第66話 思い出
あれは、俺達が召喚される1週間前の事だった。その日は姉が外出していて家に誰もいなかった。そんな時奏が家に遊びに来た。
「まーくん!遊ぼーよ!」
俺はその時すごく嬉しかった。こんなことあったらあれだけど、俺はその時すごく寂しがり屋だった。両親を失って10年程度生きてきたが、時々悲しい気持ちが込み上げてくる日がある。その日がそれだった。
しかし、奏は遊びに来てくれた。俺はすごく嬉しかった。素早くインターホンをとり奏に返事をする。
「良いよー」
そして、家のドアの鍵を開け奏を中に招き入れた。その日は丁度最新作のゲームを買ってやろうとしていた日だった。俺は、奏を招き入れるとすぐにゲームの電源をつけカセットを入れる。
この家には丁度コントローラーかま2つあった。自分と姉の分だ。いつも2人で遊んでいた。だが、その日は初めて姉以外の人にコントローラーを触れさせた。
奏と遊ぶのは楽しかった。ゲームして話して漫画を読んで、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。そんな時、不意に奏の腹がなった。
「腹が減ったのか?」
「うん……恥ずかしいよ……」
その時たまたま俺はまんじゅうを食べまていた。だから、何も考えずに奏に渡した。
それが失敗だった。
そのまんじゅうはまさかの10年前のものだった。当然そんなものを食べれば腹を壊す。管理が良かったからカビとかは生えていなかったが、それでも危険だ。
奏は盛大に腹を壊し、俺の家のトイレに駆け込んだ。そして、長い時間良すぎたからか便座が割れて、更にはウォシュレットを壊し止まらなくさせたのだった……
「うふふ……面白い」
「面白いって、これ全部お前のことだからな」
「わかってるよ。だって、あの時はお尻がふにゃふにゃになるくらい水を浴びたんだもん」
「助けに行ったら、ウォシュレットの威力が最大になってたんだよな」
「うん……すごく痛かった」
「そうか、あの頃から俺は強かったんだな。俺、あのまんじゅう10個くらい食ったからな」
「本当だよ。すごいな……まーくんは……」
そう言って奏は笑った。しかし、やはりその顔はどこか苦しそうだ。
真耶は流す魔力の量を増やした。しかし、一向に良くなる気配は無い。魔力を、さっきルーなが使っていた回復魔法のように変えても、治る気配はない。
真耶は何かを察して神眼を発動した。そして、右目にかかる髪の毛をどける。
「まーくんのその目……かっこいい」
不意に奏がそう言った。突然の事で少しびっくりする。
「そうか……嬉しいよ」
「ねぇ、もし……もしまーくんが私の事好きなら、今日は何でもしていいよ」
「好きだよ。でも、それは今日じゃない。今は奏の体力を温存せないと」
「ううん、いいの。だってもうわかってるから。まーくんも気づいてるんでしょ」
そう言われて少し胸が苦しくなった。気づいてる。あぁ、とっくに気づいている。恐らく紅音も気づいたんだろう。いや、あかねだけじゃない。他の皆も。だから、俺達を2人きりにしてくれたんだ。
だが、思いどおりになるとは限らない。いや、させたくない。俺は、最後の最後まで抗う。だって、もう失うのは嫌だから。
真耶はさらに魂眼を発動させた。そして、真耶の魂の1部を奏に分け与える。しかし、顔色は悪いままだ。
「もういいよ……」
「ダメだ」
「なんで……なの?」
「なんででもだ。……今ここで何とかしておかないと、俺はもうなんとも出来なくなる。俺はこの世界の理を曲げることは出来ない」
そう言ってつい暗い顔をしてしまう。しかし、奏はいつも通りの笑顔を見せて言ってきた。
「大丈夫だよ。まーくんはきっと何とかしてくれるから。だって、いつも何とかしてくれたじゃん」
その笑顔は、多分これまで見て中で1番可愛かっただろう。真耶はその時、心の底から奏のことを好きだと思った。絶対に……絶対に助けたいと思った。
しかし、奏は回復を拒む。真耶の手を握って顔の前まで持ってきた。そして、はむっと噛み付いた。
「はへ、ほうほへひひょうははへ」
「……」
奏は、いつもの優しい顔でそう言う。その時、遂に真耶の手から発せられる魔力が途絶えた。
そのせいで、奏は一気に衰弱していく。真耶は奏を力強く抱いて優しく頭を撫でた。奏はそれが気持ちいいのか猫のように甘えてくる。そして、顔を胸に埋めた。
そして、奏は静かに眠った。
「”……時を止めろ”」
その言葉が静かな空間に響き渡った。
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