第167話 4分半の対決
その場は光に包まれ轟音が鳴り響いた。そして、光が収まっていく。気がつくと、そこはほとんど壊され何も無い状態になっていた。
「とんでもないな」
「この方が早いだろ。それに、敵とご対面だ」
そう言ってアーサーは指を指した。その方向に謎のフードを被った人がいる。
「……いや、ご対面したけど……」
「飛べないお前らは届かねぇよな」
ガウェインがそう言った。だが、そうなのである。なんと、その敵は到底ジャンプで届くわけもないような高さから真耶立ちを見下ろしていた。
「なるほどな。時間稼ぎか」
恐らく、5分経てば元に戻るのを利用しているのだろう。だから、真耶達は5分以内に倒す必要がある。
「ヴィヴィアン、絨毯はどうした?」
「絨毯?それならアイテムボックスに入れてるわ」
そう言って空間を作り出し体を半分入れながら漁っていた。そして魔法の絨毯を見つける。
「貸せ」
「ん!」
ヴィヴィアンはその絨毯を真耶に投げ渡した。真耶は絨毯を掴むとジャンプし、飛びながら広げ、その上に飛び乗った。
そして、フードを被った人の所まで行く。ここまで30秒。あと4分半でケリをつけなければならない。
「楽勝だな」
真耶はそう言って背中の剣を握りながら走り出す。目の前の人はそれを見ながら構えた。
よく見ると、この人女だ。胸がある。しかも、少し大きい。
(このボディライン、どっかで見たな……)
「っ!?もしかして……!」
真耶は急ブレーキをかけるとアルテマヴァーグを抜き軽く振った。そして、1度アーサー達の元まで降りる。その瞬間、剣から鋭い波動が放たれその女性のフードをかすめとる。すると、そのフードの下の素顔が明らかになった。
「っ!?」
「嘘っ!?」
「そんなっ!?」
なんと、その女性はモルゴースの臣下のムルネアだったのだ。
「やられたな。殺さず捉えなければならないか。しかも4分半で」
いきなりレベルが跳ね上がりやがった。このままではまずい。特に、ムルネアは相性が悪い。
このオーブは時のオーブ。モルゴースが使った時は2年間ループさせることも出来たが、ムルネアだと5分が限界のようだ。恐らく、短くするのも5分以上短くできないのだろう。
だが、何よりムルネアの固有との相性が悪い。なんせ、ムルネアの得意魔法は防御魔法だ。こいつはモルゴースを守るために守ることに特化している。
要するに、4分半で倒せるほどヤワじゃないということだ。
「珍しいな。お前が苦戦するなんて」
「仕方ないだろ。相手が相手だ」
「魔力を温存するとか考えてるなら、アムールリーベを使えばいいだろ」
「それじゃあ殺してしまう」
そういうと、その場の誰もが言葉を失う。やはり、4分半というのが無理なのかもしれない。
「……まぁ、俺としては色々技があるから方法はあるんだが……」
「疑問。そういえば、真耶の技って何個あったっけ?」
モルドレッドの問いに真耶は少し下を向く。どうやら言いたくないらしい。
「……お前ら、信じろよ」
「ん!」
「……1個」
『っ!?嘘!?』
その場の誰もが同じ反応をした。真耶はその言葉を聞いて少しだけ落ち込む。
「嘘でしょ。これまでいっぱい使ってたじゃん」
「あれは全部理滅を応用しているだけだ。一時的に俺が理滅以外の魔法を使えるように理を変えている。元々使える魔法は理滅だけだ」
その言葉に全員言葉を失う。そして、信じないと言わんばかりにポカーンとする。しかし、これは事実なのだ。事実は曲げることは出来な……ん。
「っ!?そうか、事実を曲げれば良いのか……」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
「なにか思いついたみたいだな」
「遅せぇよ。もう2分は経ったぜ」
アーサーとガウェインがそう言ってくる。真耶はその言葉を聞いて物理変化を使いすぐに剣を作り出した。
「一瞬で終わらせてやるよ。”理滅・現変領域”」
その瞬間、ムルネアの周りの空間に白い結界が張られた。真耶はそこに向かって全力で飛び入っていく。
「……不要。絨毯いらないじゃん」
モルドレッドの小さな呟きがその場にこだました。その場の誰もが呆れて何も言えなくなった。
当の本人は、中に入り剣を構えていた。一応魔法がなくても戦えるように、我流で剣術を編み出してはいる。真耶はムルネアに向かって剣を構えた。
ムルネアはすかさず魔法で壁を作る。
「”消えろ”」
真耶はその壁に向かってそう言った。すると、壁は消える。ムルネアはそれにどうようするが、すかさず壁を作った。しかし、それも消される。
そうこうしていると、真耶がムルネアの間合いに入った。
「終わりだ。”極真流・八岐大蛇”」
その瞬間、ムルネアの体の9つの部分に剣が突きつけられた。一応刃は落としておいたが、それでもかなりの痛みだろう。
ムルネアは真耶の攻撃を食らって気絶した。
「よし、オーブ回収成功っと」
「終わったか?」
アーサーがそんなことを言いながらジャンプしてきた。
「結局お前も飛んでこれるんかよ」
「はは……。確かにな。それより今の技はなんだ?」
「今の技は事実や現実を変える魔法だよ。元々俺が対極眼でやっていたことを領域を使ってやっただけだ。領域を使う分魔力の消費はそれだけだから少ない」
「恐怖。怖すぎね」
「いやさ、ずっと思ってたんだけど、なんで急にそんな口調になったの?なんか戻ったよね」
「戻ったんじゃないよ。戻したの」
モルドレッドはそう言って抱きついてくる。もう訳がわからん。まぁ、抱きつかれて悪い気はしないが……
「先進もうぜ」
「……そうだな」
真耶は少し残念そうな顔をしながら先へ進むことにした。
━━一方その頃、エルマは……
「ほら!彼がやろうとしてたことを言いなさい!出ないと重りを足すわよ!」
エルマは未だに三角木馬に乗せられながら鞭で体中を叩かれていた。既に囚われてから1時間近く経っているから股は痛みを超え熱を感じるし、体中真っ赤だ。それに、ヨダレも涙もずっと流れっぱなし。もう限界が近い。
「ほらほら!話さないと股が裂けるわよ!」
奏はそう言って鞭で叩き続ける。その顔は、どこか楽しそうだった。
「た……たふ……けて……」
「何?聞こえないわ!」
そう言って鞭を叩く。
「たふへて……まやはま……」
「っ!?今更助けなんか来るわけないでしょ!”ペインサンダー”」
奏は雷魔法を唱える。それは、通常の5倍痛みを伴う電撃を与える魔法だ。
「んんんんんん!!!!!んー!んー!んんんー!!!!!」
エルマの悲痛な叫び声が聞こえる。そして、エルマは白目を向き気絶してしまった。
「弱い子ね。まだまだお仕置してあげるわ」
奏はそう言って重りを3つ足した。
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