第33話 目という武器
「なっ!?てめぇどこから……!?」
「うるさい。少し静かにしてくれ」
そう言って手で払い除ける仕草をした。その風圧で何人かは飛んでいく。その間に真耶は話を続けた。
「やっぱりこうなるか。初めから限界だったんだろ」
「そんなこと……っ!?」
真耶は唇に指を当てて話を止める。
「我慢はするな。もうとっくに気づいてるよ。目を見れば分かる」
「っ!?」
真耶は目を1度閉じると右目を開き直す。すると、時計の針は少しずつ右に動き始めた。それと一緒にクロエの傷が塞がっていく。
カチカチカチカチ……
時計はクロエの傷が全て塞がったところで止まった。そして、またいつも通りの速さで動きはじめる。
「ギルドに行け。そこで事情を話して入れてもらえ。中には俺の仲間がいるから安心しろ」
「え?」
「いいから行け」
「う、うん!」
クロエは翼を生やしその場を離れる。何人かの精霊族は追いかけようとするが真耶はそいつらを蹴り飛ばし止める。
「行かせるわけねぇだろ」
(なんせ、さっきので少し時間を使ってしまったからな。ストックは多めの方がいい)
「殺れ!」
精霊族の1人がそう叫んだ。そして、一斉に攻めてくる。真耶は地面に手を置き時喰を使う。時喰は一定の範囲で絞れば間接的にも使えるらしい。精霊族は皆、力が抜けたようにバタバタと倒れていった。
「よし、これで終わりだな」
真耶は精霊族を全員塵に変えるとその場を立ち去る。
「なんでだろう、ギルドが心配すぎる」
真耶は全速力でギルドに向かった。その場所からギルドまでは近いのですぐに着いたが、ギルドからは異様な雰囲気が漂っている。もしこれが初めてこの場所に来た時なら入るのを躊躇うくらいだ。
ていうか、ドアの隙間から血が垂れてきている。さすがに拭き取れよ。傍から見たらお化け屋敷にしか見えんぞ。
真耶は多少呆れながら扉の前まで歩き、開いた。すると、中は特に何も起こってない様子だ。皆いつも通りにしている。どうやら回復は間に合ったようだ。
「あ、まーくん!見ちゃダメ!」
そう言って奏が押し倒してくる。だが、なんでだろうとかいう疑問は浮かばなかった。なんせ、全員服を着ていない。どうやら服は間に合わなかったようだ。
「あれ?クロエは?どこにもいないよな」
「よく見てないのに分かるね。クロエさんなら奥で監禁されてるよ」
「監禁?何故だ?」
「皆がね……許さなかったの……」
なるほど、理解した。事情を話して許されなかったのだろう。仕方がない、少し顔を見に行ってやるか。
「ちょっと行ってくるよ」
真耶は起き上がるとギルドの奥まで足を進める。奏は少し暗い顔をしながらも快く行かせてくれた。
奥に進むとだんだん暗くなっていく。それに、トラップも増えてきた。適当に歩くと引っかかってしまうので気をつけなければならない。て言うか、体を水に変えればそんなこと気にしなくていいからそうしよう。
「物理変化”」
真耶は体を水に変えるとすぐに体の形を崩し水溜まりとなって進んだ。
少し進むと厳重に隔離されている部屋を見つけた。他の部屋はそこまで厳重に鍵をかけられている訳では無いのに、その部屋だけ鎖やらセメントやらでガチガチに固められている。
真耶は体を一瞬で形成すると扉の前にたった。
「そこにいるの?」
部屋の中から声が聞こえる。クロエの声だ。やはりここにいるみたいだ。だが、前ほどの元気はない。中から聞こえる声は弱りきっていた。
「生きてるか?」
「……はい。生きてます……」
やはりおかしい。なぜ敬語を使うのだろうか。つい五分くらい前までは威勢は良かったし、敬語を使うなんて微塵も感じられなかった。だが、今は違う。まるで先生に怒られたあとの小学生のように落ち込んでいるのがわかる。
さて、どうしたものか。中に入るのは容易い事だ。隙間から入ればいい。だが、中のクロエはどうだろう。突然俺が入ってきて驚くに違いない。それに、なんて言えばいいか分からない。
「入っていいか?」
真耶は聞いた。考えても分からないことは考えない方がいい。時にはそういったことも大事だ。
「……はい」
クロエは小さな声でそう言ってきた。前の沈黙が気になるが、いいと言われたのだ。入ろう。
「”物理変化”」
真耶は自分の体を変えた。そして、扉に手を押し付ける。すると、まるでそこには何も無いかのように手がすり抜ける。
「え?……手?どういうこと……?」
「慌てるな。体の素粒子をドアの素粒子の形に合わせて動かしているだけだ。ちょっと違うがトンネル効果ってやつだな」
めっちゃキョトンとしてる。多分この世界にトンネル効果は無いんだ。
それを自覚した瞬間だった。
まぁそれは置いといて、何故こんなことになったのだろう。事情を話せば奏達は許してくれるだろうと思っていたが。そう言えば、皆が許さなかったとか言ってたな。
「なるほどな。それだったら確かにここに監禁されてもおかしくないか」
真耶は1人で納得し頷く。クロエはその様子を見て一体なんのことかわかってない様子だった。
「お前あれだろ。皆が許してくれなかったんだろ。事情を全て話せば助けてくれると思ったが、やはり助けてはくれなかったか」
「なんで分かったの!?てか、わかってて連れてきたの!?」
「あの時はああするしかなかった。あのままあの場所に留まればお前は確実に死んでいた」
(俺の魔法でな。さすがに時喰のことは言わない方が良い。なんせ俺は嘘つきだからな)
真耶は落ち込むクロエを見て少し考える。だが、見たところ傷は治してもらっている。恐らく奏がやったのだろう。
「……」
クロエは何も言わずに泣き出した。いや、多分ずっと泣いていたはずだ。口に出さないだけで。
真耶はこういう状況に慣れていない。なんせ、嫁は2次元だから。一応自分の自己紹介としては2次元と結婚してますと言ってはいるが、現実じゃない。今は現実っぽくなっているが、それでも乙女心というものは分からない。
(下手に何か言って傷つけるわけにもいかないしな)
「外に出たいなら言ってくれ。俺が話をつける」
「……いや、ここにいたい。もう、皆の目が怖い。もうあの目を見て正気でいられる自信が無い……」
目、それは人の心を写すもの。それは、人に心の内を伝えるもの。自分も同じ気持ちになったことがあるから分かる。
「俺のいた国では目は口ほどに物を言うという言葉がある。お前が克服できるようになるためには外に出なければならないが、今はその時ではない。それに、あの恐怖は耐えきれない」
真耶はそう言うと振り返る。そして、扉へと歩き手をつけた。
「何かあったら言ってくれ。俺はお前の見方……とでも思ってくれればいい。信じるか信じないかはお前次第だ」
真耶はそうとだけ言って部屋から出ていった。扉をすり抜け出ていった真耶を見つめてクロエは小さく呟いた。
「……ありがとう……」
その言葉は誰もいなくなった扉で跳ね返り部屋中に響き渡った。
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