第54話 古代の魔力
奏達は心配した。普段なら夕飯の時間になれば帰ってくる。しかし、今日は帰ってこない。しかも、何故か部屋が血まみれだ。
「どこに行ったんだろ……」
「クエストって訳では無さそうですよね」
「買い物でも無さそう」
アロマとフェアリルは部屋を散策しながらそう言う。
部屋を見ると、血塗れなところ以外何も変わらなかった。ただ、机の上には1000ギル置かれている。だから、クエストに行ってきたのは分かる。
それに、お金を置いていっていることから買い物でもないと分かる。だとしたらどこだろうか。
「これまでこんなこと無かったのに……しかも、バイトも辞めちゃったんだよね」
「あ、私も」
「私もです」
なんと、皆バイトを辞めたらしい。まぁ、普通に考えれば辞めるのは当たり前。なぜなら、冒険者ならクエストで稼げばいいからだ。恐らくそれをバイト先で教えられたのだろう。
それはさておき、今は真耶を探すのが先決だ。皆は真耶がいきそうな場所を探す。そのためにまずギルドに向かった。
「おぉ!早速金稼ぎか?」
「い、いえ、その、一緒に旅をしていた人が宿に帰ったら見当たらなくて……」
「何?」
「そ、それで、どこにいるか探そうかと……」
「そうか」
ギルドの職員の人は話を聞いて少し考えた。まずは冒険者達に捜索をさせる。それでも見つからないなら、ギルドに依頼として届けさせる。
「なぁ……」
「なぁ、姉ちゃん。その連れってもしかして、背中に剣を背負ってでかい盾をその上から被せてたやつか?」
ギルドの職員が話しかける前に、冒険者の1人が話しかけた。その冒険者の言っていた人を頭の中で想像する。剣を背負って、でかい盾をその上から被せている……
真耶だ。そんなの真耶以外に見つからない。恐らくその武器はグレギルが作った剣だろう。
「あの、服装とかは……」
「服?暗かったからよくわかんねぇな……あ、でも黒い服ってことだけは分かったぜ。あと、右目を髪の毛で隠してたよ」
黒い服で、右目を髪の毛で隠している人……
真耶だ。もう完全に真耶だ。
「あの!どこに行ってたんですか!?」
「え?あぁ、な、なんか街の外に行ってたぞ」
奏達はその言葉を聞くとすぐさまギルドを出て街の外に向かった。冒険者とギルドの職員には大声で遠くからお礼を言う。ギルドに残された2人は一瞬すぎて固まってしまった。
「フェアリルちゃん!絨毯を!」
「は、はい!」
フェアリルは絨毯を広げた。奏はその上に飛び乗る。そして、魔力を送り込んだ。真耶ほどでは無いが、走るよりは速い。
奏以外の全員は絨毯の上に飛び乗ると中へ入って行った。
「皆!多分まーくんは遺物調査に行ってるよ!さっきそういうクエストを見たんだ!まーくんの性格だから、絶対調査に行ってるよ!」
7人は奏の言葉を聞いて遺物がある場所まで向かった。
━━一方その頃真耶は……
「……何かが……体の中に入ってくる……」
草むらの上に寝転がりそう呟いた。周りには狼の魔物の死体が転がり、胸の辺りに右腕を置いてある。
魔法で治そうにも、何故か発動しない。さっきからずっと魔法を使っているが魔力が使用されるだけだった。だが、魔力は感じる。だから、魔力が無くなった訳では無いのだ。そして、それともう1つ違う力を感じる。古代の魔力だ。こうなる前は1割程度しかなかったのに、今はもう8割は侵食している。
右腕から血が流れている。時眼すらも使えない。封印されたのかと思ったが、封印された感じはしない。封印されていたら、魔力も寿命も使用されないからだ。
(……やっぱり、古代の魔力が邪魔をして……)
意識が遠のいていく。だが、右目の時計はまだ正常に動いている。恐らく気絶だろう。真耶は、気絶する前にあることを思いついた。
「……古代の魔力……使えないのか……?”物理……変化”」
やはり発動しない。そして、今ので完全に魔力は無くなった。その部分に古代の魔力が流れ込んでくる。
一体どうなるのだろうか。もしかしたら死ぬかもしれない。古代の魔力に現代の人間が耐えられないかもしれない。こんな危ない賭けはもうしたくないな。
「……っ!?これは……!」
真耶は心の底から何かを感じた。これまで感じたことの無いなにかだ。そして、これまでの真耶は消えた。
「ククク……フハハハハハ!いい気分だ」
そう言って不敵な笑みを浮かべゆっくり起き上がった。そして、静かに立ち上がった。
「まーくん!」
突如、どこからか声が聞こえた。声がした方向を見ると、絨毯に乗った奏がいた。
「マヤさん、なんでこんなところに……」
「待って!まーくんじゃない!あなたは誰!?」
奏はそう言ってルーナを止めた。そして、杖を持ち何時でも魔法を唱えられるように構えた。
「俺が真耶じゃないだと!バカか!どこが違うというのだ!?」
「全部よ!顔や声は同じでも、表情も心も全部違う!まーくんじゃない!まーくんを返して!”ゴッドフェニックス”」
炎の不死鳥が現れた。赤い衣を纏った不死鳥は真っ直ぐ偽物真耶に向かって飛んで行った。
炎の不死鳥は偽物真耶の前まで来ると羽を大きく広げ止まる。そして、まるで包こもうとするかのように丸まっていく。
「なるほどな……俺を捕まえるつもりか。失敗だったな。すぐに殺すべきだった……じゃないと死ぬよ」
そう言っておどけたように笑う。そして、右手を奏に向かって掲げた。
嫌な予感がする。それに、奏の放った不死鳥が苦しんでいるように見える。
「皆、気をつけて。”レインボーウォール”」
奏達の目の前に虹色の壁が現れた。
「後手に回るか……絶対防御でもないのに。愚かだな」
偽物真耶の右手に謎の力が集まっていく。古代の魔力だ。偽物真耶は左目を光らせた。見たことない模様が浮かんでいる。
「まぁ……少しは手加減してやるよ。”吹っ飛べ”」
……パリィンッ!
……気がつくと、奏達は100メートル程吹き飛ばされていた。体中に激痛が走る。吹き飛ばされた時に色々打ち付けたのだろう。視界も歪む。
奏はフラフラになりながら立ち上がった。他の皆は、起きてはいるが立ち上がれない。奏は、偽物真耶がいた場所を見つめる。しかし、そこには偽物真耶は居ない。
「どこに……っ!?」
だんだん視界が戻ってきた。しかし、戻った視界に写ったものは信じられない光景だった。
周りの木々が全てなぎ倒されている。炎の不死鳥は弾け飛び辺りに星のように煌めいている。
そして、その中に偽物真耶が立っていた。さっきまで右腕はなかったのに再生している。
「まーくん……」
奏達は何が起きたか分からなかった。何故か真耶が自分達を傷つけようとする。普段の真耶ならしない事だ。やはり、目の前の真耶は真耶では無い。
「……もう!絶対にまーくんを取り戻してみせる!今度は殺す気で行くよ!」
奏はそう叫んで再び杖を構えた。
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