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モブオタクの異世界戦記  作者: 五三竜
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第28話 星剣と聖剣

 真耶は突如無くなった右腕の感覚に動揺した。否、感覚が無くなったわけではなかった。とてつもない痛みが体を襲う。気がつくと、自分の右腕の肘から下が無くなっていた。


(まさか……この数秒で切っただと……いや、そんなことより早くなってやがる)


「っ!?」


 不意に胸の辺りに熱さを感じた。右胸だった。そこからなにか流れる感じがする。そして、赤い液体のようなものが視界の端に写った。


「もう諦めろ。その体ではもう戦えない」


 後ろから声が聞こえた。よく見ると右胸の辺りから剣の先が出ている。その時やっと状況を理解した。


「降参をオススメするよ」


 そう言って剣をさらに深く刺す。どうやら今自分は右胸を刺され血を流しているらしい。右腕も切断されている。


「降参か……君もそうしたら」


 真耶はその言葉を残してバシャッという音を立て水になった。そして、後ろから剣をかまえ距離を詰める。


「何!?まさか分身……!」


 シュテルは多少動揺しながらも後ろから来た真耶を切った。すると、その真耶の体はバチバチと音を立て雷に変わった。


「残念、こっちが本物だよ」


「っ!?」


 気づいた時には遅かった。水になった真耶はすぐさま体を形成し、人間となる。どうやら本物の真耶はこっちだったらしい。反撃しようとするが、雷の真耶を切ったせいで感電し体が痺れて動けない。


 真耶は腕を剣に変え縦に振り下ろす。その手はシュテルを切り裂き赤い血を飛び散らせた。


「す、すごい……マヤ様って本当にすごいです」


 アロマのそんな呟きが聞こえたような気がした。そのせいか、少しいい気分になる。


「ん?っ!?……もう来たのか……」


 視界の端にある人物達が写った。それは、かなり大きな武器を持っている。どうやら盾のようだ。


「どこを見ている!?」


 なんと、シュテルはもう起き上がったらしい。素早い動きを取り戻し、真耶を追い詰める。その動きを何とか予測し避ける。


「君はすごい!だが、これで終わりだ!”聖剣せいけん”」


 シュテルの体が一瞬だけ光った。それと同時に姿が消える。


「マヤ様!逃げて!」


 観客席からアロマの声が聞こえた。そしてその時理解した。自分が今かなり危険な状況だということを……


「もう遅い!」


 白刃が煌めいたのが視界に写った。


「まずい……!”物理変化ぶつりへんか”」


 カキンッ!


 甲高い音が鳴り響く。咄嗟に体をアダマンタイトに変えたため着られることは無かった。それに、それほど強くもなかった。


「予想外だ。それほどまでに強くはなかったな」


「なぜだ……?体に傷1つないだと……!」


「悪いね。君の攻撃はそこまで強くなかったよ」


 そう言った時には既にシュテルとの距離を詰めていた。そして、背中の剣を引き抜き切りつける。


「こっからはこっちの番だ!」


 真耶はそう言うと、とてつもない速さで剣を振った。シュテルより速いスピードで剣を動かし切りつける。


『速い……』


『何者だよ……本当に』


『見えないよ。どうなってるの?』


 観客席からそう言った声が聞こえる。


「速く……速く決めないと……あれが出る前に……!」


 アロマは小さく呻くように呟く。真耶はそんな声が聞こえていたのか聞こえていなかったのか分からないが、小さく微笑む。


「クソッ……君の攻撃は速いんだね……」


 シュテルの呻きにも似た声が聞こえた。しかし真耶は、そんなことは全て無視して決めにかかる。


 カキカキカキンッ!


 甲高い音が続く。速さは真耶の方が上だ。実力はシュテルの方が上かもしれないが攻撃回数が多すぎて実力を発揮できない。とにかく防戦一方となった。そして、真耶はその隙を見逃さない。少しづつ押していく。シュテルは防ぎきれない攻撃が増え、体に傷を増やしていく。


「いっけぇ〜!」


 アロマは観客席からそう言って応援する。しかし、他の観客は皆シュテルが勝つと思っているので今の状況に納得出来ずに声を出さない。


「まだだ……アロマのためにも、ここで負けられない!」


「アロマが本当にお前のこと好きだと思っているのか?」


「あぁ!アロマは僕の希望だからな!”スターダストラッシュ”」


 青く光るなにかが飛んできた。それらは、流星群のように真耶を襲う。そのせいで攻撃が緩み逃げりてしまった。


「もう君に手加減などしない!これで終わらせる!」


 その時、シュテルの気が変わった。嫌な予感がする。


「マヤ様!逃げて!」


「遅い!”星剣せいけん”」


 そう唱えると、真耶は青く光る小さな星に囚われてしまった。真耶の周りには星が逃げ場が無いように公転している。恐らく、触っただけでも手が無くなりそうだ。


「そんな……」


 アロマの生気のない声が聞こえた。そのすぐ後に観客の歓声が上がる。


『うぉぉぉぉ!』


『やっと使ったか!』


『遅せぇよ!』


『これであいつも終わりだな!』


 そんな声が上がる。


「降参しろ。これはアダマンタイトも容易く砕く。死にたくないなら諦めろ」


 シュテルはそんなことを言ってきた。真耶は少し考える素振りを見せてアロマを見る。かなり落ち込んでいる。もう勝てないと諦めているようだ。


「もう終わりだ。最後に言い残すことはあるか?」


「そうだな、じゃあアロマに話をさせてくれ」


「良いだろう」


 真耶はその返事を聞くと話しかけようと振り返る。しかし、その途中でアロマの叫びが聞こえた。


「なんで逃げなかったんですか!マヤ様なら逃げられたでしょ!」


「なんでって……男のサガってやつ……」


「そんなものはどうでもいいんですよ!私は逃げてと言ったんです!逃げないと負けるんです!星剣は食らったら負けなんです!どんなに強くても、硬くても、防ぐことは出来ないんです!」


 アロマは泣きながらそう叫ぶ。その様子を見てバカにする人はいなかった。それは真耶も同じ。真剣に話を聞く。


「剣聖は最強なんです……!昔、王都に行った時に剣聖が戦っているのを見ました……。その人は、剣聖と互角に戦っていましたが、星剣を使われた途端一瞬にして負けました……」


「王国聖騎士の騎士団長ニューラの事か。確かにあの時は星剣を使ったが…」


「たとえマヤ様と言えど星剣をどうにかすることは出来ないのです……。マヤ様は、負けたのです……」


 その言葉にその場の空気が重くなる。そして、一気に真耶へと視線が集まる。その視線が槍のように刺さって痛い。


「……マヤ様の……嘘つき……」


 そう小さく呟いて顔を俯かせた。その声は限りなく小さな声だったが、その場の全員に聞こえた。凄く……悲しい声だった。


『……』


 観客達は顔を俯かせる者もいれば、真耶へ怒りの視線を向ける者もいた。真耶はそんなアロマに顔を向けず背中を向けている。顔を見ようにも中々勇気が出ない。今どんな顔してるのだろうとも思わない。なんせ、分かってしまったから。だから、顔を見た時自分がどんな顔をして話したらいいか分からなかった。でも、これだけは言える。


「なぁアロマ、なんで俺が剣聖に負けると思ったんだ?」


 真耶は静かにそう聞いた。

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