第43話 2つの脅威
「マヤさん、なんで行かないんですか?」
「待て、誰かがあの二人をつけている」
そう言って指を指した。その方向に人影がある。望遠鏡で覗くと、黒いフードをかぶり黒いナイフを持っている。見るからに怪しいヤツだ。
「多分アイツらがあの子を始末しに来た使者だな。見るからに強そうだ」
「助けに行かないのですか?」
「危なくなったら行ってやる。それに、アイツらの実力を見ておきたい」
「マヤ様の意地悪です」
おい、それはどういうことだ?俺が意地悪だと?……否定出来ないな。仕方がない。意地悪だから助けないでおこう。
だが、意地悪だとかそんなことは関係なしに本当にアイツらの実力を知っておきたい。勇者である希望はレベル100越え、さらにはステータス1万超だった。俺のレベルが未だに1ということからレベルアップには個人差があるのだろうが、どれだけ上がったのか知りたい。
それに、レベルとは違った戦闘技術……あいつらで言えば弓や暗殺の技術がどれだけ高いのかを知りたい。
そんなことを考えていると声が聞こえてきた。
「君達だろ。ずっと僕達を付け回してたのは。君達も衛兵に突き出してやるよ」
「矢影くん、いくよ」
2人は頷くといつも通り攻撃する。矢影は弓で、霧音は暗殺でそれぞれ得意なものを活かしながら戦う。
しかし、ダメだな。確かにレベルも高そうだ。ステータスも十分あるだろう。しかし、ダメだ。なぜならこいつらは……
「これで終わりだ。降参しろ!」
そう、こいつらは日本人のゆとり世代。人を殺すなんて出来ない。甘いんだ。
「甘いな」
「ん?何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
甘さとは弱さという人がいるのを漫画で見た。前まではそれは違うと思っていた。だから、少しくらい甘くても大丈夫だと信じていた。だが、それは違うと思い知った。だから俺は甘さを捨てた。
今ではそう思う。甘さとは弱さだ。だから、甘いあいつらは弱い。
「どうするの?」
「ん?何が?」
奏はまるで心を呼んだかのように聞いてきた。真耶は少し考えると矢影達のいるところを見つめる。まだ矢影達が優勢だが、恐らく負けるだろう。いや、絶対に負ける。そう断言出来る。
助けに行くべきか、もしくは見捨てるか……
「いや、見捨てるは無いよな」
そんなことしたら5人は俺をフルボッコにするだろうな。
「だが、まだその時じゃない。先にあの女の子だ」
真耶はそう言って保護施設に足を向けた。そして、少し早いスピードで向かった。
━━少し前……
「ん?あなたは誰ですか?」
保護施設の人はそう聞く。聞いた男は何も言わない。黒い服を来て顔を隠し黒いフードのようなものを被っている。
「あの……っ!?」
その男は保護施設の人をナイフで刺すと店に侵入した。そして、奥へと入っていく。
「あ……あ……」
男が奥に行くと、女の子が座って何かをしていた。
「何をしている?マヤは殺さなかったのか?」
「っ!?すみません!すみません!痛いのはやめてください!」
女の子は男の存在に気づくと間髪入れずに謝る。土下座をして泣きながら頼む。しかし、男は何も言わない。黙って顔を踏みつけ服を全て燃やす。
「ん?首輪はどうしたのか?まぁいい。戻ったらまたつけてやる」
「ひぃっ!や、やめて……くらしゃい……!」
しかし、男は何も言わない。女の子の髪を掴むとパイのようなものを取りだし顔面にぶつけた。
「うぶっ!?……熱い!熱いぃ!」
「うるさいな」
「うぶぉぇ!」
女の子は男に殴られ声とも言えない声を上げる。そして、お腹から混み上がってくるものを感じ吐き出した。男はそれを見ると女の子の顔を擦り付け投げ飛ばす。
「汚い奴隷だ。なんでこんなに使えないんだ?このグズが。この出来損ないが」
女の子は連続で殴られる。とてつもない痛みが体を襲う。痛くて痛くて泣いてしまう。しかし、泣いても許されない。それに、これが終わってもまだあの痛いのが、死にたいくらい痛いのがくる。
女の子はこの世界に絶望した。
「……と、なるのが君達の物語ってわけね。趣味が悪いな」
突然そんな声が聞こえる。そして、現れたのは真耶だった。男は少し慌てる。突然真耶が現れたことについていけないようだ。
「死ね」
そう言って真耶は背中の剣を掴み抜いて振り下ろした。それだけで男は動かなくなり、呼吸も止まった。
「それじゃ消しとくか。”物理変化”」
男の体が無くなる。女の子はそれを見て少し嬉しくなった。しかし、それ以上に驚くことが起きて喜べない。なんと、自分が暗殺しようとした人が自分を助けたのだ。
女の子はどうしていいか分からない。何を言っていいかも分からない。その場にへたりこんで静かに見つめるしかできなかった。
「あ、ごめん、驚かせた?」
真耶はそう言うと女の子に手を差し伸べる。女の子は少し怖がりながらもその手を掴む。
「君の名前は?」
「……無い……です」
「無いのですか!?まさかこれほどまでに酷い奴隷がいたとは」
ルーナはそう言って驚く。真耶は本当に名前が無いのか神眼で見た。すると、本当になかった。だが、それだけじゃない。もっと別の驚くべきことが分かった。
「お前、転生者なのか?」
「っ!?な、なんでそれを……」
「……とりあえず一旦奴隷契約を解除しよう」
真耶はそう言うと女の子の体に手を当てる。
「マヤ様、そんなことが出来るのですか?」
「見たところこの子は魂に直接契約されている。魂眼でちょこっといじれば解除は出来る」
そんなことを平然と言う。なんとも便利な能力なのだろうか。クロエに感謝しないといけない。
ちなみにこの能力は2ヶ月間で実践で使えるほどには練習した。精度もかなり上がっている。
真耶は左目を見開くと女の子から手を離す。すると、女の子から魂のようなものが出てきた。それは、人の形をしていて首のところに首輪が、手足には枷がついていた。
真耶はそれを全て壊す。そのために、真耶自身もてから魂のようなものを出す。その魂のようなものは手の形を形成し、枷と首輪をいとも容易く壊した。
「はい終わり。これでこの子の奴隷契約は解除された」
その言葉と同時に女の子の枷は全て無くなった。皆はその手際の良さに言葉が出ない。
「そうだ、先に言っておくがこの幽体離脱は遊び半分ではしないぞ。シルバーコードと言われるものが切れたら終わりだからな」
「それが切れたらどうなるの?」
「……死ぬ」
真耶が真顔で言うせいでその場の全員が震え上がってしまった。そして、絶対に遊び半分で幽体離脱をやらせてなんて頼まないと心に固く誓った。
「さて、この子も救ったし矢影達のところに行こうかな」
「そうね」
「行きましょう」
皆は真耶の言葉に頷く。そして、屋根の上に上がると矢影達のいる場所に向かって大きく飛んだ。
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