第176話 対決!理の王者VS神々の使者(下)
紫色の炎の不死鳥は容赦なく奏を襲いかかった。結界を壊された今、ここでこの技を食らうことは致命的でしかない。
その時真耶は、勝利を確信……しなかった。なぜなら、相手が神々の奴らなら何かしらの奥の手があるからだ。真耶は何度か戦いそれを理解している。
「まだ、終わってないのよ!”天界より与えられし天命に答えん。そして、今ここに力を顕現せん””天神纏”」
その刹那、不死鳥は全て消えた。それだけじゃない。扉も消された。
「っ!?……フッ、やっと本気を出したか。さて、どこまでいけるかね……」
「ここで終わりよ。”神の息吹”」
その瞬間、真耶に強烈な風が襲いかかった。その風には雷や炎、それだけでは無い。炎、水、風、雷、土の5属性が全て含まれている。
「クッ……!」
「よく耐えたわね。”羽の箱船”」
奏は天高く飛び上がると、背中から羽のようなものを生やし、羽を散らせる。その羽は、真耶の周りに落ちてきて幻想的な空間を作り出す。
「まずいな」
「もう遅いわよ」
奏はそう言って手を強く握った。すると、それに呼応するかのように羽が真耶を襲う。
真耶は、その羽を何とか体を反らしたり、間をすり抜けたりしながら避ける。しかし、その内の一つが肩に刺さってしまった。すると、肩が何かに吸い込まれていく。
「チッ……!」
真耶は何とか吸い込まれないように拒んだが、吸い込まれる力の方が強い。そのせいで、肩がちぎられ右腕だけ吸い込まれてしまう。
「クッ……!」
「あはは!残念だったわね!私を本気にさせるからよ!」
奏はそう言いながら高らかに笑う。しかし、真耶からしてみればこれくらいの傷はどうってことは無い。
「まぁ、これくらいはすぐ再生出来るんだけどな。1つ教えてやるよ。お前が出来ることは俺も出来る。”時の方舟”」
その瞬間、奏の真後ろに巨大な時計が現れた。その時計は12時ちょうどをさして止まる。すると、ゴーンッ!という音を立てその場の時間が止まった。
「ほら、出来ただろ。”激流閃”」
真耶は剣に水を纏わせその水を激流に変える。その剣で奏に斬りかかった。5連続の連撃だ。
一瞬にも満たない速度で切り裂かれた奏は斬られたことにも気が付かない。体を動かそうにも時間を止められ動けない。
「魔法というのは、状況に応じて使い分けなければならない。わかったか?」
真耶はそう言って時を進めた。その刹那、奏の体に5つの傷が出来る。そして、その傷から鮮血が吹き出してきた。
「グフッ……!良くもやってくれたわね!」
「いや、そう言いながらもう回復してんじゃん」
「当たり前でしょ。こんなの致命傷にすらならないわ。それより、あなたこんな大技使っていいの?まりょが足りなくなるんじゃないの?」
「そんな訳ないだろ。足りなくなっても、これだけ魔法を放ってるんだ。大気中の魔力で魔法は放てる。こんなふうにな」
そう言って魔法陣を描き魔法を放つ。
「”ライトニングバレット”」
魔法陣からは雷の弾丸が放たれる。しかし、奏はその雷の弾丸を手刀で切り裂く。二つに分かれた雷の弾丸は後ろにあった建物を破壊した。
「さすがね。大気中の魔力を操って魔法陣を描くなんて……本当に人間とは思えないわ」
「まぁな」
「でも、あなた……」
パンッ!
その時、そんな音が鳴った。真耶は咄嗟に体を反らし飛んできた何かを掴み取る。見れば、それは弾丸だった。
「Hands Up!!」
どうやらアメリカの警察が来てしまったらしい。さすがはアメリカといったところだ。容赦なく撃ってくる。
「……フッ、今が1番いい時なのにな。ここらでひとまずさらばだ」
「でも、その前に1つだけ……」
2人はそう言って不敵な笑みを浮かべる。
「”我が願いに答えよ。そして、我が天命を果たすべく大いなる力を与えよ”」
奏がそう唱えた瞬間、空に金色に光る円形の扉が開く。そして、その中から金色に光る炎の不死鳥が飛び出してきた。
それはかなりの大きさだ。下手をすれば、それだけで地球を消し炭に出来そうだ。
「フッ、やってくれるじゃないか!”全てを滅ぼす地獄の炎よ、今ここに現らよ”」
今度は真耶がそう唱えた。すると、地面に亀裂が入る。そして、その亀裂から紫色の炎が溢れ出して来て紫色の炎の不死鳥が飛び出してきた。
その様子はまるで、地獄の底から登ってきたみたいだ。
「”ゴッドフェニックス”」
「”インフェルノフェニックス”」
2人同時2魔法を放つ。すると、2つの不死鳥は凄まじい速さと威力で衝突し、反発し合う。そして、2つの不死鳥は同時に噛み付くと、巨大な爆発を起こした。
そのせいで、とてつもない爆風が吹き荒れその場にいた警察官は全員吹き飛ばされる。そして、爆風と爆炎でそのまわりにあった建物は全て破壊された。
「……やはり防がれたか」
真耶は小さくそう呟くと、力強く地面を押して奏に向かって飛び出す。そして、奏を蹴り飛ばそうとするが、途中で止められ逆に投げ飛ばされてしまう。
「っ!?クッ……!」
奏は真耶を全力で投げ飛ばした。そのせいで、真耶は大西洋のど真ん中に叩きつけられる。
巨大な水柱が上がった。さすがに衝撃が大きかったのか、真耶は力なく沈んでいく。
その少し離れた場所に奏は空を飛びながら来た。そして、真耶を探す。
「あら、死んじゃったかしら?あっけないものね」
「そうだな」
奏の後ろからザバーンという音がする。
「わかってたわ!そう来ることはね!」
そう言って後ろを振り向き魔法を放った。しかし、真耶は居ない。あるのはただの人形だけだ。
「っ!?なんで……!?」
「残念、少し手前だったな」
そう言って人形の後ろから真耶は剣で奏を突き刺した。奏はすぐに後ろに飛び退くが、少しふらついてしまう。
「ハハッ!傷の再生が遅くなってやがるぜ」
「それはあなたもでしょ?傷ができていることにも気が付かないなんて」
そう言って腹を指さす。気がつけば、腹に3本、背中に5本の剣が刺さっていた。しかも、手や足にある小さい傷は治っていない。
「どうやら2人ともそろそろ限界なようだ」
「そうね。そろそろ終わりにしましょ。そうやって水の上に立つのも疲れるでしょ?」
「空に浮かぶのもきついだろ?」
そう言って不敵な笑みを浮かべ合う。
「……なぁ、俺達ってさ、状況が違えばもっと分かり合えたんじゃないのか?」
「そうね。でも、もう無理よ」
「そうだな」
その場に一時の静寂が訪れる。2人は何もせずただ見つめ合うだけだった。
「もう終わりにしよう」
その瞬間、真耶は奏に斬りかかった。奏は結界を張り防ぐとすぐに魔法を放つ。真耶はそれを剣で切り裂くと、すぐに攻撃をする。
2人はずっとこれを続けながらどんどん東へと進んで行った。所々防ぐことが出来ずに攻撃を食らうがそれでも続ける。そして、遂に2人は日本の東京、それもあの日異世界に召喚された学校のグラウンドへと戻ってきた。
「ここは……」
「ここで終わりにしよう。全て、何もかもを」
真耶はそう言って、アヴァロンナイトの最後の力を発揮させた。
奏はそれを見てすぐに構える。そして魔法をいつでも放てるように呪文を唱え始めた。
「……」
真耶は無言でアヴァロンナイトを構える。そして、駆け出した。そして、表情に出さないように頭の中で奏に話しかける。
(なぁ、奏。お前は今のこの状況になることを望んでたのか?これが本当に幸せだったのか?最初に出会った場所で、最後を迎えようとしている。それがお前の望みだったのか?違うだろ!本当にしたかったことはこれじゃないだろ!時々見せた、俺に対する好意は偽物じゃなかった!だから、お前には最後に本当の幸せをあげるよ。これまで生きてきた中で最も幸せなことを、お前にしてあげるよ)
真耶はそう言って真っ直ぐ突き進む。奏はそれを見て魔法を放った。
「”フレアドライブ”」
豪炎が真耶を襲う。しかし、真耶はそれすらも無視して突き進んだ。
「っ!?なんで……!」
奏はそんな真耶を見て後ずさる。真耶はそんな奏の間合いに瞬時に入り込んだ。
「しまった……!」
奏は目を瞑る。しかし、真耶は何もしない。ただ、優しく抱きつくだけ。
「っ!?」
そして、真耶は奏にキスをした。奏はそんな状況に理解出来ずに言葉を失う。ただ1つわかったことは、今のこの時間が幸せだということだ。
真耶は奏の様子を見てそれを理解した。だから、キスをしたまま剣を奏の背中に向けて突きつける。しかし、奏は気が付かない。
「……」
真耶は奏の唇からそっと離れた。そして、奏の目を見る。その目はどこか悲しそうな、辛そうな、でも嬉しそうだった。
「奏……楽しかったよ。異世界での冒険も、日本ですごした日々も」
真耶はそう言ってアヴァロンナイトを奏の背中に突き刺した。白刃が煌めき、奏の心臓を貫く。そして、その刃は奏の体を貫通し真耶の心臓にも突き刺さった。
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