第64話 デウスエネルギー
━━あれから何時間たっただろうか。希望達はギルドの医務室のベッドで目覚めた。
頭が痛い。どうやらかなり眠っていたらしい。うっすらと目を開けるとそこには真耶がいた。
「やっと目覚めたか。2日間も眠りやがって」
……そうなのか、2日間も……
どうやら僕は2日間も眠っていたらしい。そして、隣を前見ると3人が眠っている。皆はもう起きたのだろうか。
「ん?あぁ、そいつらはまだ寝てるよ。多分今日中には目覚めると思うがな。やっぱり手加減した方が良かったな」
そう言って目の前の男は嘲笑うかのような顔を見せる。しかし、今の僕はそんな顔をされても腹が立たない。そんなことより自分の無力さに腹が立つ。
なぜあの時避けきれなかったのだろうか。なぜあの時あの技に気づかなかったのだろうか。そんな考えで頭の中がいっぱいになる。
「……そう気に病むな。俺は倒すべき人がいるから強くなった。いや、強くならざるを得なかった。お前もいるんだろ。だったらそいつを倒すために強くなれ」
突然そんなことを言われ驚いてしまった。倒すべき人がいる。たしかに僕は魔王を倒すという役目がある。こいつにもそんな人がいたのか。
「あ、誰なのかは言わねぇよ。これは俺の問題だ。それに、俺が倒さなくちゃならない」
「……」
声が出ない。いや、眠っていたせいでイマイチだし方が思い出せない。
「そんな無理して出そうとしなくていい」
そんなこと言ってきたが、それでも何とか出そうとする。すると、なんとなくだが思い出してきたぞ。
「あー、あー、うん。君にもいたんだな、そんな人が」
「フッ、まぁな」
「じゃあ、次にあった時はまたたたかってほしいあ」
「なぜそうなる?まぁいいがな」
そう言って目の前の男……真耶は笑った。僕も笑った。そして、再び眠りについた……ということはなく、起きて部屋の外に出た。
「……元気なやつだな」
その言葉がその部屋に響き渡った。
━━それから30分が経った。真耶は希望が部屋の外に出たのを見ると一緒に外に出る。すると、部屋の外では奏達が待っていた。
「待ってたのか?」
「いや、待つも何も5分しか経ってないですよ」
クロバは呆れたように言ってくる。
「そうか、まだ5分か……時間って凄いな」
「急に何言ってるんですか?」
「いや、なんでもない」
真耶達はそんな会話をしながら受付まで来た。そして、少し情報を聞く。
「なぁ、ここに俺達と同じ依頼を受けた人いなかったか?」
「え、えと、……いえ、いません。あ、でも、その依頼の物が急に紛失したんです!」
「紛失……」
やはり来ていたようだ。だとしたら、対策は打ちやすい。対策したらあとは殺すだけだな。
そもそも、あれを取りに来るなんてよく考えたものだ。
「ねぇ、あれってなんなの?」
「ん?あぁ、あれね。あれはデウス歯車の動力だ。重力を制御できるとか、強くなるとか色々ある」
そう、玲奈が取りに来たのはデウス歯車の動力、デウスエネルギーだ。デウスエネルギーは魔力と同じで普段は目に見えない。それに、体に取り込むと強くなる。
奏達にはいくつか貰っている。自分もそれを取り込めば強くなるはずだ。
実際のところ、玲奈は古代の魔力も持っている。それに、他の力も持っている。勝つためにはこちらも同じ力を手に入れる必要があると言うわけだ。
「奏、渡してくれるか?」
「良いけど、私も飲むわ」
え?飲む?どういうこと?いや、そもそもなぜ奏が一緒に?
「ダメだ。そんな危険なことはさせられない」
「だったら渡さないわ」
そう言ってデウスエネルギーの入った瓶を服の中にしまった。
なるほどな。瓶に入っているところから飲み物……液体に近いものなのかもしれないな。いやまぁ、そんな事はどうでもいい。なんで奏が飲むんだ?
「俺が暴走した時誰が止めるんだ?」
「どうせ止められないんだもん。一緒の痛みを感じたい」
そんなに痛くないんだけどな。
真耶は奏の目を見た。真っ直ぐ見てくるその目は信念に満ち溢れていた。多分俺が何か言ってももう曲がらないだろう。
だが、それでもやらせる訳にはいかない。危険すぎる。俺の場合痛みは優眼でなんとかなる。それに、優眼には回復能力がある。これも2ヶ月間の特訓で手に入れた能力だ。
だが、奏にはそれが無い。だから、もし痛みが来れば耐えることは出来ない。傷が出来れば治せない。
「お前にその覚悟があるのか?」
「うん!」
「……分かった。良いだろう」
真耶はそう言った。奏はそれを聞いて顔を明るくする。そして、瓶を1つ渡してきた。
……奏に痛い思いをさせたくない。だが、かなで自身がやると決めたんだ。止める義理は俺には無い。
「いっせーので飲むぞ」
そう言って瓶をかざした。その瓶の中にはピンク色の光を放つ液体が入っている。まるで毒のようだ。
「ちょっと待って、宿に戻って飲もう」
奏はそう言って周りを見た。他に人がいる。これだと、奏がどうかなった時に周りに迷惑がかかってしまう。真耶は奏が言った通り宿に向かった。
宿に着くと、早速瓶を取りだした。そして、全員に戦闘態勢をとらせて瓶をかざした。
「いくぞ。カンパーイ」
定番の号令をして2人は液体を飲み干した。
体の中になにか不思議なものが入って来る感覚がする。そして、それは全身を駆け巡り自分に吸収されていく。
「きゃあっ!」
その時、奏が悲鳴をあげた。しかし、真耶は平然としている。真耶はすぐに奏の様子を見た。その時には既に奏は倒れ込みうずくまってしまっていた。
「奏!」
「きゃあああああああ!いだい!いだぁぁぁぁぁい!やめでぇぇぇぇぇぇ!」
奏はこれまで発したこともないくらいの叫び声を上げた。さらに、時間が経つにつれ奏の顔色が悪くなっていく。涙は止まらなくなりヨダレも垂れ流しだ。
「だめぇぇぇ!❋★*❋★❋!」
痛みは絶頂を迎えたのか、声にならない叫びをえげ始めた。さらに、目からは血の涙が溢れ出す。
そこからが酷かった。全身の穴から血が吹きでてくる。その場にいた全員は必死に血を止めた。しかし、全く止まる気配を見せない。
「そんな!カナデさんが!」
「カナデ様!マヤさん!カナデ様を助けてください!」
「ちょっと待ってろ」
真耶は奏に寄り添い目を見開く。優眼だ。ある程度の痛みは防げるが、あまり効果は無いみたいだ。
そもそも俺は回復系の魔法を持っていない。だから、日本で学んでいた医療技術を使うしかない。
まずは止血をする。そして、栄養失調にならないように魔力を栄養に変え流し込む。出血が多い。不足しないよう魔力を血液に変え流しこむ。
恐らくこれでなんとかなるだろう。だが、これは応急処置でしかない。あとは奏が耐えるしかないのだ。
ルーナ達はそれを察したのか、回復魔法を使い始めた。奏の体力が尽きないようにしているのだろう。真耶は、そんな奏を見つめながら自分の体の異変に気がついた。
読んでいだだきありがとうございます。感想などあれば気軽に言ってください。




