第25話 悪の心と弱い心
「は?じゃないですよ。私、初めてマヤ様を見た時ビビって来たんです!結婚してください!」
真耶は全く状況を理解出来ずに呆然とする。そして、理解することを諦めたかのようにベットに寝転がった。
「あ、もしかして一緒に寝たいのですか♡」
「いや、もう何もかもが面倒くさくなったから寝るの」
「じゃあ一緒に寝ます。これで、夫婦ですね」
だからなぜそうなる!?と、言いたいがそれを言うほど体力が残っていないので倒れて寝ることにした。むにゅう・・・むにむに。うん、いい触り心地だ。
「て、なんで俺こんなに早い時間から寝てんだ?」
「し、知りませんよ!それに、胸を揉まないでください!恥ずかしいです!」
「悪い悪い。で、なんで俺が剣聖を倒したらお前と結婚しないといけないんだ?」
「だから話を聞いてください!」
そう言ってベットの上に押し倒して話を始めた。・・・いや、なぜこの格好?まぁ、ちょっと・・・ほんの少し、そうほんの少しだぞ。凄く嬉しい。
「・・・とまぁかくかくしかじかで剣聖を殺して欲しいのです」
「っ!?・・・な・・・なんて・・・?」
「だから、殺して欲しいのですよ」
殺す?何故だ?殺す・・・殺す・・・・・・
「どうしました?」
「あ、いや、なんでもない・・・1日考えさせてくれ」
「わ、分かりました」
アロマはそう言って頷くと真耶の上から降り、横に寝転がった。降りねぇのかよ・・・と、思ったがそれ以上に嫌な記憶が蘇ってくる。
「クソッ・・・アイツらのせいで思い出しちまった・・・なんで忘れてたんだろ・・・いや、なんで忘れられたんだろ」
アロマは聞いているのかこっちを振り向いて顔を胸に埋める。そして、アロマは眠りについた。真耶はベットの上で1人で考える・・・
━━ここから少し自分の話をしよう。俺は勇者と戦う前に奏達に言った。自分の親が死んだという話を。だが、あれはほとんど嘘だ。本当は違う。本当は・・・・・・
「本当は・・・親を殺したのは俺なんだよな・・・なんで殺したんだろ・・・あれは俺が7歳の頃だったな・・・」
あの日は休日だった。確かに2人は休みだったが、それは俺も同じ。4人全員で出かけた。楽しい休日だった。4人で店を周り、4人でご飯を食べた。
「でも、起こってしまった」
あの日はショッピングモールで買い物だった。皆で買い物をして、ご褒美におもちゃを買ってもらう約束だった。だから、おもちゃ売り場に行った。
「そして、おもちゃ売り場にある男の人が入ってきた。その男はカバンの中からナイフを取りだしたまたま近くにいた俺を人質にとった」
俺は、逃げようともがいた。その場の全員が恐怖で動けない中自分だけが動いた。男が何か言っていたが覚えてはいない。俺はもがくと腕を抜けることが出来た。その拍子に男はナイフを落とした。だから俺はそのまま・・・・・・
「そのままナイフを拾って男を刺した」
「え!?そんな・・・」
「やっぱり起きてたのか?小さく呟いたつもりだったが、聞こえてたか」
どうやらアロマは寝たフリをしていたらしい。ま、だいたいそんなところだろうと思ったがな。それでも真耶は続けて話した。
「じゃあ、もう気にしなくてもいいな。俺は男を刺した。その場の全員がそれを見て声を失ったよ。当然俺の両親もだ。今でも覚えてる・・・いや、思い出させられたというとこか。あの時の両親の目は、まるで子供に向ける目じゃなかったな」
「っ!?」
アロマは声が出ない。何か言えばそれが全て地雷になりかねないと思ったからだ。それに、喋ろうと声を出してしまえば自分が泣いていることがバレてしまう。・・・いや、もうバレてるだろう。真耶は泣き止ませるように頭を優しく撫でる。
「その時の両親の目は辛かった。その時の俺は、訳が分からなかった。でも、無性にその目が・・・その目が憎くて仕方がなかった。なんでそう思ったかは分からない。それでも、憎しみが抑えきれなかった」
悲しい声でそう言う。アロマはその言葉を聞いて嗚咽しそうになる。涙は止まらない。シーツはびしょびしょになり、真耶の服はまるでプールに入ったようだ。
「・・・それ以上は・・・聞きたくない・・・うぉぇ・・・うぅ・・・」
「安心して・・・俺が着いてるから」
真耶は優しく頭を撫でる。アロマはそれでも涙が止まらなかった。悲しすぎてヨダレまで出てくる。真耶はそんなアロマの様子を見てそれでも言った。
「俺は・・・」
やめて・・・!
「あの時・・・」
それ以上は・・・!
「自分の親を・・・」
「もうやめて!それ以上は言わないで!私が・・・私じゃなくなっちゃう!辛くて、悲しくて、頭がおかしくなっちゃう!」
「・・・ごめんな・・・この話が終わったらいっぱい慰めてやるから」
「・・・わかった・・・!」
アロマは嗚咽を堪えながらそう言う。そして、真耶の服を強く握りしめる。
「・・・あの時俺は両親を・・・・・・殺した」
涙が止まらない。こんな話、物語でも聞いた事がないほど悲しくて、辛い。もしかしたら、真耶のいた日本ではこういう物語があるかもしれないが、異世界にいるアロマにとってこの話は世界で1番辛い話となった。
「・・・ありがとな。俺の話を聞いてくれて。姉と同じだ。俺の姉は優しくて、唯一俺を守ってくれた。もう居ないけどな」
「し、死んだの・・・!?」
「いいや、ピンピンしてると思うぜ」
「どういう・・・ことですか?」
「言い忘れてたが俺は召喚者でな。元いた世界はここじゃない」
そう言って微笑む。
「じゃあ、唯一の理解者が・・・」
「いるよ。君が」
その言葉を聞いて少し落ち着く。こんなに悲しいことがあったのに全て忘れてしまったかのように心が安らぐ。
「今日は少し早いがもう寝よう」
真耶はそう言って微笑んでアロマを抱いて眠りについた。
━━一方その頃奏達は・・・
「ギルドを出てから大分歩いたけど・・・全然見つからない・・・!」
「もしかして、もうロストの街に行ったのかも」
「え!?どうしよう・・・グレギルさんから武器を貰ったって言うのに・・・」
3人は未だにルーレイトの街の近くにいた。鍛冶屋によっていたらしいが少し遅い。3人は少し時間が経ったが、まだここに真耶がいると思い探していたようだ。
「居ないね・・・」
「急ぎましょう!ロストの街へ!」
その時、3人の意思は固まった。3人は強く頷きロストの街へ足を進めた。
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