第171話 禁忌に触れる男
━━それから真耶達は次の場所へと急いだ。
さすがに時間をかけすぎだ。それに、恐らく時間をかければかけるほど奏が魔力を込める時間が長くなる。そうなれば、手間取るだけだ。
真耶はそれがわかっているから足早にその場を駆け抜ける。アーサー達もそれを理解し真耶について行った。
そして、次の場所へ到着する。そこは、まるでそういうホテルのような部屋だった。
「……なぁ、俺初めてボールスの部屋に入ったけど、こんなんなってたんだな」
「我は知っていたが、見て見ぬふりをしていた」
「え?」
その言葉でその場の空気は凍りついた。
だが、その氷も直ぐに溶かされることになった。なんと、目の前に人が降ってきたのだ。
「っ!?お前は……!」
なんと、ボールスの臣下のグリーが天井から降ってきたのだ。さすがに真耶達も驚いた。しかも、衝撃波を食らってしまう。
そのまま10メートルくらい吹き飛ばされた所でモルドレッドにぶつかり止まった。
「痛てー。いきなりだな」
「大丈夫?」
「まぁな。それより、とんでもないのが出てきたな」
「あれって純愛のオーブだよね?あんな能力あったっけ?」
「いや、無かった。とは言いきれないな。純愛のオーブ自体の力を皆見たことないだろ。あのオーブの元々の力は、相手に愛される、愛することだ。そして、それの他に知られていない能力がある」
真耶はそう言って右目に魔力を込めた。そして、時眼を発動する。
「あのオーブの対処法は簡単だ。あのオーブの能力は、人々から愛されている技を全て使えるということだ。だから、自爆技しか使えなくするのが定番だが、殺す訳にはいかない。そのため、時間を止めるのが一般的だ」
真耶はそう言ってグリーに向かって大きく飛ぶ。そして、剣を振り上げながら降下する。
「”時の領域””時よ止まれ”」
真耶はそう言ってグリーのオーブを持っている手の時間を止めた。そして、時間を止める。
「終わりだ。”天地鳴動・地裂斬”」
真耶は地面に着地すると同時に剣を振り下ろした。すると、剣から鋭い斬撃が放たれグリーの右肩から左脇腹付近までを切り裂く。
「ぐぅっ!」
グリーは呻き声を上げるとすぐにオーブを前に突きつける。そして、高密度な魔力をぶつけ時の領域を壊した。
しかし、その瞬間に真耶が距離を詰めグリーの首を切り落とした。そして、そこでグリーの命の灯火は消えた……━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……という夢を見せた。
「ぐっ!ごぉぇ……!」
グリーが声にならない呻き声のような悲鳴を上げ倒れた。そして、その時の真耶の右目には時眼ではなく邪眼が浮かんでいた。
「ねぇ、いつから幻覚を見せてたの?それに、どこまでが本当なの?」
「あの、最初に吹き飛ばされた時。あそこで幻覚を見せ始めた。そして、純愛のオーブに皆の知らない能力がある所まで本当のことだ。違うのは、純愛のオーブと戦う時は時間魔法が一般的というところ。そもそも、時間魔法を使える人自体稀なのに、そんなのが一般的なわけないだろ。一般的なのは相殺、もしくは封印だ」
真耶はそう言ってグリーに近づく。どうやら夢の中で殺されたことで気絶しているらしい。丁度いい。真耶はこのままグリーと純愛のオーブを回収する。
「残り5個。そのうち2個はエルマが持っている。早くエルマを助けないとだな」
「あぁそうだ。早く進もう」
真耶とアーサーはそんな会話をして次の場所へと向かい始めた。
━━その頃エルマは……
遂に、犯されてしまっていた。なんと、奏はどこからか媚薬を盛り狂乱化した性欲おばけの獣人を連れてきてエルマを犯してしまったのだ。
エルマは実は真耶のことが好きなのに、こんなわけも分からない謎の獣人にレイプされたような状態になってしまい、完全に放心状態となってしまった。
今も犯されている状況だが、もう声すらも出ない。ただ、絶望という言葉だけがエルマを埋めつくしていく。
「……死にたい……」
エルマは自然とその言葉を呟いた。それは、今のエルマが抱いている本音であり、願望だった。
そして再び絶望に飲み込まれて行った。
━━一方真耶は……
「”理滅・歪曲”」
「”ディスアセンブル砲”」
真耶とモルドレッドは2人で協力してマーリンの臣下であるニュリムを倒していた。相手が魔法しか使わないとわかった以上、倒すのは簡単だった。
真耶達はニュリムとオーブを回収して次の場所へと向かい始める。その時、ふと頭の中に言葉が聞こえた。
「……死にたい……」
「っ!?この声は……エルマ……!」
なんと、エルマの死にたいという悲痛な叫びは真耶の耳に届いたのだ。真耶はその言葉を聞いて尚更焦り出す。早く助けられるように真耶達は次の場所へと走り出した。
次の部屋はグィネヴィアの臣下のギュトだ。ギュトはオーブを持ってその場に立ち尽くしていた。
そもそも、グィネヴィアの部屋はかなり広く、何故かダイニングのようになっている。テーブルはとんでもなく長く、全席にスプーンとフォークが置いてある。だから、そんな部屋の真ん中で立っとなると、かなりおかしい。
「これはまずそうだな」
真耶は小さな声でそう言うと剣を握りしめた。しかし、背中から抜くことはしない。なんせ、禁忌のオーブは抜くことを封じることが出来るから。
さらに言うなら、禁忌のオーブは剣の能力を封印することなど簡単なのだ。
「……フッ、やるか」
真耶はそう言って目を閉じた。そして、目を開け神眼を使おうとする。しかし、発動しない。
「やられたな。なら、古い手で行く!”物理変化”」
真耶は魔法を唱えた。すると、地面がぐにゃりと歪み始める。そして、地面は龍のようになってギュトを襲い始めた。
しかし、それすらも途中で止められる。
「……」
「ねぇ、真耶。禁忌のオーブってどういう能力なの?」
「知らなかったのか?」
「……」
真耶がおちょくるように言うと、モルドレッドはムッとして黙ってしまう。そして、頬をふくらませて涙目になる。
「悪い悪い。禁忌のオーブっていうのは、禁忌の物を封じることが出来るんだ。そして、禁忌を増やすことも出来る。だから、俺みたいな禁忌に触れるような技は全て封じられるんだ」
真耶はそう言って手をヒラヒラさせた。
「……そもそも、増やされるんだから全て封じられるんだよな」
「どうやったら解けるの?」
「使用者をボコボコにして気絶させたら解けるよ」
「そう……わかった。真耶、少しだけ我慢して」
「え?」
「”エンペラーレイ”」
突如モルドレッドが真耶に向かって魔法を発動した。そのせいで、真耶は吹き飛ばされる。しかし、ギュトはモルドレッドの魔法を封じた。
「フッ、ナイスだ。モルドレッド!」
そのまま真耶はギュトの近くまで吹き飛ばされる。そして、流れるようにギュトに1発殴った。さらに、そこから連続で殴りまくる。
2分くらいボコボコにしたらギュトは気絶してしまった。
「はい終了。次のところに行こうぜ」
「ん!」
「そう言えばさ、アーサー達は?」
「手分けしようって言って違うところに行ったよ」
「そうか……初めからそうすればよかったな」
真耶達はそう言って笑い合う。次の場所へと向かい始めた。
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