第32話 時を喰らう者
真耶は街を高速で駆け回り人々を助けていく。街中にいる精霊族は皆下っ端のようだ。簡単に倒せる。
「っ!?」
一瞬だけ視界の隅に写ったものに驚いた。見間違いかもしれないが本当だったらかなり大事になる。いや、もう大事で済ませられない。なんせ、この襲撃を起こしたと言っても過言では無いやつがいたからだ。恐らく精霊族の目当ての人。それを知っていれば、女性冒険者だけを狙ったのも納得出来る。
「おい、なんでここにお前がいるんだよ」
「っ!?精霊族の!私を捕まえるの!?」
「俺は精霊族じゃない」
「嘘をつくな!!!」
これまで以上に大きな声だなぁ、と思った。だが、そんなに大声を出したらただ事では済まされないと感じる。
「お前ら!……あ!龍人族のお前!」
「クソッ!バレたじゃない!」
「いや、お前のせいな。”物理変化”」
早速魔法を使う。もう鬱陶しいので近寄ることも無く潰す。ちなみにだがこれの原理は、魔法で空気圧を変えているだけだ。
「グギャァァァ!」
精霊族の断末魔が聞こえる。いや、ちょっと待て。俺はこの状況を知っている。勇者達を世界中にばらまく前の時と状況が似ている。だとしたら……
「クロエ、逃げるぞ」
「いや、もう無理……」
いつの間にか囲まれていた。
クソッ!やっぱりあの時と同じ状況だ。無限に湧いてくるじゃないか!てか、もう何人いるかも分からない。視界がずっと歪んでいる。特に右目が。
(これがこの目の代償か!?視界が歪んでまともに動けねぇよ!てか、この”時喰”ってなんだよ!)
「死ねぇ!」
「え?だぁぁぁぁぁ!ちょっと待てぇぇ!」
一斉に攻めてきた。大勢で来たが、ギリギリ避けれる。視界が歪んでいるが、それでもギリギリ避けれる。
「きゃっ!?」
「っ!?」
不運とは突然やってくるものだ。その時まで上手くいっていても突然上手くいかなくなる。真耶は後ろにいたクロエに気づかず背中からぶつかった。そのせいで2人は倒れる。
「あ、やば……」
「死ねぇ!」
倒れ込んだ上から剣を振り下ろしてきた。煌めく刃は一切とどまることなく真耶の腹に向かってくる。
「クッ……!舐めるなよ!”時喰”」
咄嗟に魔法を使う。それは、たった今知った技だった。記憶がいちばん新しいせいか、能力は分からないが咄嗟に発動した。
「グギャァァァ!」
目の前からそんな声がする。そして、歪んでいた視界が戻ってきた。
「視界が……なぜ?」
「よくも!」
「ヤバい!”物理変化”」
いつも通り手に雷を集める。そして、貫いた。やはり、さっきより技の制度が上がっている。歪んでいた視界が戻ったようだ。
(マジでわからん。なんでこうなったんだろ)
その時、コトン、という音がした。どうやら自分のステータスプレートがポッケから落ちたらしい。
「あ、そう言えばこれで確認できんじゃん。いっつも目の前に出てくるから忘れてたよ」
そう呟きながらステータスプレートを見る。そこには時眼について詳しく書かれてあった。
「ちょっと!精霊族のお前!前を見なさいよ!」
クロエがそんなこと言ってくる。確かに、ステータスプレートを見ながら敵の攻撃を避けるのは難しいな。文字がぶれて見えない。
「もうめんどくさいから一旦固まっててよ。”物理変化”」
真耶は精霊族の足元を固めた。これで当分動けないだろう。その間に確認する。
ふむふむ、なるほど、よくわかった。この目に移る時計は自分の寿命なのか。それで、これが止まると死ぬのか。怖いな。それに、この目の能力は魔力じゃなくて自分の寿命を使うみたいだ。
「いや、俺死ぬじゃん」
「え?急にどうしたの?」
「いや、なんでもない」
真耶はさらに読み進める。すると、時喰以外の説明は何も無いが時喰だけ書かれてあった。
「人の寿命を奪う……」
時喰は人の寿命を奪うらしい。だから、あの精霊族は何も怪我はしてないに死んでいるのか。寿命を全て奪われているみたいだ。そしてその時に俺の右目の時計は逆に動いた。
「だいたい大きい針が1752000回回ったから……そうか、今俺の寿命は200年か」
本当にそんなに生きれるのかは疑問だが、計算上自分の寿命は200年になった。
「てか、この能力知ってたら早く使えばよかった。失敗したなぁ……てか、前に神眼で見た時はこんなに詳しく出なかったしな。いや、そもそも使ってないから分からなかったのか」
「さっきから何独り言言ってるの?早く殺すわよ」
「そうだな。俺の糧になってもらうよ」
そう言って1人ずつ近寄る。精霊族は逃げようとしていたが、かなりガッチリ固めてしまったので抜け出せなかったらしい。これで終わりだ。
「”時喰”」
そう唱えると、体の中に何かが入ってくるような気がした。さっきは必死すぎて気づかなかったが、手元が薄紫に光っている。これが寿命らしい。
……いや、寿命が目に見えるっておかしいだろ。じゃあこれは時間と言った方がいい。
カチカチカチカチ……
時計の針が2628000回回った。恐らく300年ほど寿命が伸びたのだろう。ここまで来るともう不死だと思った。
「よし。次だ」
それから20人程度の時間を食らった。恐らく今の寿命は5000年程度だろう。
「これだけ寿命を伸ばしたんだ。何が起こるかわからないな」
真耶は小さくそう呟く。
「なんか言ったの?」
クロエはそう聴きながら近づいてきた。
「言っておくが、俺は精霊族じゃないぞ」
「どうだかね。それより、こいつらどうするの?このまま放置する訳にも行かないでしょ」
「消すに決まってるだろ。”物理変化”」
魔法を唱えると、精霊族は塵となって消えていく。
「これからどうするの?」
「街にいる精霊族は皆殺しにする」
「そう、じゃあ私も手伝うわ」
クロエはそう言って爪を伸ばす。真耶はクロエの様子を確認すると少し躊躇しながらも二手に別れた。
その数分後くらいから街中に精霊族の悲鳴が上がり始めた。右側はしたいすら残さず消され、左側では至る所に血が飛び散っている。しかし、左側では数はあまり減ってなかった。
「……はぁはぁ……もう、ダメ……!これ……以上は……!」
「ふはは!とうとう追い詰めたぜ!あんたを探してたんだよ!」
クロエは壁際に追い込まれ囲まれる。逃げ場は無い。精霊族達は不敵な笑みを浮かべながらクロエに近づいた。
「”バインド”」
精霊族達がそう唱えると、壁から鎖と枷が出てくる。それらは、クロエに絡みつくとすぐさま拘束してしまう。拘束されたクロエは諦めたかのように目を閉じた。そして、1粒の涙を流す。
「っ!?見ろよ!こいつ龍人族のくせに泣いてやがんぜ!誇り高いんじゃねぇのかよ!なぁ!」
精霊族は怒鳴りつけ髪を掴む。そして、服を破る。
「殺してしまうには惜しいな!ワハハハ!」
「死ねよ、ゲスが」
苦し紛れにクロエは呟く。それが聞こえたのか、精霊族は不敵な笑みを浮かべた。
「もっと痛い目にあいたいみたいだな!」
グサッ!と、精霊族が持った剣がクロエの腹を貫く。
「いたぁぁぁぁ!やめて!それはだめぇ!」
「辞めるわけねぇだろ!」
「あぁぁぁぁぁ!やめて!やめてぇぇぇ!」
どういう訳か、クロエの様子が以上だった。恐らく剣に特殊な付与効果がついてあるのだろう。
「やっぱこれじゃ面白くないな」
「え?あうっ!?」
クロエは口元を掴まれる。そして、精霊族はクロエの口に風を送り込んだ。
「あぅぅぅぅぅ!むがむが!むむむー!」
気がつくと、腹が大きくなっている。それで察した。どうやら腹を破裂させるつもりだ。それを防ぐには空気を抜く必要がある。そうやって誇りを捨てさせる気だ。
「やだっ!死にたくない!でも、誇りを捨てるなんて……」
「あーあ、やっぱりこうなったか。止めときゃ良かったな、あの時に」
『っ!?』
そう言って現れたのは、真耶だった。
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