第39話 死という悲しみ
「……マヤ、ごめんね……」
クロエの話はそれから始まった。真耶は涙を堪えながら話を聞く。
「私、本当は知ってたんだ。マヤが精霊族じゃないって。でも、優眼を使ってるマヤを殺したら自分の気が晴れると思ってた」
「じゃあなんで殺さなかったんだ?いくらでもチャンスはあっただろ」
真耶は優しく問いかける。それを聞いて少し考えるとクロエは小さな声で答えた。
「だって……マヤが私に優しくするんだもん……!あんなことしたのに、助けるんだもん……!」
そう言って涙を流す。気がつけば、クロエの足が灰となって崩れ落ちている。
「龍人族は死ぬ時に灰になって消えるんだ……」
「そうか……」
真耶は少し俯きながらクロエに触れる。すると、クロエは自分の胸から宝玉のようなものを取りだした。
「これは私達龍人族だけが持つ宝玉……命のオーブよ」
真耶はそれを受け取る。それは、紫色の光を放っていて綺麗だ。それに、何かよく分からないが力を感じる。
真耶は命のオーブを見つめた。中は透き通った紫色で禍々しさは感じられない。そして、あることに気がついた。この命のオーブは真耶の魔力を吸っている。不思議に思った真耶は試しに魔力を流し込んでみた。
「うぉあ!」
命のオーブは急に光を放ち始める。その光は真耶を覆うと紫に変色する。真耶はその光の中目を開けた。すると、目の前に文字が浮かんでいる。
【特殊スキル、龍眼、解放しました】
真耶はそれを見てすぐに使う。左目に龍の紋章……クロエの着てる服に着いている紋章が浮かんできた。そして、これだけでは終わらなかった。もう1つ文字が現れる。
【特殊スキル、龍眼は神龍眼へと神化しました】
その文字を見た途端急に左目が光を帯びる。その光は爆発的に広がるとすぐに収まった。そして、急に悲しみが込み上げてくる。
「……うぅ……うわぁぁぁぁぁぁ!クロエ!死ぬな!死ぬなよぉぉぉぉ!」
真耶は泣き叫ぶ。普段の真耶からは考えもつかないくらい泣き叫ぶ。真耶の目からは涙が滝のようにこぼれ落ちクロエの顔に落ちる。
「マヤ……泣かないで……」
クロエは苦しそうにそう言うが、真耶には聞こえない。クロエは、今出せる力を振り絞って真耶に抱きついた。そして、流れるようにキスをした。
「っ!?クロ……エ……!」
「マヤ、私を忘れないで。忘れちゃったら人は本当の意味で死ぬことになる。忘れなければ人は死なないんだよ」
そう言い残してクロエは灰となって崩れ落ちた。その直後に真耶は、自分の中に魂のようなものが入ってくるのを感じた。そして、目の前に文字が現れる。
【特殊スキル、哀眼解放しました】
「……いらねぇよ……そんなもの……!」
真耶はそう呟いてその場に倒れた。そして、その場を風が吹き抜ける。そのせいで灰が舞う。
「ダメだ……!」
真耶は右目を開いた。その場の時間が戻る。待っていった灰は元の場所に戻る。それらを全て瓶に詰め込んだ。
「やった……!」
真耶は達成感と喜び、悲しみ、辛さ、色んな感情にのまれながら深い眠りについた。
━━一方その頃奏達は……
「まーくん遅いね」
「何かあったのでしょうか?」
「探しに行きますか?」
「そうね。行こう!」
奏はそう言って立ち上がる。それに応じて皆も立ち上がった。それにしても、真耶は遅かった。街の修復と言ってもギルドを出てすぐの所でやればいい。奏達が心配するのもおかしくはなかったのだ。
奏達は急いでギルドを出る。しかし、真耶は見当たらない。右を見ても左を見てもいない。さらに、街の修復もされていなかった。
奏達は嫌な予感がする。もしかしたらどこかで真耶が死んでいるのではないだろうか?そうでなくてもどこかで倒れているのではないだろうか?そういった考えで頭がいっぱいになった。
奏達は二手に別れた。そして、走って真耶を探す。少し走ると奏の前に紫の光の粒子が飛んできた。奏は不思議に思い全員を呼び戻す。その光の粒子はしばらく奏の周りを漂うと、全員が揃う前にどこかに行ってしまった。
「……もしかして、着いて来いって言ってるの?でも、そんなベタなことが……」
奏はそんなベタなことがあるわけないと思いながらも粒子が行った方に進む。すると、粒子が溜まっているところを見つけた。近づいてみると、そこには真耶が倒れていた。深い眠りについている。どうやら魔力をかなり使用しているらしい。
「まーくん!」
奏は急いで近寄った。怪我こそしてないが、いくつか火傷を負っている。奏は真耶の顔に触れた。暖かい。生きているみたいだ。良かった。
「カナデさん!マヤさんはいましたか!?」
「あ!マヤ様!良かった生きてたんだ!」
後から来た皆は真耶が生きているのに気づいて安堵の息を漏らす。そして、いっせいに飛びついた。しかし真耶は何も反応を見せない。一瞬皆は真耶が死んだのではと思ったが、奏がそういった反応を見せてないので寝ているだけとわかった。
「帰ろっか」
奏はそう小さく呟く。皆は頷くと真耶から離れた。奏は真耶を抱き抱えるとギルドに向けて足を進めた。
ギルドに着くと、冒険者達が飛びつくように寄ってきた。
「大丈夫だった!?」
「何があったの!?」
冒険者は口々にそう言ってくる。どうやら真耶のことを心配していたらしい。だが、なぜそんなに真耶のことが心配なのだろうか?あんなに嫌っていたのに。
「皆どうしたの!?」
「どうしたのって、心配したんだよ!」
冒険者達はそう言った。ますます意味が分からない。一体何が起こったのだろう。奏達は不思議すぎて後ずさってしまった。その時、奥から支部長が来た。
「俺が全て話した。精霊族の脅威は去ったからな」
なるほど!奏達は納得してつい笑みがこぼれてしまった。それを見て冒険者達も笑みがこぼれる。
「あれ?クロエはどうしたの?」
冒険者の1人がそう言った。確かに、クロエがいない。冒険者達の話によれば真耶が出ていった後出ていったらしい。
「もしかしたら外にいるかもしれない!探しに……」
「行かなくていいよ」
真耶は目覚めた。まるで狙ったかのように目覚めた。
「あれ?深い眠りに着いてたのに……」
「お前もオタクならわかるだろ。オタクにとって徹夜は常識だ。眠るなんてとんでもない」
それを聞いて確かに、と納得する。しかし、そんなことよりなぜ行かなくていいのだろうか?どういうことなのだろう。
「な、なんで……」
「クロエは……」
真耶は途中で押し黙る。そして、苦しくなったのか胸を押えて涙を流した。目には今まで見たことがない紋章が浮かび、見たことがない色を発している。
……その色は、とても悲し色だった。
「ま、マヤ様……どうなさいましたか……!?」
「マヤさん!どこか苦しいのですか!?」
「ま、まずい状況です……1度ベッドの上に!」
急いでベッドを用意してそこに寝かせる。真耶は今まで見せたことがなかった涙をボロボロとこぼす。
「どうしたの?苦しくなくなったら言ってね」
「……うぅ……クロエは……クロエは……!」
真耶は胸を押えて涙を腕で拭う。そして、腕で目を隠しながら苦しそうに言った。
「……死んだ……!」
その言葉は、ギルド内に静寂をもたらした。
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