第20話 辛い過去を乗り越えて
「もうこんなになってしまったんだ。話さない方が良くない。だから話してやるよ。ただ、誰にも言うな」
真耶は脅しとも言えるくらい怖い表情でそう言った。その声と目で2人の体が強ばる。奥では、奏が申し訳なさそうに正座している。真耶は、3人に目をやると話を始めた。
「俺は姉が1人の姉弟で、4人家族だったんだよ・・・」
そう言って苦しそうな顔をする。中々先を話してくれない。それに、だったと言う表現がまた気になる。
「それでそれで?」
「・・・あの日、俺はいつも通り学校から家に帰っていた。その日は予報では晴れだったのに雨が降っていた。とても不吉な雨だった。予兆も何も無かったのに降り出した雨に焦って俺は慌てて家に帰ったよ。そしたら、家に誰もいないことに気がついた」
真耶は話が進むにつれて顔が暗くなり、苦しそうになっていく。奏も額を地面に擦り付けながら涙で床をびしょびしょにしている。
「そ・・・それで、どうなったのですか?」
「・・・俺の親は共働きでいつもは家にいないんだけど、その日は2人とも休みだったんだよ。だから、家の中にいないことに気がついて急いで探したよ・・・」
「それで、見つからなかったのですか?ちゃんと探せば・・・」
「ちゃんと探したさ。床下から屋根裏まで、家の中は全部・・・クローゼットの中も探したよ。ツボの中も、カーテンの裏も、全部探したよ。でも、見つからなかった・・・それで俺は、外を探してみた。庭から何から全部探しても見つからなかった」
真耶は遂に泣き出してしまった。ポロポロと涙をこぼしている。その目は潤っているが、どこか悲しそうだ。
「少しして姉が帰ってきた。姉も慌てて警察に電話した。だが、通じなかった。だが、それはわかっていたんだ。俺だって馬鹿じゃない。親がいなくなれば警察に電話をする。しかし、かからない。とても不思議だったよ。でも、すぐにその答えがわかった。テレビをつけたら・・・」
「もうやめて!もう・・・話さないで・・・ください・・・これ以上、まーくんが悲しむ姿は・・・見たく・・・ないです・・・許してください・・・」
そう言って奏が再び土下座をする。今度は、誠意を見せているつもりなのか、服を脱いでいる。さらに、額からは血が出そうなほど擦り付けていた。
「・・・ごめんな・・・でも、このことは克服しないといけない。多分・・・出来ないけど・・・。話を戻そう。あの日、テレビをつけたんだ。何か、つけないといけない気がした。すると、テレビにはあるニュースが流れた。”天皇陛下の暗殺を目論むが失敗に終わる。その場の2名が撃たれ死亡”そう流れた。そして、写った写真には、俺の父と母がのっていた」
「っ!?・・・ご、ごめんなさい・・・テレビとか、撃たれたとか、よくわからないです」
ルーナは驚きながらもそう言う。確かに、この世界には拳銃や狙撃銃は無い。
「ま、簡単に言ったら死んだってことだよ」
「っ!?」
2人の顔が青ざめる。そして、手足を振るえさせ申し訳なさそうな顔をする。
・・・あぁ、またやってしまった。この話をするとどうしてもやってしまうんだ。
そう言って顔を1度隠す。
「悪いね、我慢しようとすると表情がひきつるんだ。・・・俺は、突然家族を失った。信じきれず、すぐさま事故現場に行ったよ。そしたら、人がいた。話をしてみると、その人はこう言った。『あの時、誰か1人でもあの2人を助けていれば・・・対して怪我もしていなかった天皇陛下を助けずに、あの2人を助けていれば死なせずに済んだのに・・・』とな。なぁ、本当に不思議だろ。死にかけてるのに誰も助けないんだとよ・・・」
真耶は泣きながらそう言ってきた。その話を聞いて、軽い気持ちで聞いた自分達を殺したくなる。だが、2人は我慢して話を聞いた。
「2人は、俺と同じモブと言われるような人だった。だから、国の主人公である天皇を優先して助ける。俺はその日から人を信用出来なくなった。だから、オタクとして鍛えた。毎日特訓をして、勉強をして、モブを卒業しようとしたよ。でも、出来なかった・・・」
真耶は少し落ち着いたのか、涙が止まった。
「・・・これは俺が8歳の頃の話だ。姉は大学生で俺を養うの、は少し難しかった。それでも、俺を必死に養ってくれた。結婚しても、夫婦揃って俺を助けてくれた。だがな、オタク・・・それも、アニメオタクへの風当たりは強かった。俺をいじめようとするやつは後を絶たない。高校に入ってからはずっとモブとして生きていた。これはつい最近の話なんだがな、俺の親を殺したやつが捕まったって言うニュースを見た。そして、そいつはこう言った。初めから俺の親を殺すつもりだった。天皇に撃ったのはカモフラージュだ、とな」
「っ!?」
真耶の話は心に刺さる。自分のことじゃないはずなのに胸が苦しくなる。そんな話だった。真耶は自分の心をずっと苦しめながら話を進めている。2人にはそれが痛いほどわかった。
「俺はそこで人に対する感情を全て消し去った。そして、関わらないことにした」
「じゃあ、カナデさんは?」
「あいつは幼なじみだ。俺のことを知っていて、俺が話せる数少ない人の1人だ。わかっただろ。だから俺はお前らにステータスを教えないんだ。だが、特別に見せてやるよ」
そう言ってステータスプレートを取り出した。それを見ると、悪いことをして見ている気分になる。それでも気になる。2人は恐る恐る見ることにした。
「奏も見ていいよ」
真耶はそう言って、3人のところに投げる。ありのままのステータスを・・・
「それはやるよ。俺には必要ない」
「え!?でも・・・」
「そんなものいくらでも複製出来る。それを持ってギルドにでも行けばいいさ。そして、俺を異端者認定するんだろ。俺は構わないよ。全員殺すから」
そう言って扉まで歩く。そして、手をかけ外に出ようとする。
「待って!」
その声に真耶は一瞬止まる。
「・・・待ってください・・・離れたくありません・・・」
3人はそう言って土下座をした。真耶はそれを見て少し悩む。そうするくらいなら初めから怒らせなければいい。
・・・もう、遅いんだよ・・・
「嫌・・・です・・・マヤさんがいなくなるなんて、嫌です・・・」
「そうか、もうちょっと早く聞きたかったよ」
「遅・・・すぎたかも・・・しれません・・・ですが、もう一度・・・考え直しては・・・くれませんか・・・?」
3人は嗚咽を我慢するようにな頼み込んできた。俺だって、離れたくはない。だが、人の秘密を無理やり聞き出す人を信用なんて出来ない。
「お願い・・・します・・・」
3人は額を地面に擦り付けて懇願する。その様子を見て、真耶は扉から手を離した。そして、3人に近づく。
「本当に俺と一緒にいたいのか?」
『はい・・・』
「・・・仕方がないなぁ」
真耶は優しく微笑むと、さっきまでとは全く違う声色でそう言った。そして、3人の頭に手を乗せていく。
「もう少し、信用するよ。だって、仲間だしね」
そう言って優しく笑った。
「じゃあ、皆には勇者のこと全部教えてもらうよ」
『うん!』
3人は喜びを隠しきれないままそう返事をした。
【特殊スキル、魔眼・苦痛眼・時眼スキル、解放しました】
真耶の目の前に、それは突然現れた・・・
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