第58話 夢と現実
その日は久しぶりに夢を見た。自分が7歳くらいで両親がいる。そして、月日は流れ自分も高校生くらいになった。それでもまだ両親は生きている。
「母さん……」
自分の部屋で呟いた。何も用はない。言いたいこともない。だけど、何故か名前を呼んでしまった。すると、母さんがどこからか現れてきた。そして、母さんは自分の子供に向けるような目をせず、恐怖にまみれた目で見てきた。
「な、なんでそんな目を……」
「ただいま」
突如、後ろから声がした。父さんだ。俺はすぐに父さんの後ろに隠れようとした。しかし、父さんも同じ目をしている。
「なんなんだ……?」
「一体どうしたの?」
今度は姉貴の声がした。振り向くと姉貴が立っていた。俺は、姉貴の背中に隠れようとして……止めた。姉貴の背後は何故か真っ赤に染まっている。そして、背中に隠した生首が見えた。
「っ!?なぜ……!?夢でさえも同じ目をするのか……!」
「あら、夢だって分かってたの?」
「なんで分かったの?」
「教えて欲しいな」
3人はそれぞれそう言って近づいてくる。逃げ場はない。挟まれてしまった。
「クッ……そもそもな、俺の両親は俺が殺したんだよ!姉貴も、ついさっき俺を殺しに来た!これが夢じゃないわけないだろ!」
そう言っておきながら不思議に思う。なぜ目覚めようとしなかったのか。なぜ夢だとわかっておきながら現実だと思ったのか。
いや、思ったんじゃない。そう信じたかっただけだ。自分は人を殺したことはなく、姉貴も殺人オタクじゃない。そして、自分は異世界に召喚されなかった。そんな日常を信じたかったんだ。
だが、夢だと言ってしまった。もう起きる時間だと言うことだ。
真耶は1度目を閉じると左目をうっすらと開けた。部屋にあった鏡を見ると、赤く光っている。邪眼だ。それに、右目に時計のような模様が浮かんでいる。時眼だ。
どうやら覚醒し始めているらしい。段々と今の自分に近づいている。だが、覚醒するにはまだ足りないらしい。体が起きようとしない。
……いや、足りないんじゃない。多すぎるんだ。無いはずのものがある。多すぎるものは消さないといけない。
「……母さん、父さん……」
「何?」
「……死んで。”物理変化”」
真耶は魔法を唱えた。床は鋭いトゲとなり2人を襲う。そして、2人は突き刺された。しかし、血は出ない。体が霞のように消える。
「次は姉貴だ。あね……玲奈、言い残すことはあるか?」
「真耶……勝ったと思うにはまだ早いんじゃない?私を舐めないでもらい……っ!?」
「バカか?ここは夢の中。そして俺は邪眼を使った。もうここは俺の領域だ。お前にどうこうできるものじゃない」
真耶は右手を玲奈に向かって突き出した。右手に魔力が溜まっていく。そして、不敵な笑みを浮かべて解き放った。
これは、魔法じゃない。ただ魔力を溜めて球体にし、投げただけだ。それでも威力は十分にある。
さよならだ。俺の好きだった皆……。
「っ!?」
その時、世界が歪んだ。真耶の放った魔力の球体を中心としてぐにゃぐにゃに歪んだ。真耶はその歪みに耐えようともせず向かっていった。手が、足が、体が歪む。そして、その歪みは真耶を吸い込んだ。
「……やっとか……疲れる夢だ」
真耶は目覚めるなりそう言った。その声は小さかったのか、誰からも返事は来なかった。……そもそも起きてねーわ。
そんなことは置いといて、何故か俺は何かを抱きしめる格好をしている。というか、抱きしめている。胸の辺りに暖かい息が当たり、お腹の辺りに柔らかい物が当たっている。体もすごく柔らかい、……ん?体?じゃあこの柔らかいものは胸か。まてよ、状況がよく分からない。昨日の記憶が……
あ、思い出した。俺は玲奈と戦ったあと奏を抱きしめて寝たんだ。じゃあ、この抱きしめているのは奏か。
真耶は奏を起こさないように静かに起き上がると、布団の中を見た。やはり奏がいる。とても気持ちよさそうに寝てやがる。ちょっといたずらしてやる。
ふにふにふにふに……
うわっ、おっぱいじゃないのにめっちゃぷにぷにだ。
真耶は奏の腕や頬、お腹を触ってそう思う。そして、遂におっぱいに手を伸ばした。
むにゅう……
むにむにむにむにむに……
き、気持ちいい。なんでこんなにぷにぷになんだ。クソッ、手が止まらない。ていうか食べたい。
真耶は胸を揉みながら奏を見つめた。そして、起こさないように静かに寝転がると布団を被った。そして、奏の胸のところに顔が来るようにズレる。そして、奏の胸に顔を埋めた。
むにゅうむにゅう……
すごく気持ちいい。もちもちぷにぷに……そう、もちぷにだ。本当に食べたい。絶対美味しいと思う。日本にいた時にもちもちぷにぷにのアイスを食べたが、絶対にそれより美味しいと思う。
あぁ、食べたい。食べられなくてもこうして奏をずっと抱きしめて起きたい。というか、もう手がおっぱいから離れない。これが奏の力か。
「……てか、なんでこんなに起きないんだよ。夢に囚われてんのか?」
……夢に囚われる?待て、昨日アイツが来たってことは何かしらのトラップが仕掛けられているはずだ。
……まさか!みんなは夢の中に……!
「ん……あ、おはよう」
奏が起きた。奏は起きると指で眠い目をこすり、欠伸を1つした。そして、すぐに自分の胸を揉まれていることに気がついた。
瞬時に顔が真っ赤に染まる。気絶しそうなくらいの恥ずかしさが一瞬襲ってきたが、何とか堪えた。
しかし、それでもやはり表情は隠せない。少し泣きそうな顔になる。顔を真っ赤に染め上げて目尻から涙を流す。
「ま、まーくん……は、恥ずかしいよぉ……!」
「そうか、悪いな」
「そう思ってるなら胸を揉まないでよぉ。恥ずかしすぎて死んじゃうよ」
真耶は少し残念な表情を見せ手を離した。そして、布団から出てカーテンを開けた。外は、昨日同じ。玲奈が襲ってきたことなど全くわかっていない様子だ。
「……そろそろ次の街に行く時かな」
真耶は小さく呟いた。そして、ルーナ達の布団をどける。布団を退けると、顔を真っ赤にしたみんながいた。やはり起きていたようだ。
そんな会話をしてどこに行くか思いついた。
「次はギアの街だ」
真耶はそう言ってくれる不敵な笑みを浮かべた。
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