第57話 突然の襲撃
「あ、先に言っておくけど、変な動きを見せたらこの奏ちゃんは殺すから」
姉貴はそう言って手を黒く染めた。
……姉貴……少し姉貴について考えてみよう。何か隙や弱点が見つかるかもしれない。姉貴の名前は月城玲奈、俺より3つ年上。昔から完璧超人で俺の次に頭良かった。
それがまさか、殺人オタクだったとは。考えてみても、何をするにも完璧だったな。チェスも将棋もオセロも毎回5時間以上の接戦だったし。
そう言えば、いつも姉貴は俺のキャラを人質にとるな。将棋も俺のコマで王将を守ってた。チェスも同じだ。
だったら、いつものやり方で倒せるか。ちょっとずつ攻める感じで、気づかれないように……
「暗器は捨てなよ。そこに入ってるんでしょ」
玲奈は真耶の服の裾の部分を指さした。バレていたか。
真耶は服の裾から手のひらより少し大きいくらいの少し太い針を取り出した。
「よく分かったね」
「そりゃあ、私は真耶の姉よ。真耶の戦い方は十分理解してるもの」
やはり、速攻で決めるのは無理っぽい。なら、時間をかける他ないか。……いやまて、時間をかけるか。時眼ならあるいは……いや、これは切り札だ。使い所を間違えば死ぬ。それに、準備はもう完了した。
「なぁ姉貴、奏を返す気はないんだな?」
「えぇ」
「そうか、じゃあ最後に、なんで俺を殺そうとする?」
「それは真耶が邪魔だからよ。私はこの世界に来て人を殺したい。ただそれだけなの。でも、真耶と戦って分かったわ。真耶は私より強いってね。だから、邪魔になる前に殺しておこうと思ったのよ」
……いや、そんな理由で殺しにくるなよ。仮にも俺の姉貴だろ。……失望したよ。もしかしたら、父も母もこのことに気づいていたのかもしれない。だから俺が使徒を殺した時にあんな目をしたのかもしれない。
だとしたら、それはそれで迷惑なことだ。まぁ、両親はもういないし良いか。それよりこっちだな。
「姉貴、俺はもう姉貴のことを姉とは思わない。俺は人を殺すのがすきで殺すわけじゃない。だから、好きで人を殺す姉貴……いや、玲奈とは仲良くなれそうにないんだよ。それに、奏を傷つけるやつは誰であろうと許さない」
真耶はそう言って右手を突き出した。
「一体何をするつもりなの?下手なことをすれば、殺すわよ」
「……フッ、多分だけど、俺の方が速いよ」
真耶はそういうと、目を閉じる。そして、すぐに左目を見開いた。その目には、太極図が描かれている。
「”離せ””吹っ飛べ””物理変化”」
玲奈は何が起きているのか分からなかった。突如、自分の体が制御できなくなる。勝手に奏をはなし、体が後ろに吹っ飛ぶ。そして、後ろにあった窓は埋められており壁に背中を叩きつける。
「”物理変化”」
床が鋭いトゲとなって玲奈の体を突き刺した。それで、四肢を固定し動けなくする。毎度おなじみの技だな。
真耶は玲奈を捕らえると、奏を後ろにさがらせる。そして、後ろでルーナ達を守れるように結界を張らせた。
「甘いわね。さっさと殺さないからみんな死ぬのよ。”ダークブラスト”」
玲奈は四肢を固定されながらも反撃をしてくる。黒い光線が向かってきた。まぁ、当たれば死ぬかもしれないしタダではすまなさそうなのだが、当たるわけないだろ。
「”消えろ”」
その言葉で黒い光線は消滅した。真耶はそれを確認すると布団の中に隠していた剣を取る。そして、鞘から抜き取り玲奈の心臓に突き刺した。
「甘いのはお前だったな。”物理……っ!?」
突如全身に痛みを感じた。見ると、体中に桜色の杭が刺してある。またあの技か。面倒だ、全て消滅させ……っ!?
気がつくと、玲奈の姿がない。それどころか、アダマンタイトで作った壁を壊されている。見た感じ、消滅したようだ。
「触れた部分を消滅させているのか?」
真耶は近づき触ってみる。触っても何も起こらない。どんな技を使ったらアダマンタイトが消滅するのだろうか。
「アダマンタイトって、世界一硬いんじゃねぇのかよ」
真耶はそう言ってアダマンタイトの壁を殴り壊した。壁が無くなったことで外が見える。そこから、遠ざかっていく人影が見えた。
玲奈は後ろで何かが壊れる音がしたのに気がついた。振り向くと、真耶が窓からこっちを見ている。
玲奈は背後からの攻撃に気をつけながら素早く逃げる。そして、小さく呟いた。
「真耶、やはりあなたを殺すのは難しいわね。でも、あれくらいならいつでも殺さそうね」
その言葉が風に乗って虚空の中に消えていった。
真耶は玲奈が見えなくなったところで部屋の修復を始めた。と言っても、壊したのは俺じゃない。あいつの桜色の杭と、奏の結界のせいだ。
「そう、7割お前なんだよ」
「ギクッ!……私は奏ではありません」
「俺は奏なんて言ってないぞ。お前と言ったんだ。指さしてお前と言ってるから名前なんてどうでもいいんだよ。裸釣りにされるか俺の傷を治すかどっちか選べ」
ていうか、あれだけの傷を負っても全然痛みを感じない。優眼は発動してないのに。
もしかしたら優眼を使わなくても体をいじれるかもしれない。
「いや、やめておこう」
「ん?何か言った?」
「いいや、なんにも」
奏は不思議そうな顔をしながら呪文を詠唱し始めた。真耶はそれを聞くと、布団の上にうつ伏せの状態で寝転がる。そして、静かに癒されるのを待った。
奏の治癒が始まる。全身が癒されていく。まるですごく上手なマッサージを受けているようだ。
「”物理変化”」
遠くなる意識の中魔法を唱えた。壊れていた地面や壁が修復されていく。
奏が魔法を使うのを止めた。恐らく傷を全て治したのだろう。真耶は仰向けになり奏の顔を見た。すごく嬉しそうで、安心しきった顔だ。
……フッ、可愛い顔しやがって。そんな顔されたら意地悪したくなるじゃないか。
真耶は奏の首の辺りに手を回した。突然の事で奏は困惑する。頬を赤らめ周りを見渡す。真耶は優しく微笑みかけると体を起こして、奏の唇に自分の唇を合わせた。
「っ!?」
奏は最初は驚いて離れようとしたが、離れたくなかったのか抱きついてくる。真耶は合わせた唇を離さないようにひっくり返り、奏の上に乗った。
そして、唇を離し奏と向き合う。顔が近い。奏の荒いい息と赤くなった頬が絶妙に合い、妖艶な雰囲気をかもし出す。
「さっきは邪魔が入ったからな。もう一度言うよ」
ドキドキと心臓がなる音が聞こえた。だが、自分じゃない。奏だな。……本当に可愛いヤツめ。色んなことに嘘をついたが、これだけは嘘をつけないな。
「奏、好きだよ」
「私も、好きだよまーくん」
2人はそう言って抱き合うと深い眠りについた。
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