第34話 次の段階への準備
真耶は奥から歩いて出てきた。少し暗い顔をしてはいるがいつも通りだ。
「何かあったの?」
「……いや、ないよ」
歯切れの悪い返事を返しながら扉へと歩く。奏を含めてその場の全員が不思議そうな顔を見せた。
「マヤ様!どこに行かれるのですか?」
「……ちょっとな」
その一言で4人は察した。ほかの冒険者達はわかっていないらしい。奏は真耶の服の裾を掴むと行かせまいと引き止める。
「……辛いことがあったら言ってよ。いつも秘密にするんだもん。あれも嘘なんでしょ。まーくんの過去も……いつか本当のことを言ってよ」
「……フッ、いつか言ってやるよ。でも、今はお前らを悲しませたくない」
真耶の一言で胸に矢が刺さったかのような衝撃を受けた。ドキドキする胸や火照る顔を必死に隠しながら真耶を送り出す。
真耶はいつも通り不敵な笑みを浮かべるとギルドを後にした。
外に出ると真耶は木の上に飛び乗る。1番上に来ると静かに座って下を見つめる。街の精霊族は全員殺したが、まだ街の外に大量にいる。
「あれがこの軍のトップか。あいつを倒せば終わりだろうな。でも、どうやって行こうか」
それにしても多いな。ざっと1万人以上はいるぞ。それになんだか強そうだし。よく見なくても分かるくらい強そうだ。武器だけでなく防具も強そうだ。
「あれは……魔法具か」
神眼で確認すると、防具が光って見える。魔力をまとっているみたいだ。自分もあんな感じのやってみようかな、とか考える。
あ、でもそれは本当にいいかもしれない。防具が光ってたらなんかかっこいいし、強そうに見える。本当にやってみようかな。
「っ!?」
突如、体全身に何かよく分からない恐怖が襲った。悪寒が止まらなくなる。すぐさま下を見るとこちらをむく精霊族の男が1人だけいた。
「あいつは……フッ、面白くなってきたじゃないか!やっぱりこうでないとな!」
そう言って急いで木をかけ下りる。そして、すぐさまギルドに戻り言った。
「お前ら!気を引き締めろ!今からどんな敵が来るかわからん!だが、強い敵が来ることは分かった!俺はお前らを助けながら戦うことが出来ないかもしれない!だから自分の命は自分で守れ!」
入ってくるなり真耶はそう叫ぶ。ギルドの中は一瞬だけ驚きと恐怖に包まれたがすぐに落ち着きを取り戻し戦闘の準備をする。さすがは冒険者だ。
さて、そうなるとこの後が大変になる。まず何をしようか?ボスではないと言ってもそれなりの強さは持っている。こいつらに任せて大丈夫なのだろうか。
「あの……」
「ん?なんだ?」
「……こんなわがままなことが許されるとは思いません。ですが、あの龍人族を仲間に加えてくれませんか!?」
冒険者の1人がそう言ってきた。のどうやらクロエを仲間に入れたいらしい。俺的にはこうなって欲しかったのだが、今は多分ダメだな。
「無理だな。そもそも誰のせいで仲間に出来ないと思っている?俺はお前らより冒険者としての経験は少ない。だけど人と関わることに関してはお前らより上だと思う。そんな俺が言ってやるよ。お前らのせいでクロエは仲間にならないんだよ」
キッパリと言った。こういうことは有耶無耶にすると、後でめんどくさい事になるからこれでいい。
「……はい……申し訳ないです。ですが、仲間に出来れば……!」
だから無理だっつってんだろ!と言って怒るのは簡単だがそれではいけない。おそらく納得しないだろう。それなら優しく言ってあげよう。
「無理だよ」
「そこをなんとか……!」
せっかく優しい笑顔で言ってあげたのに全然引き下がらない。てか、お前らのせいだからな!お前らが受け入れなかったからだからな!
「いや、お前らのせいなんだけどな」
あ、つい言ってしまった。真耶は冒険者に目をやると、分からないと言った感じで首を傾げているのが分かった。
やっぱりわかってなかったらしい。
「な、なぜ私達のせいなんですか?」
「なぜって、お前らが監禁するからだろ。あんなトラップまで作りやがって」
その言葉を聞いて冒険者はハッとする。
「俺はお前にクロエを助けて貰えると思ってここにやった。だが、お前らは全員で拒絶し監禁した。もうわかっただろ、アイツがお前らを助けると思うか?」
真耶はそう言うと、扉まで歩き始めた。そして、扉に手を置くと1度振り向いて言った。
「もし仲間にしたいのなら自分で行け」
そして、扉を開け外に出ていった。ギルドの中は静寂に包まれた。
真耶は、外に出ると少し遠くまで歩く。走ると見つかりそうなくらい地面がぬかるんでいる。さすがに足音を立てずに進むには歩くしかない。
「いや、違うな。とっくにバレてるな」
「よく分かったな!まさか見破るとは」
「わかるに決まってるだろ。そもそも、最近雨降ってねぇのになんでぬかるんでんだよ」
「それもそうだな。まぁいい死ね!」
精霊族は早々に話を切り上げると一直線に真耶目掛けて飛んでくる。剣を持っているところから、魔法タイプでは無いのだろうか?いや、魔法剣士という場合もある。ここは慎重に戦おう。
「”ゴットフェニックス”」
「え?」
後ろからフェニックスのような炎が飛んできた。それは、向かってきた精霊族にぶつかると火力を増す。フェニックスは精霊族を焼き付くし、灰にしてしまった。
真耶はその状況についていけない。だが、なんでこんなのが飛んできたのかは分かる。恐らく……
「まーくん!大丈夫!?」
ほら、やっぱり奏だ。だいたいこんな魔法使えるやつは奏以外にいない。それに、この魔法を平然と打てる精神力を持っているやつも奏くらいだろう。
「まーくん!怪我とかしてない!?」
「いや、危ねぇわ!俺まで焼く気か!?」
「いや、まーくんなら避けると思ったから……ダメ?」
こんな時だけ可愛いアピールをしてくる。確かに可愛いがそれで許されると思っているのだろうか。そんなことは無い。俺は許さない。
「いや、俺が……」
「まーくん♡」
うわぁ〜……ここで俺がなんか言ったら俺が悪者みたいじゃん。こいつやりやがったな。それに、気がついたら冒険者が皆いるし。ルーナ達もめっちゃこっちみてるし。
「はぁ、もう良いよ」
根負けしたのは真耶の方だった。ま、助かったことは変わりない。ここは素直に褒めておこう。
「奏、ありがとな」
「うん!あ、あとこれ。グレギルさんがまーくんにって」
そう言って取り出したのは剣だった。盾と鞘が一体化しており、武器のとしても使えるし、盾としても使える。
真耶はその剣を背中にしょった。しっくりくる。おそらく俺に合わせて作ってくれたのだろう。大きさや重さ、全てが自分に合っている。
真耶は剣を抜いた。その剣も全てしっくりくる。
「ありがとな、こんなに重いのにずっと持ち歩いてたんだろ」
「だって、私、まーくんに酷いことやっちゃったから。これくらいしないと許して貰えないって思って……!」
「そんなことないよ」
真耶は奏の頭の上に手を置いてそう言った。そして、剣を盾にしまう。
奏は手を頭の上に置かれて顔を赤くする。そして、嬉しそうな顔をすると真耶に抱きつく。
奏は抱きつくと、猫みたいに甘えて来た。
「よし、それじゃあやるか」
『ん!』
『はい!』
奏、ルーナ、クロバ、アロマは真耶の言葉に返事をする。それにつられた冒険者が全員返事をした。もしかしたらこれは、モブの卒業かもしれない。
「今夜はパーティだな」
真耶は小さく呟いた。
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