第21話 勇者の奥の手と真耶の奥の手
━━時は戻って現在・・・
「これが、希望状態・・・」
真耶は希望の様子を見て呟いた。
「さぁ!行くぞ!”希望斬撃”」
いきなり攻撃を仕掛けてくる。それも、速い。黄色く光る斬撃は一瞬で目の前まで来た。
「っ!?」
真耶は背中の剣に手をかける。その剣は、昨日買った武器だ。大きさは、中くらいで少し重めだ。
「やめろ!そんな武器じゃどうにもならない!」
観客席からそういう声が聞こえる。武器屋のおじさんの声だ。確か名前は・・・グレギルと言ったな・・・
(昨日名前聞いといて良かったよ・・・)
「グレギル、もう少し自分の武器を信じろ」
そう呟いて剣を振り下ろした。斬撃は剣とぶつかると、剣をウエハースのように切り裂く。半分切れたところで真耶は剣を見た。
「やっぱり・・・こうするしかないよな。”物理変化”」
剣を再生させる。この剣は、誰にも見えないように神眼を使っているから無限に再生出来る。
「何!?」
なんと、剣は斬撃を切り裂いた。切られた斬撃は横に弾かれ壁にぶつかり、爆発した。
「嘘でしょ!?希望くんの攻撃を防ぐなんて・・・真耶さん、どんな武器使ってるの!?」
奏は、近くでそんな声が聞こえた。よく見ると、近くに癒優と彩花が座っている。
「癒優ちゃん!彩花ちゃん!」
「奏ちゃん!そんなとこにいたの!?」
2人は奏の顔を見て表情を明るくする。どうやら仲がいいらしい。真耶はその様子を見届けた。
「おい!何よそ見している!こっちを見ろ!」
「悪い。俺は保護者的な立ち位置でね。心配なんだ」
「そんなことより、今の状況を心配するんだな!さぁ!行くぞ!”天の雷”」
黄色い雷が真耶を襲う。これが希望状態の本当の力だ。自分の中の希望を増幅させ魔力へと変換する。勇者だからこそ出来る技だ。
「なら、その希望ごとへし折ってやるよ!その剣をな!」
真耶は剣を地面に突き刺すと何かを投げる。希望は咄嗟に避けるが、数発当たった。
「手裏剣だと!?」
そう、手裏剣である。これは、昨日武器を買った後にグレギルから貰った鉄くずで作ったものだ。
「隙を産んだな!」
気がつけば真耶は既に希望の首元まで剣を持って行っている。あと数センチで刃は当たるだろう。
「クッ・・・まだだ!」
突如、爆発的に増大した気に吹き飛ばされた。よく見ると、希望は黄色い光に加え白いオーラのようなものを纏っている。
「”信念状態”」
希望を見ると、体中の気が大きくなっている。神眼で確認すると、ステータスが10万超、最初の10倍になっている。
「速かったな。もう少し粘ると思ったが・・・もう、2つ目の奥の手が出てきたか」
「お前は強い。だが、ここまでだ」
そう言って、希望は剣を一振する。何が飛んできたのか分からないが、真耶の右腕が切り裂かれる。ギリギリで切り離されることはなかったが、それでも致命傷だ。
(何だこれは!?波動か?いや、それとも斬撃か・・・)
「もう終わりだ!」
「しまっ・・・!?」
気づいた時には遅かった。希望の剣はその刃を煌めかせながら真耶へと迫る。
キンッ!
ギリギリのところで真耶は防いだ。持っていた剣で受け止める。
「・・・これは・・・っ!?」
しかし、何故か体から血が吹き出す。防いだはずが、自分の右肩から左の脇腹にかけて深く切り裂かれていた。
「ゴフッ・・・!」
「まだまだぁ!」
希望は畳み掛けるように剣を振る。真耶はそれらを全て防ぎきる。しかし、何故か体は傷ついていく。
「なるほどな・・・裂破を使うとはな・・・ゴフッ・・・!」
よく考えたものだと思う。たとえ攻撃を防がれようとも、裂破は傷つけることが出来る。
「これで終わりだぁ!」
希望はそう叫ぶと怒涛の連撃を決めてくる。真耶はそれを全て防ぐ。しかし、裂破は防げない。防いだ分だけ体に傷ができていった。
「そろそろ限界なんじゃないか!?降参しろ!」
「そうだな。じゃあ、リセットだ。”物理変化”」
そう言って体の傷を全て治す。そして、神眼で自分を見た。
(魔力がかなり減ったな。数字が表記されている・・・)
「フハハハハ!貴様の力は凄いな!まさか、クラスにこんな奴がいたとはな!だが、ここまでだ!”天地絶裂”」
空が大地が裂けていく。空気さえも裂いてしまう裂破はとてつもない轟音を立てながら真耶へと迫る。これはこの剣では防げない。死・・・・・・・・・
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「あ、1つ忘れてた。頼みたいことがあるんだけど・・・」
真耶は武器屋を出たと思ったら戻って来た。
「何だよ?」
「いや、えっと・・・」
「グレギルだ」
「グレギルに頼みたいことがあったんだよ」
真耶はそう言ってグレギルの元まで歩いていく。当然出入口は再び塞いでいる。それどころか防音加工までしている。
「慎重だな」
「まぁな。この頼みは聞かれる訳にはいかない・・・!」
「・・・着いてこい」
真耶は言われるがままについて行く。中に入ると、工房になっているようだ。そこには、少し厳重にしまわれているものがあった。
「あんたの狙いはこれだろ。アダマンタイトだ。この世界で最も硬いと言われている。これは最高級の品質でな、買うのに家3つ分くらいは払ったよ。欲しいんだろ?」
「いや、見せてもらうだけで良い。あんたには悪いが、それで作れる」
「っ!?」
そう言って、1つ複製した。
「これで支払い料は良いか?」
「別に見せるだけなら要らねぇよ。ま、ありがたく貰っておくよ」
そう言ってアダマンタイトをしまう。
「それと、鉄くずをいくつか貰って行っていいか?」
「別に構わねぇよ」
「助かるよ」
真耶はそこら辺に落ちている鉄クズをいくつか持って工房を出る。店の中には3人が待っていた。
「また今度な」
そう言って店を出ていった・・・・・・
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そして現在・・・
「まだだ!”物理変化”」
真耶は魔法を唱え、武器を振るう。強大な力を持つ裂破は剣にぶつかると甲高い音を立て火花を散らす。
「諦めろ!その程度の武器では防げない!」
希望はそう言って笑う。どうやらまだばれていないらしい。好都合だ。
真耶は火花が舞う中不敵に笑う。そして、剣を力強く握りしめた。
「俺を舐めるなよ!」
足で踏ん張る。そのせいで、地面がえぐれる。ジワジワと後ろに押されていく。
「まーくん・・・」
『マヤさん・・・』
「負けるな!俺の剣で神器に勝てることを証明するんだろ!」
観客席からそういった声が聞こえる。奏達だ。・・・そうだ、負ける訳にはいかないんだ。勇者にはまだ1つ奥の手が残っている。
「まだ、あと1つ見るまで負ける訳にはいかないんだよなぁ・・・難しいな・・・」
真耶は剣を握る手に更に力を込める。火花が増えていき服に当たると服を燃やし始めた。煙が上がり火がつく。
「何っ!?もうやめろ!それ以上は貴様も危ないぞ!」
人の心配してる場合か?と、聞きたいが対戦相手が突然燃えだしたら心配するわな、と思う。
「や、ヤベーよ・・・死ぬんじゃねぇのか?」
「は、早く助けてあげないと・・・」
「勇者様が何とかするさ・・・」
観客席から心配する声が聞こえる。て言うか、審判まで心配している。止められる前に何とかしないとな・・・
スパッ!
真耶は裂破を切り裂いた。二つに分かれた裂破は上と下に別れ後ろの観客席まで飛んでいく。
「危ない!”フレアフレイム”」
裂破は突然の業火に包まれる。彩花の魔法で裂破を消したらしい。片方は彩花に消され、片方は真耶の足元に当たり地面を破壊する。
ドカンッ!
地面が爆発し砂煙が舞う。
「まーくん!?」
なんと、その爆発に真耶が巻き込まれた。
「っ!?・・・勝ったのか・・・?」
希望は剣を下ろす。そして、笑う。
「勝ったぞ!皆!俺の勝ちだ!さぁ、審判!俺の勝ちだ!これで終わりだ!」
「勇者様、失礼ながら申し上げます」
「何だ?」
「まだ、終わりではありませんよ」
「何を・・・言って・・・っ!?」
審判が指を指した。指した方向を見ると、剣を振り上げる真耶がいた。真耶は体中に火傷がある。服の火は消してあるがそれでも焼けたあとが残っている。
「しまっ・・・!」
希望は何とか防ぐが少し傷を負ってしまった。初めての傷にその場の全員が騒然とする。
「まさか、生きていたとは!」
「こんなことで死ぬか」
真耶は1度距離をとると、剣を地面に突き刺す。そして、手首に隠しておいた鉄心を取り出すと、魔法でそれを手裏剣へと変える。そして、更に複製する。
「これでもくらえや」
手裏剣を投げる。投げたそばから増やしていく。
「クッ・・・」
希望は苦しみの声を漏らした。
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