに入った水がある。おそらく、ドアを開ければ水がかけられるのだろう。
「古典的な……原始人か?」
そう言ってドアを開けた。そして、すぐにその場を後ろに飛び退く。すると、目の前に水が落ちてきた。
「あの、これはなんです……っ!?」
突如、前と後ろから大量の水をかけられた。そのせいで、制服がびちょ濡れになる。
「あはは!ざまあみろですわ!新入生か何かは知りませんが、この学校で下手なことしないでもらいたいですわ!」
そう言って、ショートカットですらっとした生徒が言ってきた。よくあるお嬢様的な感じは見た目からはしない。だが、すごくウザイお嬢様だった。
そのお嬢様は真耶に水をあびせて高笑いをする。他の生徒は、怖くて何も言えないようだ。ガキ大将的な感じなのだろう。
「なんでこんなことなさるのですか?」
「それはあなたが生意気だからよ」
「……悲しいですわ」
真耶はそう言ってなく真似をする。すると、そのお嬢様は真耶を見て近づいてきた。そして、強烈な蹴りをお見舞してくる。
「危な!」
真耶はそれを寸前のところで避けるとバク転の要領で後ろに逃れる。
「あら、よく避けましたね。良いでしょう。あなたは私と決闘するのに値しますわ」
「え?」
「5分後に校庭で会いましょう」
お嬢様はそう言って教室を出ていってしまった。その場に残された真耶は一体何が起こっているのか分からず、ただその場に立ち尽くすだけだった。
そんな時、近くにいた生徒が2人話しかけてきた。
「あの、行かない方が良いですよ。そしたら罰を受ける必要は無いんで……」
「罰……?」
「はい。この学校では勝負に負けると罰を受けるんです。それが、どんな勝負だろうとです」
「なんですの?その恐怖のルールは」
やばいルールじゃないか。この学校、聞いてた話と違うぞ。まるで監獄……そう、綺麗な監獄だ。
いや、そもそもなんで俺が負ける前提なんだ?そんなに強いのか?あの女が……
「彼女はどういった方なのでしょうか?そんなに強いのですか?」
「何言ってるんですか!?あの方……メロン様を知らないんですか!?」
メロン?美味しそうな名前だな。それに、そこまで強そうな名前じゃない。……いや、人を名前だけで決めつけるのはよそう。俺の苗字も珍しいはずなのに未だに俺はモブだ。
……うん。そうだね。なんでだろう。自分で言っといてすごく悲しい気分だ。
てか、メロンってそんなに強いのか?女体化したとは言ってももう慣れた。なんでも出来るはずだ。
「その、申し訳ないのですが、存じ上げません」
「え!?嘘でしょ!?メロン様と言ったらあの勇者候補の1人ですわよ!」
あのって言われても知らねぇよ。てか、勇者候補といるのかよ。
そんなことを頭の中で思い浮かべながら顔には出さないようにする。
「勇者候補……すみません、そんな重要なことを存じ上げないなんて……」
「そ、そんな謝らなくて良いですよ!」
「そ、そうですよ!」
2人は慌ててそう言う。しかし真耶は立ち上がると、すぐに校庭の方に足を向けた。
「い、行かれるのですか!?」
「えぇ、わたくしもここまでされたらやり返す他ありませんわ」
「そんな……勝てるわけありませんわ!」
「入学初日から罰をお受けになる必要はありませんわ!」
「うふふ、わたくしを舐めないでもらいたいですわ」
真耶はそう言って校庭に向かって足を進めた。
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