第31話 絶望に包まれる街
━━真耶達はかなり急いだ。猛スピードで平原を抜けスタットの街の持つ領土内へと入る。
「なんでそんなに急ぐの?もう追いつけないよ!」
後ろの方でそんな声が聞こえた。真耶は急ブレーキをかけ立ち止まる。すると、他の3人が真耶にぶつかりこける。
「なんで急ぐかって?それは、恐らくスタットの街には精霊族がもう来ているからだ」
「ちょっと待って!なんで精霊族が来るってわかるの?」
「分からないが、スタットの街のギルドから来たんだ。恐らく精霊族で間違いないだろう。そして、精霊族はずる賢いから恐らく日にちも偽ってるはずだ」
「日にちって、じゃあスタットの街に遅めの日にちを教えてるってこと?」
真耶はその問いに頷く。奏達はそれを見て少し気持ちを引きしめる。恐らく今から行くところは激戦地だ。小さな戦争と言っても過言ではないだろう。どんな状況になってるか分からないが、油断をすれば死ぬかもしれない。
「急ぐぞ」
『ん!』
5人はさらにスピードを上げた。
━━場所は変わってスタットの街では……
「殺せ!あの女を見つけ出し殺せ!この街も潰せ!」
精霊族が街で暴れ回っていた。壁は全く間に合わずすぐに街の中まで侵入され、冒険者達が何とか人々を守っていると言った状況だ。
「きゃあっ!」
「やめて!もうやめて!」
「待て!連れていかないでくれ!」
冒険者はあちこちでそう言った声を上げる。どうやら精霊族が女性冒険者を連れて行っているようだ。だいたい理由は分かる。
「はぁっ!」
その時、冒険者のリーダー的存在の人が精霊族の1人に傷をつけた。
「やったな……”ブレイズ”」
精霊族はとてつもない炎を放つ。その炎は瞬時にその場を焼き付くし、冒険者のリーダー的存在の人も後ろに引かざるを得ない状況になった。そのせいで、さらに女性冒険者が連れていかれる。
「後ろ!ウェルさん!後ろ!」
「しまっ!?グァァァァ!」
ウェルと呼ばれた男は肩から斜めに切り裂かれる。肩から血が吹き出す。赤い鮮血はその場を真っ赤に染め上げた。
「ウェルさん!……そんな、私のせいで……」
女の子はもがく。もがいてもがいてもがき続ける。しかし、離しては貰えない。精霊族は女性冒険者のお尻を力いっぱい叩いて黙らせる。女性冒険者達は為す術なく皆連れていかれた。
「クソッ!なんで……こんなことに……」
ウェルは小さく呻いた。
女性冒険者達は1箇所に集められた。それはギルドだ。ギルドは乗っ取られ牢屋と化している。中には、服を脱がされ手足を拘束された女性冒険者がいた。
「……うぅ……助けて……」
「なんでこんなことに……」
「嫌だよぉ……死にたくないよぉ」
「うるさい!お前らの中にいる奴らが目当てなんだよ!黙って大人しくしてろ!」
精霊族は怒鳴りつけ黙らせる。女性冒険者は泣き出すが相手にされない。うるさいと叩かれたり殴られたりと、罰が下る。女性冒険者達は何も出来ずに黙って捕えられるしか無かった。
「やめてよ!触らないで!」
1人の冒険者が言った。精霊族は当然怒る。
「うるさい!騒ぐな!死にたいのか!?」
「何よ!なんでこんなこと……っ!?」
精霊族は剣を向けた。そして、いつでも殺せるとでも言うように刃を当てる。
「やりなよ!やれるものならやって……っ!?」
「言ったな。じゃあ、死ね!」
剣を振り下ろす。止めようとするが、刃は容赦なく女性冒険者の体に傷をつけた。赤い鮮血が飛び散る。傷は深かったが、切り離されるほどではなかった。
「おい!お前は力が弱いんだから剣なんか使うなよ!」
精霊族同士でそう言って笑う。女性冒険者は腹の辺りを切られ泣き出す。痛みのあまりヨダレが垂れる。涙はかれることなくたれ流される。
「いい顔だ。もう1発いかせてもらうぜ!」
精霊族はそう言って剣を振り下ろした。
カキンッ!
甲高い音が響いた。火花がその場に散りばめられる。
「お前は……!?」
「ギリギリ間に合ったな!」
なんと、真耶が現れた。真耶は出てくるなり精霊族に切りかかる。
「クッ!」
かすった程度だったがそれでいい。傷を負った精霊族は驚き体を強ばらせる。そのすきに真耶は左手に雷を集め胸を貫いた。
「まずは1人目だ」
左目を光らせそう言う。ちなみに右目は時計になったのを隠すため髪の毛を伸ばして隠してある。さすがにコンタクトは無理だった。
「”ブレイ……”」
「”物理変化”」
真耶は何も無いところで魔法を放つ。空気を伝って魔力は精霊族まで届き形を変える。
「グギッ・・・グギャァァァ!」
精霊族は体をぐちゃぐちゃにされ絶命した。それを見た他の精霊族は恐怖のあまり逃げ出す。
「逃がすか!”物理変化”」
「ぎゃああああ!」
女性冒険者達を捕らえていた精霊族は皆死んだ。それも、真耶の魔法により体は原型を留められなくなっている。
「遅くなって悪かったな。ちょっと痛いが我慢してくれ」
そう言って魔法を発動する。
「痛い!」
痛みは一瞬だった。やはり、優眼を使っていたとしても痛みは酷いようだ。それに、傷だけだったから良かったが
骨とかだともっと酷かっただろう。
「よし。今すぐ誰かを……」
「なんで来たのよ!?あんたのせいでこうなってんのよ!」
「なんで俺のせいなんだよ!」
「あんたのせいでしょ!あんたが精霊族と関わらなかったら良かったのよ!」
1人の女性冒険者が真耶にそう言う。それに触発され他の人立ちからも罵声や怒号が飛んでくる。
「ちょっと待ってよ!私はこの人は悪くないと思うわ!だって、そうじゃなきゃ助けたりしないじゃん!」
1人の女性冒険者がそう言った。その人は、真耶が助けた人だ。その言葉を聞いて皆納得した。誰も真耶のことを悪くいう人はいなくなった。だが、女性冒険者はまだ続けて言う。
「この戦いに良いも悪いもないよ!精霊族にだって理由があるんだよ!それに、マヤさんはこんな危ないところまで来てくれたのよ!外見てよ!危ないからと言ってギルドの前で突っ立ってる人達ばっかりなのよ!マヤさんはそんな中で1人だけで来たのよ!」
「もういいさ」
「え?でも」
「もう皆分かったから」
真耶はその女性冒険者を落ち着かせると優しく頭を撫でる。女性冒険者はその一挙一動にドキッとしたのか、胸に違和感を覚えた。鼓動が早くなり体が火照る。顔も真っ赤に染まる。
「お前、大丈夫か?熱あるんじゃないのか?悪いな。俺の魔法では風邪は治せない」
「え!?いや、あ、その、なんでもないでしゅ……」
「あ、あぁ、そうか」
真耶は多少困惑しながらも返事を返した。
「あ、忘れてた」
あることを忘れていた。どれだけ暴れても、これだけは忘れては行けないということを忘れていた。
「”物理変化”」
魔法を唱えると精霊族の体が塵と化していく。さすがにあそこまでぐちゃぐちゃにした死体は恐怖でしかない。
「まーくん!早すぎだよ!」
突如ギルドの扉が開かれる。そして入って来たのは、奏達だった。そう言えば置いてきたのだったと思い出す。
「いや、お前らが遅いんだろ。って思ったけど俺が早すぎるのか」
確かに光の粒子になってきたので追いつけるわけないか、と思う。
「奏達はここの人達を守ってて。じゃ、行ってくる」
「え!?もう行くの!?早すぎだよぉ!」
そんなことを言ってるうちに真耶の姿は消えてしまった。
「カナデさん!早すぎです!」
「皆早すぎです!」
遅れて3人も来た。アロマはヘトヘトすぎて何も言えない感じの様子だ。
「まーくん……」
奏の小さな声は誰にも聞こえることなく虚空の彼方に消えていった。
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