第42話 真耶を知らないクラスメイト
真耶が睨むとその人影は再び矢を放ってきた。それを避けると手首からワイヤーの着いた手裏剣を取り出し投げつける。
その手裏剣は真っ直ぐ飛んでいき人影の腕に突き刺さる。
「捉えた。死ね。”物理……」
「やめて!」
奏が止めてきた。奏を見ると人質に取られている。やられたな。まさかいきなりこうなるとは思わなかった。
「まーくん、離してあげて」
「……分かった」
そう言ってワイヤーを引く。すると、手裏剣は綺麗に抜けワイヤーは短くなっていく。
ワイヤーが収納された位のところで男が降りてきた。弓を持っている。こいつが人影の正体で間違いないだろう。
「……てか、お前弓馬だろ」
「なぜ僕の名前が分かる!?君はもしかして暗殺者か?」
「違う。俺だよ。真耶だよ」
「マヤ……聞いたことないな」
いや、お前と同じクラスにいたのだが。こいつの頭はちょっと狂ってるんじゃないのか?
説明が遅れてしまった。こいつの名前は弓馬矢影。親が弓道の達人で小さい頃から弓が得意だったやつだ。そして、奏にナイフを突きつけている女は恐らく暗雲霧音。親がスパイらしい。だからスパイにのようなことは全て出来る。
2人とも俺達のことに気がついていないらしい。バカなのだろうか?
「俺の事覚えてないのか?」
「知らないな。話を逸らしても無駄だ。君がその子を痛めつけていたのは事実だからな」
「何?」
こいつは何を言っているのだろうか?俺がこの女の子を痛めつける?するわけないだろ。
「僕達はこの子の悲鳴を聞いてきた。そして、君がここにいた。それが証拠だ」
なんて無茶苦茶な推理だ。探偵に謝って欲しい。そもそも、こいつは前から無駄に正義感は強かったんだよな。やめて欲しいよまったく。
「……はぁ、俺はこの子に襲われたから捉えただけだ。そしたらこの子の奴隷の首輪が反応してしまったって訳だ。俺は何もしてない」
「嘘をつくな。そんな証拠どこにもないだろ」
いきなり否定された。てか、それを言うなら俺がやったという証拠もないだろ。
なんかもうウザイな。殺していいかなぁホントにもう。奏にあとから散々言われそうだが仕方がない。
「奏達に聞いてみろ」
「奏?あぁ、あいつらか。犯罪者の仲間の言うことなど信じられん」
あぁ、やっぱり殺すべきだ。だが、最後に聞いておきたいことがある。
「俺達をどうするつもりだ?」
「その少女は保護施設に連れていく。君達は街の衛兵に突き出して処罰を受けてもらうよ」
「なるほどね。それはそれで面白いことになりそうだ」
真耶は小さく呟いた。その声は、どうやら矢影には聞こえなかったらしい。
さて、どうするかな。やっぱりこいつを殺さないで慌てふためく姿を見て楽しむか、ここで殺して人を救うか、2つに1つだ。
奏ならなんて言うだろう。いや、考えるまでもない。どうせ殺さないで大変なことになったらどうにかすれば良いとか言い出すんだろうな。仕方がない、今はそれで行くか。
「やっぱやめた。良いよ、街まで連れてってよ」
「なんだ?急に大人しくなったな。まぁいいだろう。自首すると言うなら拘束はしない。君の仲間もな。しかし、僕達が見張らせて貰う」
「いいよ。どうせ、めんどくさい事にしかならないから」
そう言って真耶は女の子を担ぎ、矢影に見張られながら馬車へと乗り込んだ。
当然だが、移動している間はなんの会話もない。ずっと無言で向かい合って座っている。真耶達は何も思わないが、運転手はかなり気まずそうだ。さらに言えば、矢影達が乗ったことにより座席が減ってしまった。そのせいで、アロマとフェアリルの席が無くなる。仕方がなかったので2人とも真耶に抱きつく形で膝の上に座った。
「あ、マヤ様、あの水を垂らすやつの時間だよ」
「あぁ、忘れてたよ」
そう言って真耶は何かを受け取った。それが怪しいと感じた矢影達は咄嗟に武器を構える。
「物騒な野郎どもだな。目薬だよ」
そう言って目薬を指す。
「っ!?お前!どこでそれを知った!?」
「……どうせ言っても信じないだろ。だから言わない」
「まぁな!君達のような犯罪者の言うことなど信じられない」
ほらな。こいつら俺が被害者だとわかった時になんて言って謝るんだろうな。威張り散らかしてたらホントに殺すぞ。
「あの……そろそろ着くのですが……」
「どうやら、ようやく君達とお別れできるようだ」
「そうだね。そろそろお別れだよ」
真耶達は微笑むと急に集まりだした。しかも、真耶は何故か手を挙げている。一体何をしているのかと思っていると、真耶は手を下ろした。そして、爆発音が響煙が大量発生した。
視界が一瞬で閉ざされる。もう既に逃げられたらしい。集まっていたのは逃げるためだったようだ。
「クソッ!逃げられた!」
「矢影くん、今はこの子を保護してもらうのがさきよ」
「そうだね。じゃあ連れていくか」
2人はそう言って街に入った。馬車の人と別れ保護施設まで連れていく。その様子を真耶はずっと影から見ていた。
「さて、これからが問題だ。特訓の成果が輝く時かな」
「何言ってるの?」
「ていうかマヤさんはなんであの子を渡したのですか?」
「それはな、あいつがどこかの国の暗殺者だからだ」
その言葉に皆は目を丸くする。それだけ真耶の言ったことは普通じゃなかった。あんなに可愛い子供が暗殺者なんて……あ!
「まーくん!もしかして奴隷だからなの!?」
「半分当たり。確かに奴隷だが、それだけで俺を殺しに来たりはしない。恐らく俺をよく思わない国か組織が暗殺者として送ってきたのだろうな」
その言葉で皆は少し顔を暗くする。あんなに小さな子供なのにそんなことに使われるなんて……
そんなことを考えてしまう。それに、あの痛がり方、きっともっと酷いことを受けているに違いない。助けてあげたい。だが、その時皆はある疑問が浮かぶ。何故あの子をあの2人に任せたのだろうか。もしその話が本当ならきっとあの子を殺そうと使者を送ってくるはずだ。
「あ、もしかしてその使者が来るからめんどくさいってこと?」
「ご名答。多分あいつらじゃ勝てないから準備しとけよ」
真耶はそう言って落ちてる石を拾った。そしてそれを望遠鏡に変える。
「ま、見てろよ。多分面白いことになると思うよ」
「面白いことって……」
皆は呆れながら苦笑いをした。そして、肝心の矢影達は……
「すみません。この子を保護して貰えませんか?」
既に保護施設に来ていた。保護施設の人はその女の子を受け取るとすぐさま風呂場へ連れていき体を洗う。矢影達はその様子を全て見届けると安心したのかお礼を言ってその場から離れた。
「よし、あの男達を探すぞ。必ず見つけだして衛兵に差し出してやる」
「そうね。私達も希望くんみたいに人を助けよう」
そんなことを言いながら街を歩いている。その様子を真耶は物陰からそっと見つめる。
「ねぇ、まーくん。あの子心配じゃないの?」
「安心しろ。さっきドローン的なやつをあの子につけた。何かあったら知らせてくれる」
何それ?めちゃめちゃすごいんだけど。どうやってしたの?
そう言いたいが、あまり喋りすぎるとバレてしまうのでやめておいた。あれ?それならなんでドローン的なやつで矢影くん達を追わないのかな?
そんな疑問が浮かぶ。
「魔力の接続が難しいの」
真耶はまるで心を呼んだかのように言ってきた。
「あれ?脇道に逸れるよ。行かないの?」
奏がそう言うと、他の4人が行こうとする。真耶はそれを止めると、限界まで気配を消して物陰に隠れた。
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