第4話 永久的な行動不能の危機
「俺達はここで登録したいんだが、他に方法は無いのか?」
「はい・・・!今は、私しかいないんです!」
女の子は泣きながらそう答える。服を脱いでいるせいか、それだけ見ると凄くいけないことしているようだ。
「あれ?そう言えば冒険者達・・・は・・・」
そこで気がついた。窓の方で、無理やりこじ開けた冒険者達が今の真耶達の様子を見ていた。かなり怒っている様子だ。
「こ、これは違うんだ!俺は何もやってない・・・うわっ!」
後ろに下がった時にうっかり足が絡まって転けてしまった。そして、どういう訳か真耶が女の子を押し倒す形になってしまった。
「あ・・・」
女の子の顔が真っ赤に染まる。真耶も顔を真っ赤に染める。
「ひゃあっ!そこは・・・大きくしちゃ・・・ダメでしゅ・・・!」
「あ、あぁ・・・悪い・・・はっ!」
咄嗟に冒険者の方を見た。何人か入ってきている。詰んだ・・・。
「や、や、や、やばい・・・」
「あんちゃん・・・死ぬ準備は出来たかい?」
冒険者達はそんなことを言ってくる。多分・・・いや、確実に死んだ。多分この後ボコボコにやられてそこら辺のゴミ箱に捨てられる。
「ま、まだ俺は死にたくないぞ!”物理変化”」
「なっ!?」
真耶は咄嗟に自分達を壁で覆った。
「ちょっ、ちょっと真耶さん!?恥ずかしいですよ!」
「わ、悪い!ちょっと我慢してくれ!」
今出たら確実に殺される。そんな気がした。いや、気がしたとかそういうレベルじゃない。壁が1枚あるのに殺気が伝わってくる。これはまじで死ぬ。
「ねぇ君、名前は?」
「な、名前ですか?ルーナ・・・ルーナ・グレースです」
「ルーナ、頼みたいことがある」
ルーナは不思議そうな顔をした。そんなルーナに真耶が作戦を説明する。
「そ、そんな・・・それって、私まで悪いみたいじゃん!」
「仕方ないだろ!俺だけだと確実に殺されるんだよ!」
「うぅぅ〜・・・分かりました・・・」
真耶は凄く嬉しそうな顔をした。心の中で100回喜んで壁を無くす。すると冒険者の1人が攻撃をする直前だった。
(マズイ!)
「ルーナ!絶対動くな!”物理変化”」
「え?」
真耶は咄嗟にその場にあったゴムを変化させた。そして、ゴムの壁を作りルーナを守る。冒険者達は壁が無くなったことなど一切気にせず攻撃を繰り出す。そして、それは真耶の背中に直撃すると鈍い音を立てて真耶の骨を砕いた。
「ま、真耶さん!?ヤダ!本当にダメ!死なないで!」
「まーくん!?嫌だよ!まーくん!」
その声で冒険者達も目が覚めた。目が覚めると冒険者達の前に背中が逆の方向に曲がる真耶の姿がある。
(あぁ、これが・・・本当の死なんだ。意識も無くなってきたな・・・)
真耶の意識はどんどん消えていく。その時、真耶の目の前に何かが現れた。
【特殊スキル、優眼を解放しました】
「ゆ・・・う・・・がん・・・?」
そこで、真耶の意識は途絶えた。
━━それからは早かった。救護班が来てすぐに真耶を病院へ連れて行った。病院に着くと緊急手術が行われた。と言っても、普通より強大な回復魔法を大人数でかけるというものだ。今回は6人の治癒師が真耶を直すのに用意された。
「まーくん・・・」
ガタンッ!という音と共に、真耶と治癒師の人達が出てきた。そして、その中の1人が奏に言った。
「彼はもうダメでしょう。一命は取り留めたものの、冒険者をするなど不可能です。歩くこともままならないかと・・・」
その言葉で奏は膝から崩れ落ちた。その場にいたルーナと真耶に攻撃した男も絶句した。皆は黙って真耶が病室に運ばれるのを見るしか出来なかった。
━━更に、数十分がたった。3人は真耶のいる部屋で話ている。
「済まなかったな・・・ルーナはわしの娘でな。つい、娘にエッチなことをしたと思い込んでしもうてな・・・本当に済まない」
「そんな、良いですよ。私も、何もしてあげられなかったんですから」
そんな会話をしている。
「本当にこの男は素晴らしい。あの状況になっても、我が娘を守ってくれた。なんとお礼をしたらいいことか」
ルーナの父はそんなことを言って涙を流す。その隣で奏とルーナがもっと泣いている。
「うぅ・・・」
その時、真耶が目覚めた。皆一斉に駆け寄る。
「うぅ・・・いてて・・・」
真耶は静かに体を起こした。それだけで激痛が走る。
「まーくん!?」
「フッ、泣くなよ。可愛い顔が台無しだぞ」
「そんなこと・・・言ってる場合じゃないよ」
「フッ・・・」
(確かにな。出だしでいきなり永久的な行動不能はマズイぞ)
真耶はそんなことを思いながら周りを見渡す。
(・・・まぁ、回復は出来ないこともないんだが・・・骨だしな。仕方がない。さっき手に入れたあれを使ってみるか)
「済まない!わしのせいでこんな目に・・・」
ルーナの父はそう言って謝ってきた。真耶は静かに微笑むと、別にいいよ、とだけ言った。
「ま、俺達はやりたいことがあるしな。いきなり行動不能はまずいね。少し、これから見ることを秘密にして欲しいんだけど・・・いいかな?」
真耶はそう言って皆に問いかける。皆は不思議そうな顔をして首を傾げる。
「良いけど・・・何するの?」
「何って。まぁ見てろよ。オタクはこんくらいの傷は治せるんだよ。”物理変化”」
魔法を唱えると、とてつもない激痛が走った。
「ダメ!魔法を唱えると、魔力回路が焼ききれちゃうよ!」
「魔力回路?なんだそれ?」
「魔力回路ってのは、魔力を流す管みたいなものだよ。血管とかと似てるんだ」
なるほど、だからこんなに痛みが激しいのか。焼き切れる寸前のようだ。恐らく切れれば治らない。と、言うことだろう。
「・・・ま、こんなことでやられてたら、とっくに死んでるよな。”優眼・・・物理変化”」
真耶は目を黄緑に光らせ紋章を浮かべた。そして、自分に魔法をかける。ゴリゴリという鈍い音を立てながら真耶の体が動く。動きが止まると、真耶はベットから降りた。
「な、何が起こったの!?」
「自分の骨の位置を治して戻しただけだ」
「え!?ちょっと見せて!」
そう言って来たので上半身を脱ぐ。すると、真耶のたくましい体がおもむろになる。そして、その体を見てルーナと父は絶句した。なんと、真耶の体は筋肉がムキムキだったのだ。よく見ると、腕とか足とかも筋肉が凄い。しかも、それだけあるのに腕が細い。
「なんと!これほどまでに完成した体が見られるとは・・・素晴らしいの一言では済まされんぞ!」
「それほどか?オタクはだいたいこんな感じだ」
真耶がそういうと、奏は、そんなことは無い!と怒りたくなったが我慢した。そして、体を見る。しかし、どうもなっていない。本当に治ったのだ。
「なんで・・・!?」
「それはこの目の力だ」
そう言って指を刺したのは黄緑に光る目だった。この目は、優しいものにだけ現れる目。能力は、仲間の回復効果上昇、痛覚体制。そして、自分の痛覚無効、自動回復。そのため、骨を動かしても痛くなかったのだ。
「じゃ、治ったから退院な。冒険者として登録したい。ルーナ!来てくれ!」
平然と動き回る真耶を見て奏とルーナの父は呆然とした。
「す、凄いのぉ・・・」
ルーナの父の言葉が虚空の中に消えていった。真耶はその言葉が聞こえたのか手を振るとギルドに向かう。奏はその場を立ち上がると、急いで真耶について行った。
「さて、まずはここがどこなのか。そこから話してもらおうかな。あと、登録方法だが、いい案がある」
真耶はギルドに着くと窓口に行き話を始めた。ルーナはその言葉を聞くと話を始めた。
「この街は、始まりの街だよ。だいたい冒険者になりたい人が来る場所なの。それより、傷は大丈夫なの?」
「始まりの街ねぇ・・・まぁ、テンプレだな」
真耶はそんなことを言う。そして、ルーナに言う。
「じゃあまずは登録をしてくれ。俺の考えが正しければ、エッチはしなくてもいいはずだ」
真耶はそう言った。その言葉を聞いて、ルーナは絶句する。
「どういう・・・こと?あと、腰は大丈夫なの?」
その問いかけに真耶は静かに微笑んだ。
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