第22話 共鳴する勇者と孤立するモブ
「どこから出してんだ?」
「そんな、勇者様が・・・」
「負けるな勇者様!」
『勇者!勇者!勇者!・・・』
観客席の人達は勇者を応援する。そのせいで、勇者コールが始まった。真耶はそれを無視して手裏剣を投げまくる。
「クソォ!卑怯だぞ!遠くから攻撃するなんて!真正面から戦う勇気は無いのか!?」
その言葉にちょっとイラッとする。こっちだって事情があるんだけど!と怒りたいが、秘密にしてるので怒ることはしない。
「て言うか、お前の裂破はここまで来てんだけど」
呆れてそう呟く。真耶は遠くから攻撃しているが、希望はその攻撃を剣で防いできる。そのせいで裂破が飛び、真耶がいるところまできていた。だが、それについては何も言わないらしい。
「・・・はぁ、全力出せよ・・・なぁ」
真耶は再び殺気を強める。それだけで、会場が静かになる。
「クッ・・・皆!俺は負けない!力を貸してくれ!全員の力でこの男に勝つ!”共鳴状態”」
「頑張れー!勇者様!」
「頑張って!」
「勇者様!」
『勇者!勇者!勇者!・・・』
再び勇者コールが始まった。すると、希望のステータスが上がっていく。
「これが・・・最後の奥の手か・・・」
ステータスはどんどん上がると、途中で止まった。どうやらこれが限界らしい。途中、勇者の賛同者を増やそうかと思ったが必要なかった。
「いや、まだいけるな・・・」
真耶は不敵な笑みを浮かべる。そして、剣を収めて言った。
「やっと本気を出したか。大変だったよ、手加減するのって。うっかり本気を出すと、お前を殺しちゃうところだったからな」
「何!?どういうことだ!?」
「今言った通りだ。俺は初めから本気なんて出してない」
その言葉で観客席から視線が強くなった。少し、真耶に対する意識が変わったみたいだ。あと少し後押ししてやろう。
「勇者を殺す訳にはいかないからな。本当に疲れたよ。でも、ちょっと弱すぎたかな?手加減って難しすぎるんだよね。もっと強くなってから挑んでよ」
イラァ!
その場の全員がそういう感情を抱く。そのため、皆勇者を応援する。
「皆!俺達の力でこの男に勝つ!」
「そんなクソ野郎殺しちまえ!」
「ダメ男なんて消し飛ばしてしまって!」
「殺れ!早く殺せ!」
勇者の言葉で煽られた観客がそう叫ぶ。更に勇者コールが大きくなった。それと比例して勇者のステータスも上がる。・・・やっぱり上がるじゃないか。300倍くらいが限界だな。よくやったよ。
「さぁ、行くぞ!」
ステータスが300万越えの希望は剣をかまえ距離を詰めてくる。一瞬で目の前まで来た希望は剣を振るう。
カキンッ!
真耶は背中の剣を抜いて受け止める。さっきまでとは違い、簡単に受け止める。
「何でだ!?」
「いやだから、手加減してたって言っただろ」
「クソォ!」
希望は剣を振るうが全く当たらない。裂破すら当たることがなくなった。だが、それもそのはず。真耶は本当に手加減していたのだ。勇者の持つスキルと、どれくらい強いのか知るためにわざと苦戦する振りをしたのだ。勇者の奥の手を全て見た真耶は手加減する必要がなくなったので、手加減するのをやめる。それだけで、希望の攻撃は一切当たらなくなった。
「無駄なことはやめろ。どうせお前じゃ俺に勝てない。”物理変化”」
真耶は剣に炎を宿す。炎の剣となった武器は残像を残しながら希望を切り裂く。
「グアッ!」
「そろそろ終わらせようか」
真耶はそう言うと魔法を唱える。すると、辺りから剣が作られた。
「俺はね、物質の構成粒子さえ知っていれば何でも作れるみたいでな、これまで生きてきた中で見た武器だ。存分と味わえ」
そう言って走り出す。辺り一面に作られた剣を拾いながら縦横無尽に闘技場内を走る。そして、希望に切りつける。その速さに対応しきれない希望は傷跡を作っていく。
「”物理変化”」
真耶は自分の足を雷に変えた。それだけで、更に速さは速くなる。光の速さで走り希望を切る。
「終わりだ」
最後は希望の頭を殴って気絶させた。そこで、ゴーーーーン!というドラのような音が聞こえ、審判が止めに入る。
「勝者、真耶!」
そう審判が言った。しかし、歓声は上がらない。
「ま、予想はしていたけどね」
「それでは、真耶さん。景品を渡したいので少し待っててください」
そう言って審判は奥へと入っていった。すると、突然誰かがものを投げ込んで来た。それに便乗するように皆が物を投げ込む。中には食べ物を投げる人までいた。
「やめて!まーくんにも事情があったんだよ!」
「やめてください!」
「マヤさんだって戦ったんですよ!」
3人はそういうが、誰も耳を貸さない。・・・はぁ、もういいよ。
「”物理変化”」
魔法を唱えた。すると、まやの手の上で炎が上がる。真耶はそれを握りつぶした。炎が細かな粒子になって辺りに舞う。それが、光を発しイルミネーションのように煌めく。
パチンッ!
指を鳴らすと小さく爆発した。観客達は皆それに気を取られて、言葉を失う。皆が目を釘付けにする中真耶は言った。
「俺は錬金術師・・・この世界を変える者だ」
その言葉が闘技場内に響く。少しの静寂が続いた後に1人が声を発した。
「そうだよな・・・アイツも、必死に戦ったんだよな」
「そうよ。あの状況で煽ったりしないよね・・・普通は」
「すげーぞ!」
突然真耶への賞賛の声が上がり始めた。そのコールはドンドン大きくなっていき闘技場内を埋め尽くす。
「フッ、これで俺もモブを卒業だな」
そう言って控え室に戻った。
━━それから数時間・・・真耶は控え室で休んでいた。隣にはルーナが座っている。他の2人は買い物に出かけている。
「マヤさんは無茶しすぎです!」
「悪い悪い。それに、俺が勇者に負けるとでも思ったのか?」
「思ってないです!」
ルーナは怒りながらそう言ってくる。そんな様子のルーナを見て真耶は笑う。そして、真耶は火傷した自分の腕を見て更に笑った。
「これが心配なのか?こんな傷直ぐに治るさ」
「そうですけど・・・もう!嫌いです!」
えぇぇぇぇぇぇ!?なんでそうなるんだ!?
ルーナはそう言ってそっぽ向いた。もうなんか言うのも面倒臭いので試しに無視してみる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ルーナは何か言ってほしそうにチラチラ振り向く。だが、真耶は何も言わない。無視して手の傷を治していく。
「む〜〜〜〜!」
少しすると、ルーナが頬を膨らませてポカポカと殴ってきた。痛くは無いけど痒い。
「ま、何でもいいけど2人が遅いな」
「そうですね・・・て、なんでも良くないです!」
「まぁまぁ・・・」
がチャリ・・・
ドアの鍵が開く音がした。いや、この部屋に鍵はつけていない。だとしたらドアが開く音が閉まる音だろう。しかし、それからは一切足音がしなくなった。
「どうしたんでしょ・・・っ!?」
「静かにしろ。逃げる準備をするぞ」
そう言って壁まで後ずさる。壁際まで来ると壁に手を付きルーナを抱き抱える。
「ひゃぁっ!・・・むっ!?」
真耶に腰周りを触られ、つい変な声を出してしまう。さっき静かにしろと言われたばかりで慌てて自分で口を塞ぐ。
「・・・」
それから少しすると、影が見えた。どうやらここまでの廊下やドアを全く音を立てずに来たらしい。
「誰だ?隠れているなら出てこい」
すると、突然真耶の周りを暗殺者のように黒いフードを被る集団が降りてきた。
「チッ!”物理変化”」
真耶は地面を動かし暗殺者のような集団を壁際に押し飛ばす。
(神眼スキルでも正体が分からん。そういう魔法か?)
『”我が身を焦がす魔力よ・・・ブレイズ”』
暗殺者のような集団は突然魔法を放ってきた。
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