第40話 悲しみを超えたその先へ
真耶は泣きながら懐に手を入れる。そして、小さな小瓶を取りだした。そして、静寂に包まれる中話を始めた。
「俺は、この場にいて嫌な気を感じた。行ってみたらスフェルがいた。俺はスフェルを殺したはずだった。なのに……!」
やっぱり苦しい。この後を話すのはなんだか辛い。言いたくない。言いたくないのに言わなきゃダメな気がする。そんな時、真耶の目の前に紫の光が現れた。
「っ!?」
真耶は驚いて起き上がる。周りを見るとその存在に気づいてない。どうやら自分にしか見えないらしい。
「大丈夫だよ。忘れなければ?」
「人は死なない……っ!?」
何故か自然と声が出た。その声に奏達はさらに不思議な顔をする。
「……フッ」
真耶は自然と笑みがこぼれた。どうやら悲しむ必要はなかったらしい。ちょっとは悲しいけど、この悲しみは胸の奥に閉まっておこう。
「どうしたの?」
奏は心配そうに聞いてくる。真耶は涙を拭うと奏の頭に手を置いた。
「悪ぃな、心配かけちまった」
そう言うと、奏は喜ぶ。そして、真耶は他の皆の顔を見ると話を再び話し始めた。
「俺はあの時スフェルを殺した。完全に死んだと思っていたのに生きててな、自爆しやがった。クロエはその時俺を助けようとしてこの灰になった……!」
そう言って小瓶の中身を見せる。皆はそれを聞いて言葉を失った。
「……まーくん……」
「マヤ様!」
突然アロマが真耶に抱きついた。顔を見ると泣いている。
「何でお前が泣くんだよ?ほら、泣くなよ」
真耶は優しい笑顔でアロマにそう言う。しかし、アロマは泣き止まない。真耶がアロマに気を取られていると、他の3人も抱きついてきた。その勢いが強すぎて後ろに倒れる。
「うわぁ!ちょっ、痛い痛い……て、泣くなよ」
真耶は皆を泣き止ませようと優しく撫でる。その時、嫌な予感がした。これは、スフェルの時のやつとはまた違ったやつだ。
慌てて顔を上げた。すると、周りには涙を流す冒険者が多数いた。これは……ヤバいやつだ。
「マヤさん!私達も抱きついていいですか!?」
「良いよ!まーくんも喜ぶから!」
「良くねぇよ!まーくん死ぬから!圧死するから!……て、おい!まじで乗ってくるな!」
マジで乗っかって来た。さすがに圧死はしたくない。慌てて起き上がって飛び退いたが、冒険者の包囲網は凄かった。1度捕まると抱きつかれて絞め殺されそうになる。
「おい!痛いんだ……よ……」
その時、唐突に目眩がした。意識は遠のきその場に倒れる。突如真耶は意識を失った。
当然ギルド内は騒然とする。
「お前が乗っかるからだろ」
「いや、お前だろ」
「もしかして私?」
など色々な言葉が飛び交った。しかし、奏は言う。
「大丈夫だよ。単に魔力が少ないだけだから。時間が経てば起きるよ」
その言葉でギルドの中にいた冒険者達は静かになった。そして、手の平を返すように心配しなくなった。
そして、真耶を持ち上げるとベッドに寝かす。そして真耶はさっきよりさらに深い眠りについた。
それから3日が経った。真耶はその間ずっと眠り続けていたが3日目にしてやっと起きた。真耶は起きるなり外に出ていく。
「……あれ?おかしいな……何でだろう」
真耶は外に出て周りを見渡すと建物を確認した。どうやらここはギルドらしい。
「……尚更おかしいな」
真耶はギルドに戻ると中を見渡した。そして、色々な部屋を組まなく探す。
「……ドッキリか?」
真耶はそんなことをつぶやく。だが、本当におかしかった。さっきからどこを見ても人が居ない。まるで全員消えたかのように静かだ。
「マヤ」
「っ!?」
唐突に名前を呼ばれた。その声の方向を見ると、人が1人だけ立っていた。その顔に見覚えがある。
「クロエか。なんか用か?」
「マヤ……ごめんね。あんなに悲しませちゃって……」
「気にするな。慣れてなかっただけだ。もう慣れた」
真耶はそう言って微笑む。しかし、クロエはまだ暗い顔をしたままだ。真耶は少し考える。多分ここは夢の中だろう。なんせ、クロエはもうここにはいない。
いや、本当はいるのかもしれない。ただ見えないだけ。魂は見ることが出来ないしな。
「ん?」
【特殊スキル、魂眼解放しました】
「スピリチュアルアイ……」
「マヤ、私はずっとそばにいるよ」
クロエはそう言って微笑む。それに返すように真耶も微笑んだ。そして、2人は近づき唇を合わせた。
━━そこで、真耶は目覚めた……
「あれ……?ここは?」
「まーくん!」
いきなり奏が抱きついてきた。かなり泣いているがどうかしたのだろうか?記憶が曖昧でよく分からない。
「何かあったの?」
真耶は疲れきった声でそう言う。それに対し奏は、何も言わずに泣くだけだ。ますますよく分からなくなってしまった。
「おいおい、話してくれないと……っ!?」
よく見ると、ルーナとクロバが自分のベッドの傍らで眠っていた。疲れているのだろうか?ぐっすり眠っている。そして、自分のベッドの中には裸で眠るアロマがいる。アロマは自分の腕に抱きつきぺろぺろと舐めて……ん?そういえば、手とか足とか体全身が濡れてる気が……
「アロマ……俺の全身を舐めたな」
呆れたように小さく呟く。だが、この状況になってやっとわかった。俺は何日間かずっと寝ていたのだろう。それなら悲しむのも頷ける。
……でも、仕方がないだろ!俺は徹夜をし過ぎて常に眠たいんだ!とか言いたいけどやめておこう。
「奏、心配かけたな」
真耶は優しくそう言うと頭をぽんっと叩いて撫でた。奏は少し暗い顔をしていたが、気持ちいいのか明るくなって真耶の胸に顔を埋めてきた。
可愛いやつだ。愛おしく感じる。……多分このままじゃダメだ。いつかまたこんな悲しいことが起こるはずだ。強くならないと……
真耶は少し奏を見つめると覚悟を決めたように頷いて言った。
「……なぁ、1つ頼み事があるんだが……」
「何?」
「少しの間この街に残って良いか?1、2ヶ月くらいなんだが……」
「良いよ。たまにはまーくんのわがままも聞いてあげないとだしね」
なんて嬉しい言葉なのだろうか。こんなに優しい人が幼なじみだったなんて、思ってもなかった。
「ありがとう」
真耶は奏にだけ聴こえるようにそう言った。そして、真耶の特訓生活が始まった。
この時真耶は知らなかった。これから真耶達がこの世界を揺るがすような事件に巻き込まれることを……
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