表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブオタクの異世界戦記  作者: 五三竜
30/181

第29話 クロニクルアイ

 真耶の問にアロマは少し驚く。なんでそんな分かりきったことを聞くんだろうと。


「そんなの決まってますよ。星剣を食らったからですよ」


「なんで星剣を食らったら負けると思ったんだ?」


「どういう……」


「なんで俺が星剣をどうにも出来ないと思ってんだ?どうして俺が星剣を防ぎきれないと思った?」


 真耶の問にアロマは答えられなくなってくる。それでも真耶は続けた。


「お前から見た俺はそんなに弱いか?」


「……いえ……ですが、どんなに強くても勝てない時だって……」


「俺がお前に嘘をついたことがあるか?」


 その言葉にハッとする。考えてみれば、ないのだ。


「確かに俺は嘘つきだ。幼なじみに嘘をついた。好きになってくれた人に嘘をついた。大切にしてくれた人に嘘をついた。他にも多くの人に嘘をついた。だが、俺はお前にだけは嘘をついたことは無い」


 その言葉を聞いてアロマは顔を上げた。そして、自信に満ち溢れた顔をする。そして、真耶も顔だけ振り返って言った。


「ビビって来たんだろ。だったら最後まで俺を信じろ」


 すごいドヤ顔だった。こんな状況じゃなかったらすごくウザかっただろう。だけど、今のアロマにとってその顔は頼もしく希望を見出せる顔だった。


 真耶は言いたいことを全て話すとシュテルと向き合う。


「言いたいことは全て言えたか?」


「あぁ」


「そうか。だが、悪いな。どんなにアロマに嫌われようが、僕はアロマが好きなんでね。それに、星剣を使った。君が勝つことはもう無い」


 シュテルは剣を構えた。どうやら決めるつもりだ。


 こっちも準備しないと。


 真耶はステータスプレートを確認する。そこには、時眼クロニクルアイについて詳しく書かれている。


「さぁ!行くぞ!”星剣せいけん”」


 シュテルの体が青白く輝き姿を消した。神眼しんがんで確認すると、青白い光を発する物体が飛んできている。さらに、シュテル自身も星の速さで動いている。


「フッ……」


 後瞬き1回くらいで当たるだろう。だが、それだけの時間があれば十分だ。


 ガチッ!という音が鳴った。すると、その場の時間が止まった。よく見ると、右目に時計のような模様が浮かんでいる。


「さてと、1個ずつ消していくか」


 青白い光を発する物体の構成粒子を消していく。全ての物体が消滅した。


「クッ……これは、魔力がかなり減るな……早く終わらせないと。”物理変化ぶつりへんか”」


 自分の体を魔法で変える。すると、右目の時計の針が早く動き出した。そこで、時間は進み始めた。


「……っ!?居ない!?なぜだ!?どこに行った!?それに、なぜ星剣が無くなっている!?」


 突如真耶は消えた。闘技場のどこを見ても居ない。それに、シュテルは動揺を隠せない。観客達も驚きのあまり声を出せない。


『逃げたのか?』


『というか何が起こったんだ?』


『なんで星剣が消えてるの?』


 観客達はそんなことを言ってざわめきたつ。しかし、アロマにだけは全てわかっていた。いや、見えていたと言う方がいい。アロマは信じる力により新たなる力を手に入れた。


「……全て……見える……!?マヤ様……頑張って……!」


 小さく応援する。その声は、今この場所のどこかにいる真耶に届いたような気がした。


 ……今思い返してみると、自分は馬鹿だなと思った。自分は子供の時からあまり強くなかった。それなのに、突然剣聖に結婚を申し込まれた。自分の家はかなり貧乏で断れなかった。だから、自分で好きな人を決めて、自分で決めた人と結婚することなんて出来ないと思ってた。でも、違った。マヤ様は私の思い違いを全て正してくれた。マヤ様は私を助けてくれた!私は、マヤ様のことが好きになれた!


「マヤ様!頑張って!勝ってーーーーー!」


「その気持ち、受け取った!」


 カチンッ!という音と共に突然真耶の姿が現れた。シュテルは突如目の前に現れた真耶に動揺し反応しきれない。


「っ!?どこから出てきた!?」


「これが俺の力だ!」


 ……時眼クロニクルアイ……それは、時を止める目。使用した魔力の量によって止める範囲も帰ることが出来る。目に浮かぶの時計の針を動かせば、時を進めたり戻したり出来る。早く動くようにすれば自分の速さを早めたり、遅く動くようにすれば遅くなったりする。それがこの目の力だ。しかし、この力には代償がある。それは……


「クッ……対応しきれない……!」


 剣聖は剣で防ごうとするが防げない。真耶は右手に雷を発生させ集める。


「いっけぇーーーー!マヤ様ーーーーー!」


 真耶は右腕を振り抜く。その右腕はシュテルの右脇腹を貫いた。赤い血が飛び散る。真耶の雷を帯びた右腕は真っ赤に染まった。


『え?』


『嘘……でしょ……』


『死んだんじゃないの?』


 シュテルは腹を貫かれ血を吹き出す。真耶は腕を引き抜いた。そのせいでシュテルは倒れ込む。それを見た観客はシュテルが死んだのではと思い、何も言えなくなった。


「うっ……ガハッ!……クソッ、もう……きたのか……」


 真耶も倒れてしまった。口から血を吐き出し目からも血を流している。


「マヤ様!?」


「まーくん!?」


 観客席から2つの声が聞こえた。恐らくひとつはアロマだろう。もう1つは……そこで、真耶の意識は途絶えた。


 ……目を開けるとそこはベットの上だった。右手には誰かいる感触がする。右をむくと、やはりアロマがいた。だが、それ以外にも人の気配を感じる。真耶はアロマを抱きしめると気配がするほうを見ずに言った。


「もう来たのか……奏」


「うん。まーくんに謝りたかったから」


「何を?別に俺は怒ってはいないよ。ただ、失望しているだけ。なんせ、お前らとなら秘密があっても大丈夫だと思ったからな」


 そう言うと、急に静かになる。


「ごめんなさい」


 奏は静かにそう言った。だが、真耶はそれについては何も言わない。奏の言葉を無視して話を続けた。


「俺お前に話したよな。親が死んだって。あれ、本当は俺が殺したんだよ。その時の周りの人の目が怖かった。あの時の目が辛かった」


「……ごめんなさい」


「お前らは知らないから何も言えないだろうけど、同じ目をしてたんだよ。あの時の人達と。怖かったし辛かった」


「……ごめんなさい」


 真耶は話を進める。奏はずっと謝ってばかりだ。その時、人が入ってきた。ルーナとクロバだ。2人は入るなりその場の状況をすぐに察知し奏の隣に行って真耶に向かって頭を下げる。それは、いわゆる土下座という姿勢だった。


「俺は怒ってないよ。不思議に思ってるんだ。なぜ俺の言うことを聞かない?なぜあんな目をした?」


 やはり、その問いは答えられない。奏は涙を流し始めた。だが、真耶はそんなことをしても許してはくれない。嘘を言っても、本当のことを言っても許してはくれないだろう。それが、とてつもない波となって奏を襲っているような気がした。


「……ひっぐ……うぅ……あの時は……ひっぐ……すごく怖かったの……ひっぐ……まーくんが……人を殺して……楽しそうだったから……」


「そう見えたか……フッ、なら俺は殺人鬼だな」


 そう言って奏を睨む。しかし、奏は動じない。涙で赤く腫れた目で見つめ返す。


「前にも言ったが、人は殺さないなんて甘い考えだと死ぬぞ。わかって……」


「ちょっと!さっきから話聞いてたらマヤさん酷すぎです!」


「あんなことされたらカナデさんだってあんな目をするよ!それに、人を殺さなくても生きていけるよ!」


 2人はそう言って奏の前に立つ。守る気だろうか。真耶はふらつく足で立ち上がる。そして、3人の目の前まで足を進めて言った。


「ならここでお別れだ。俺に関わるな」


『嫌だ!』


 即答だった。3人は顔を俯かせてそう叫ぶ。3人の下には小さな水たまりが出来ていた。


「まーくん……私達がまーくんに悲しい思いや辛い思いをさせてしまった。だけど、それでもずっと一緒にいたいよ!まーくんと離れたくなんかないよ!うわぁぁぁぁん!」


「私も同じです!」


「私もです!」


 3人は真耶に抱きつく。その時、思い出した。


 "何かを手に入れるには代償が必要"


 ずっと前に聞いたことがあるような言葉だった。


「フッ、代償はこれまでの時間か。いいよ、そこまで言われたら許してあげるよ」


 真耶はそう言って3人に抱きついた。

読んでいただきありがとうございます。感想などあれば気軽に言ってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ