第35話 ペインズアイ
しばらくすると、精霊族が来ていることが目視できた。冒険者は身構えると、その場は直ぐに戦場となった。
辺りに魔法が飛び交う。冒険者達は剣を持ち斬りかかったり、杖を持ち魔法を放ったりなどして応戦する。精霊族も空中から攻撃したり、地上で戦ったりなど大変な様子だ。
「さて、俺は何をしようか」
「行くの?」
「気をつけてください」
奏とルーナは心配そうな顔でこちらを見てくる。そこまで危ない訳じゃないとは思うが、心配されるのは嬉しい。
真耶は不敵な笑みを浮かべると屈んで地面に手を着く。そして魔法を唱えた。
「”物理変化”」
地面が盛り上がり一気に空中まで登る。そして、そのまま一直線に精霊族の軍の中に飛び込んだ。
精霊族達は突如真耶が現れたことにより混乱を隠せない。すぐに攻撃してくる者もいれば、慌てふためいて腰を抜かす者もいる。
「やめろ!」
突如そんな声が聞こえた。その声で精霊族は皆動かなくなる。そうなった数秒後に少し偉そうな人が出てきた。
「お前がマヤか?我は精霊騎士団団長のリューガだ」
その男は自己紹介をした。するとその時に何か嫌な気を感じた。
「っ!?」
そして、すぐに何かが向かってきた。真耶はギリギリのところで避けるとリューガの前に1人の女性がいるのに気がついた。
「私はリューガ様の片腕、そして、精霊剣の使い手、フェアリル!リューガ様を倒したければ私を倒してからにしろ!」
そう言って剣先を向けてくる。真耶は1度目を閉じると右目を開けて時喰を使おうとする。しかし、閉じたすぐに危険を感じ開ける。
目の前には既にフェアリルが来ており剣を首筋に当てていた。またもやギリギリのところで避ける。そしてその場を離れた。
「さすがね。でも、次は外さない」
「へぇ、そうかい」
真耶は笑って平気そうな顔を見せる。しかし、かなり危うい状況だった。
時喰は使えない。おそらく魔眼も使うと隙が出来てしまうため使えない。ほかの目も同じだろう。それなら、インターバルなしで使用できる神眼を使っておいた方がいい。
「はぁっ!やっ!たぁっ!」
フェアリルは凄まじい速さで剣を振り回す。真耶はそれを全て避ける。それと同時に周りの精霊族を片付けていく。
「ぐぁっ!」
「きゃぁっ!」
「ぐはっ!」
腕に隠した手裏剣で1人ずつ急所を突いていく。そのせいか、気がつけば周りの精霊族は4人程度まで減っていた。
「いつの間に!?」
「気づくのが遅かったな」
「よくも!”ポップスラッシュ”」
フェアリルが剣を振るうと、虹色の斬撃が飛んできた。その斬撃は通ったところに綿のようなものを作り出している。
これは厄介だ。避けることは出来るが、多くなってくると避けるスペースが無くなる。一旦消しておくか。
「”物理変化”」
漂っていた綿は全て塵となった。それを見たフェアリルは驚きで声を失う。その隙をついて真耶は間合いへと入り込む。そして、背中の剣に手を伸ばした。
「しまっ……!」
そのまま剣を引き抜いて切りつける。
「私は負けない!”ハートフルエクストリーム”」
フェアリルは魔法を唱える。しかし、そのすぐ後に真耶は体を切り裂き深く傷を負った。その時、真耶は魔法は発動されなかったと思った。しかし、魔法は発動していた。
「っ!?グフッ!」
不意に体に激痛を感じた。その直後に熱いものを感じる。見ると、何故かフェアリルと同じ場所に傷があった。そして、フェアリルの傷が消えていた。
真耶はすぐに傷を治す。しかし、治らない。そして何故か魔力をいつもの2倍使っているし、フェアリルの魔力が増えている。
「なるほど、自分と相手を交換?させているのか」
だったらフェアリルを回復させればいいだけの話だ。だが、おそらくその場合は魔法をとかれるはずだ。
「じゃあこれならどうだ?」
真耶は自分の腕に手裏剣を刺す。しかし、自分に傷が出来るだけでフェアリルは何も起こらない。こっちからは向こうに影響を与えられないようだ。
これほどまでに不利な戦いがあるのだろうか?いや、この世界は不思議なことが多い。日本では常識だったこともこの世界では常識では無い。あってもおかしくはないか。
仕方がない。もうこの方法しかない。よし、やるぞ。やってやるぞ。
「あれ?もう降参……っ!?」
フェアリルは驚きのあまり声を出せなくなる。なぜなら真耶が殴ってきたからだ。当然だがフェアリルにはなんの支障もない。真耶にダメージが行くだけだ。
「クッ……!って、痛みは無いのか……。物理的な事象だけが俺に来るって感じか」
そう呟いて頬を撫でる。そして、不敵な笑みを浮かべた。
「なら俺の勝ちだ!”痛眼”」
真耶は1度目を閉じ開いた。普段のフェアリルならその隙に殺されていただろうが、ハートフルエクストリームを使って自分と真耶を交換させているせいで油断している今なら殺されることもないだろう。
真耶は痛眼の他に邪眼を使いフェアリルの精神に入り込む。
「これは……なるほどな」
真耶はフェアリルの精神を見て全て察する。ここにいられるのも長くはないようだ。だが、数秒で終わる。精神世界にいるフェアリルに痛みを与えるだけだ。
「フッ、簡単な話だな」
そう簡単な話だ。精神世界のフェアリルはどこにいるか分からない。しかし、探す時間は無い。どうだ?簡単な話だろ。
「ま、見つけるのもすぐだけどね」
そう、これは真耶だからこそできる芸当。何千、何万もある漫画の中から自分に合った最高の1冊を見つける能力の持ち主である真耶だからこそできるものだ。
「これでとりあえず終了かな」
そう言って精神世界のフェアリルを見つけ、首を跳ねた。
「ぎゃあああああああああ!」
突如聞こえた悲鳴で真耶は現実世界へと引き戻された。目を開けると目の前で首を抑えて悶絶するフェアリルの姿があった。
フェアリルはまるで首を切られたかのように泣き叫ぶ。いや、実際は首を切られた時と同じ痛みがしているはずだからこうなるのは当たり前なのだが、さすがにここまでの威力だとは思っていなかった。もし、精神世界に入らなかったらどうなっていたのだろうかと思うと少し怖くなる。
ちなみに、痛眼は精神世界に入らずとも、体全身に痛みを与えることができる。
「助けて!助けてぇ!」
フェアリルは死にそうな顔でそう叫ぶ。その様子に生きている者は皆騒然とする。真耶はそれを見ながら不敵な笑みを浮かべた。
「残念だったな。ここでお前は終わりだ」
そう言って軽くデコピンをした。
パチンッ!という音が響く。その後すぐにフェアリルはもがき苦しみ始めた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!痛い!いたぁい!」
「これが俺の力だ」
真耶はそう言ってフェアリルをけとばす。それだけでまた悲痛な叫びをあげる。
これが痛眼の能力だ。1つ目は、相手に精神的痛みを与え精神崩壊させる。2つ目は、相手に与えた痛みを増幅させる。
フェアリルはこの能力により精神崩壊を起こした。今フェアリルは精霊族に見守られながら泣いて嘔吐している。
「見たか?これが俺の力だ。降参するなら今のうちだ」
「……良いだろう。次はこのリューガが貴様を殺す」
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