第67話 デウスの呪い
朝になった。カーテンの隙間から日差しが差し込む。真耶は体を起こすとすぐに布団から出た。
「……おはよう」
「……」
「今日もいい朝だね」
「……」
「今日はどこに行こうかな」
「……」
なぜか、返事は帰って来ない。いや、その理由はわかっている。それでも真耶は話を続けた。
「今日は……楽しい一日になると良いな」
「……」
やはり帰ってこない。そのせいで、自然と涙が零れてきてしまった。真耶は、涙を拭うと静かに布団を剥がした。すると、ベッドの上に深緑の光を放つ球体の中に入った奏の姿があった。その深緑の球体の周りには謎の文字が回ってクロスしている。
真耶はその球体の中にある奏を見つめた。その奏は、心臓どころか一切動かない。時が止まっているのだ。
そもそも、なぜこうなったのか、それは昨日の夜に遡る。あの時奏はデウスエネルギーを体に取り込んだ。しかし、奏は耐えきれずにそのエネルギーに侵食されて行った。そのせいでどんどん衰弱していく。
真耶な神眼を使い奏の鼓動を確認し続けていた。奏の鼓動は眠りについた途端すぐに弱くなっていく。真耶は、その鼓動が完全に止まる前に奏の時間を止めたのだ。
要するに、奏は時間を進めれば死ぬのだ。今の奏は死を送らせているだけ。ただの延命処置に過ぎない。
デウスエネルギーの侵食を抑える方法を見つけださなくてはならない。
ここで不思議なのが、なぜ真耶は何も無かったのかだ。それは簡単な話、真耶には耐性があったのだ。ステータスプレートを見れば分かる。特殊スキルには始めからデウスアイがあった。だから、俺の場合はデウスエネルギーを取り込むことが前提とされていたのだ。
玲奈もそれは同じなはず。血が繋がっているのだからそんなことがあってもおかしくは無い。だが、そうなると玲奈は……
「あの、マヤさん、入っていいですか?」
そう言って部屋をノックする音が聞こえた。真耶はすぐにドアを開けるとみんなの顔を見た。
「ど、どうしたのですか?」
「いや、何でもない」
「なんでもなくないですよ!目から血の涙が出てますよ!」
え……あ、ほんとだ。触れてみると熱いものを感じる。それに、指に赤い液体が着いている。
「何かあったのですか?マヤ様に何かあったら心配です」
そう言って皆は抱きついてくる。2つの意味で意地悪だ。わかってるくせに聞いてくる。俺がなんで悲しいのか、それくらいわかってるはずなのに。
そしてもう1つは、そんな上目遣いをされたら怒れないということだ。前から背の高さとか顔とか好みだと思っていたが、ここまで甘えられると俺の好みにドハマリしてしまう。
「……可愛いやつだ」
「見栄はらなくても良いですよ」
「……ほんと?」
「はい。皆もそう思ってますよ」
真耶はその言葉を聞くと、膝から崩れ落ちた。そして、アロマに抱きつく。アロマはそんな真耶を優しく包み込むと、優しく頭を撫でた。
真耶はアロマの胸に顔を埋める。そして、血の涙を流す。そのせいでアロマの胸が赤く染っていくが、アロマはそれを気にしない。
アロマは血の涙を流して泣きじゃくる真耶を優しく慰め続けた。
━━それから10分ほどたって真耶は泣き止んだ。そして、血の涙を拭いアロマの前に立つ。そして、静かにキスをした。
「えぇぇ!?」
「アロマ、ありがとう。元気出たよ。好きだよ」
そう言ってもう1度キスをした。今度は深いやつだ。アロマは突然の事で驚いてしまって何も出来なくなる。されるがままに舌を入れられた。
「ま、マヤさん!?」
「真耶くんがおかしくなっちゃった!?」
『……あ!』
そこで、皆は真耶に飛びつき押さえ込んでステータスプレートを見た。すると、状態異常の所に”女たらし”が増えている。
『……』
全員は黙り込んでしまった。どうやら奏がこんなことになってしまって真耶がおかしくなってしまったようだ。
でも、なんだかこんな真耶も新鮮でいい。普段はクールでこんなことしてくれないせいか、こんなことされるとすごく嬉しい。このままあんなことやこんなことまでしたい。
「マヤ様……」
いやいやダメだ。奏さんがあんなことになって、マヤ様は今大変な状況になっている。そんな時にこんなことを考えるのは失礼だ。反省しなくては……
「っ!?ひゃあっ!?」
突然お尻に何かが当たる感触がした。そして、その当たるものはすぐにお尻を揉み始める。
ひゃ、ひゃあ……恥ずかしいでしゅ……
アロマの顔は瞬く間に真っ赤に染まっていく。振りほどこうとしても両手は抑えられてしまい、されるがままだ。
「ダメ……です!!!」
ゴツンッ!!!
痛烈な音が響いた。そして、真耶の手が止まる。恐る恐る目をやると、いつもの目をした真耶がいた。
「……俺、何してたの?」
「マヤ様のばかぁ!!!」
「?????」
アロマは真耶の上に飛び乗ると、ポカポカと殴り始める。なぜ殴られているのか分からない真耶は何も出来ずに頭の上にはてなマークを飛ばすだけだった。
そんな真耶達を横目に、ルーナ達はステータスプレートを確認する。すると、そこには状態異常は無くなっていた。
「良かったー」
「一体何が!?」
そんな問いには答えることもせず、全員は朝の支度を始めだした。真耶だけはしばらくの間状況を飲み込もうとして、全く動けなかった。
━━それから10分後……
「なるほどな。すまなかった。まぁ、それは置いといて、見ての通り奏が瀕死の状態だ。このままだとデウスエネルギーの呪い……デウスの呪いで死んでしまう」
真耶はたんたんと説明を続ける。もう、さっきのような悲しい顔はしていない。真耶が全部説明し終えると、クロバが何か言いたそうな顔をしていた。
「なんだ?もしかして、お花を積みに行きたいのか?」
「ち、違いますよ!……あの、私その呪いを解ける人を知っています」
『え!?』
「本当か!?」
「はい。どんな呪いもといてしまう人です。しかし、多分マヤさんは接触するのが難しいかと……」
クロバは気まずそうに話を進める。なんか嫌な予感がする。先に予想しよう。これまでの経験上、こういう時は決まって俺の行けないとこにいる。
例えば、女風呂の精霊とか、女性しか入れない学校とか、そういうところだ。
「な、なんでそんな顔するんですか?」
「いや、気にしなくていいよ」
「は、はぁ……話を戻しますが、その人がいるのが聖マジカル女学園なんです!」
ほらな。俺はそこに行けない。絶対そんなところだろうと思ったよ。この世界はテンプレを知らないからな。
まぁ、入れないこともないが、それはいざと言う時だけだ。
「お前らの中の誰かが行けばいいんじゃないのか?」
「無理ですよ!聖マジカル女学園はこの世界で最も入るのが難しい学校なのですよ!」
うわっ、最悪じゃないか。こんだけ女性がいて誰も行けないのかよ。
「フェアリルはどうなんだ?」
「無理です。難しいので入れません」
やっぱりダメだ。いきなりいざと言う時が来たようだ。
「ま、とりあえず行こうぜ」
「え、でも……」
「方法ならある。行ってからのお楽しみだけどな」
真耶はそう言って宿を後にした。ルーナ達も、奏の体を収納魔法で収納すると真耶の後を追って宿を後にした。
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