第53話 遺物で作られし剣
真耶の持つ神眼にはいくつか能力がある。その1つがよく使う、ある物質を別の物質に変えるものだ。もう1つは、全ての存在の情報を見ることが出来るものだ。
だが、これまで使って来たのはここまで。ほかの能力は使ったことがない。真耶は左目を見開いた。そして、遺物に手を触れる。
どうやらこの遺物の固有の能力は魔力の吸収ではないらしい。物理変化によって干渉したため情報を見ることができるようになりわかった事だ。
しかし、わかったらわかったで尚更厄介だ。この能力は強いが鞘に入れにくくなるかもしれない。だが、魔力を吸う理由は分かった。
どうやら遺物の魔力が足りてないらしい。そして、この流れ込んでくるものはやはり古代の魔力のようだ。
古代の魔力はどんな魔法にも使用することは出来ない。ただし、古代の魔法やスキルには使用することが出来る。と、書いてある。
「……」
……うん、まぁ、ないな。そもそもこの世界に古代の魔法を使える人自体いない気がする。転生者である紅音はどうだろうか?召喚者である奏や勇者パーティーの人達はどうだろうか?
そんなことを考えるが、多分無理だろう。そもそも古代の魔力を知るはずがない。なんせ遺物に触ったことがないからな。
今更だが、俺にも1つくらい技や魔法があってもいいと思う。多分そういうのがないから苦戦してきたんだと思う。さっきから思ってばかりだが、作ってみようかな。
「いや、その前に鞘だ。封印術とか施したいが……俺はそういう魔法を持ってないからなぁ。どうしようかなぁ……神眼の力を……いや、あれはダメだ。やっぱ、今じゃないよ。隠された力を使うのは……」
……………………あ、そういう能力の遺物を探せばいいじゃん。
真耶はその考えに行き着くと、すぐに行動に出た。遺物で作った剣を持って宿を出る。そして、遺物を拾った場所まで向かった。
かなり急いできたからか、暗くなる前に来ることが出来た。もう夜に近いからか、人は少ない。
真耶は他の人と同じように手袋をつけると早速探していく。と言っても神眼で見るだけだ。左目を黄色く光らせ見開く。すると、一気に情報が頭の中に流れ込んできた。
……ふむふむ、なるほど、うん……
結果から言うと、無かった。しかし、少し興味深いものを見つけた。
「合成可能……?」
どういうことだろうか?合成が出来るということだろうか?そう言えば、遺物はそれぞれ形が違う。もしかしたらこの遺物は他の遺物のどれかと合成出来るのかもしれない。
真耶はそう考えるとすぐさま遺物を探した。すると、他の遺物で合成可能というものが10個くらいあった。しかも、全然気づかなかったが形を変えたこの遺物にも合成可能と書いてある。
「……いや、違うな。神眼で別のものに変えたのだからこの形になって合成が可能になったのだろうな。まぁいい、やってみよう」
真耶はそういうと、合成可能と書かれた遺物を見た。何かしらのパーツのようだ。探すとピッタリ合う物がある。
カチッという音と共に遺物が重なった。そして思った。これはプラモデルだなと。だとしたら簡単だ。合う組を見つければいい。
━━そこからは早かった。まるでプラモデルを作るのが世界で1番上手いかのように素早く作っていく。そして、真耶が作り始めてから4時間で遺物プラモデルは出来た。
「……めちゃめちゃ疲れたな……」
なぜこんなに時間が経ったのだろうか?答えは簡単。パーツがなかったのだ。さらに、大きさがめちゃくちゃ大きくなってしまった。
もともと作り替えた時にショートソード程度の大きさにしたが、まさか大剣の大きさにまで大きくなるとは思わなかった。
「……さすがにデカすぎるな。”物理変化”……っ!?」
突如体に魔力が流れ込んできた。そして、肩の周りが一気に吹っ飛んだ。そのせいで体が吹き飛ばされてしまった。
その場に血が飛び散る。そして、真耶の右手がどこかに飛んで行ってしまった。
「……カハッ!……はぁ……はぁ」
真耶はその場に立ち上がった。そして右手を治そうとする。
「なぜ……!?」
何故か右手が治らない。魔法を使っているはずが、発動しない。魔力が残ってないのかと思ったが、感覚的には残っている。
真耶は重たい体を引きずりながら遺物のある場所まで歩いた。すると、遺物は何故か形が変わっている。
その遺物は、ついさっきまでの大剣とは異なり片手剣の大きさになっている。真耶はその剣を左手で掴んだ。すごくしっくりくる。大きさも重さも握り心地も全てが丁度いい。
「これは……っ!?」
なんと、あの魔力を吸収する能力が無くなった。しかも、よく見たらこの剣は黒い鞘に入っている。
真耶はその剣を鞘から抜いた。能力は変わらないらしい。剣からただならぬオーラが溢れ出ている。
「まさかこうなるとは……ハハッ!」
真耶は笑い飛ばすと剣をさやに戻した。そして、もう一度自分の体に向かって魔法を唱える。やはり発動しない。
「一体何が起こって……っ!?」
不意に視界に何かが写った。だが、今はもう夜だ。人とは考えにくい。そこから考えられるものは少ない。
「……フフッ、魔物か。丁度いい、この遺物の力を見る」
真耶はそう言って遺物を腰につけた。そして、鞘から抜く。どうやら能力は鞘から抜くと発動するらしい。だとしたらこの鞘は封印能力がある。
真耶は魔物達の数を確認した。数十匹はいる。大した量ではない。一撃でどれだけ倒せるか……
ガサガサ……
どこかで草が揺れる音がした。その直後に狼の姿の魔物が襲いかかってくる。
「死ね」
真耶は剣を縦に振り下ろした。暗幕の中に月明かりで照らされた黒い刃が煌めく。しかし、その刃は魔物に当たることはなかった。
真耶は剣を少して早く切りすぎたのだ。そもそも暗く、片目でしか見えてない状況だ。距離感もなかなか掴めない。そのせいで外してしまったのだ。
しかし、真耶は動じることも無かった。
「ククク……アハハハハハ!」
真耶は不敵に笑った。その声が暗い夜の空に消えていく。そして、気がついた。狼の姿をした魔物が襲ってこないことに。だが、その理由を真耶は知っている。真耶は魔物が来ていた方向に目をやって小さく呟いた。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………死ねよ」
ブチャッ!という音がした。真耶の頬に液体が飛んでくる。魔物の血だ。何故か魔物は死んだ。
だが、その理由も簡単なもの。あの時真耶の攻撃は当たっていたのだ。いや、剣自体は当たっていない。当たったのは剣が持つ固有スキル。それは……
「……波動だ」
真耶はそう呟いて剣を横に振り払った。そして、その勢いを無くさず回転する。回転斬りと呼ばれるものをした。
周りの木々がなぎ倒される。そして、魔物たちの姿が見えてきた。全部狼だ。しかし、そんなことはもうどうでもいい。真耶の放った波動は凄まじい威力の波となり狼達を襲った。
狼達は初めは耐えていたものの、すぐさま耐えきれなくなり潰れだり、弾けたりして死んだ。
「ククク……これが俺の力か……」
真耶はそう呟くと、力が抜けたかのようにその場に倒れた。
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