第165話 怨念の一振
その一撃は、空間さえも切り裂いた。そのせいで、空間に狭間ができる。その時に放たれた強大なエネルギーは逃げ場をなくしその狭間に吸い込まれて行った。
「クッ……!」
「どうなった……!?」
全員その吸い込まれる力に抗いながら前を見た。なんと、奏が立っている。しかも、切り裂いたはずなのに無傷で。
「っ!?なんで!?」
「おかしい。感触はあったはずなのに……」
「希望くんと同じ力だよ。希望くんは勇者の力を使い、1度致命傷を食らっても再生するんでしょ?それと同じよ」
奏はそう言って暗い目をして真耶の方向を見た。
「まぁ、あなたに勝てるとは思ってないわ。あんな力を見せられたら誰だって諦めるわよ。でも、ここじゃ力が出ないから力が出るところに行くわ」
奏はそう言って空間に扉を作った。その時、真耶は嫌な予感がした。そして、奏の考えていることが手に取るようにわかった。
「行かせるわけないだろ!”フレイムブレイズ”」
真耶はすぐに剣に魔法を使って炎を灯らせきりさこうとする。しかし、当たらない。避けられてしまう。
「もう遅いわ。それじゃあね」
奏はそう言って扉の中へと入っていった。
「……真耶……」
「……フフフ……フハハハハハハ!馬鹿め!そこに行けば俺の領域だ!」
「フッ、どうやらあの約束を果たすときが来たみたいだな」
「そうだな!皆、行こうぜ!」
真耶はそう言って扉を開いた。それは、アヴァロンに向かう扉だ。
「そうだ、真耶はいつから奏ちゃんが的だって知ってたの?」
唐突にモルドレッドが聞いてきた。
「俺の記憶が戻った時だ。変に怪しまれるより思い出してないように装えば怪しまれないと思っていた」
「ハハ……さすがね……」
モルドレッドは少し呆れたような声でそう言う。真耶はそれを見て少しだけ微笑んだ。
「よし!じゃあ行くぜ!」
真耶はそう言って扉の中へと入っていった。アーサー達もそれに続いて中へと入っていく。しかし、シュテルと希望は止まった。
「済まない」
「僕達はこっちの世界を守ることにするよ」
ヴィヴィアンに向かってそう言う。
「うん!わかったわ!真耶に伝えておく!」
ヴィヴィアンは予想以上の笑顔を見せながら親指を立てた。そして、扉の中へと入り閉じる。その場には静寂がもたらされた。
━━真耶達は扉を抜けアヴァロンへと向かった。扉の中は真っ白で周りを確認することが出来ない。唯一、扉の出口と思われる場所だけ黒く染まっている。
真耶達はそこを抜けた。すると、その先にはまるで中世ヨーロッパのような街並みが見える。
そして、その街の一番奥には王城、そこから少し手前に王教会、そこからだいぶ右に逸れて霊峰があった。
「懐かしいな。2000年ぶりくらいか……」
「懐かしんでいる暇は無い。早く行くぞ」
「そうだな」
真耶はそう言ってアヴァロンの街に降りると魔法でフードを作りそれを被ってコソコソと動き出した。
「ねぇ、なんで隠れる必要があるの?」
「バレればすぐに襲撃される。この街の人が全員敵の可能性もある。まずは、エルマと合流するぞ」
真耶はそう言って周りを確認すると裏路地へと入っていった。モルドレッド達も、周りに気をつけながら真耶について行く。
「エルマは何をしてるんだ?」
「エルマには俺が王になるように動いてもらっている。恐らくだが、あとはアーサー、お前が俺に王の座を譲るだけだ」
『っ!?』
真耶の言葉にその場のほとんどの人が言葉を失った。しかし、アーサーはあまり驚いていないようだ。
「なるほどな。アヴァロンの剣を使うのか?だがあれはお前の手には馴染まなかったはずだ」
「そうだな。だから、他の剣と合成する。アルテマヴァーグ、ゲーゲンタイル、アムールリーベ、リーゾニアスと合成する」
「っ!?」
「っ!?そんなことできるの!?」
ヴィヴィアンが聞いてきた。
「出来るさ。そのための理滅だ。制限があったら全て消す」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。そして、世界眼を発動する。
「まずはそのためにエルマと合流する必要がある」
そう言いながら街を見ていく。すると、臣下の1人を発見した。
「見つけた。だが妙だな。エルマがいない」
「何かあったのかも」
「そうかもな。まぁ行ってみよう」
そう言って真耶達は臣下がいる場所まで歩き始めた。臣下がいる場所までは5分もかからなかった。その場所まで行くと、臣下は路地裏の方に案内してくる。真耶はそれについて行き話をしようとしたのだが……
「申し訳ありません!私の不甲斐なさが招いたことでございます!」
突然臣下は頭を下げ謝ってきた。
「私がお守りしていれば……!」
「待て、話をちゃんとしろ。何があった?」
「……エルマ様が、真耶様と一緒に居られた少女にさらわれました」
「っ!?」
真耶はその言葉を聞いて少しだけ殺気が漏れる。
「も、申し訳ありません!あの場にはラウンズの皆様が居られ、そちらを優先してしまいました!」
「いや、良い。どうせエルマの事だ。私よりラウンズのヤツらを優先しろ的なことを言うはずだからな。それじゃあラウンズはどうなった?」
「一応一命は取り留めましたが……」
「全滅か……。やはり、対抗するにはアヴァロンの剣が必要か」
「でも、その希望はもう叶わない」
「そうだな。まぁ、場所によるんだけどな」
真耶は魔法で目薬を取り出すと左目に1滴垂らしながら言った。
「どういうことだ?」
「奏の領域内にいるのであれば助けられない。だが、少しでもその領域から出ておけば救出可能だ」
「なるほどね。それで今から世界眼を使うの?」
「あぁ。だが、今気がついたんだがな、このワールドアイは弱点が多い。それに、使いすぎると目が見えなくなるらしい。今でも霞んで見える」
「え!?じゃあなんで前は代償無く使えたの?」
「気づいてなかっただけだ。未完成だったってのもあるだろう」
真耶はそう言って目を見開いた。その目には白く光る円が浮かんでいる。真耶はその目でアヴァロンを見下ろした。やはり、そう簡単には見つかりそうもない。
「ダメだな。多分奏の近くだ」
「そうか……」
「なんで分かるの?」
「どこにもおらん。そして、奏のいるであろう場所だけ真っ黒で何も見えん。妨害されている」
真耶はそう言って目を元に戻した。そして、城のある方向を向く。
「どうするかな……」
と、その時突如上空に何かが映し出された。
『っ!?』
なんと、映し出されたのは奏だった。
「はいはーい。皆さんに朗報でーす。今ここにエルマを捕らえていまーす」
そう言って映し出されたのは、両足にかなり重たいであろう重しを付けられ、裸で三角木馬の上に乗せられているエルマだった。
両手は後ろ手に拘束され、口にはボールが着いた猿轡をつけられている。要するに、拷問されているのだ。
エルマはヨダレを垂らし、涙を流しながらこっちを見てきた。あの目は助けを求める目だ。
「っ!?」
「じゃあ、早く助けに来てね。出ないとこの子殺しちゃうよ。待ってるからね、まーくん」
そう言われた瞬間自然と真耶の手が動いていた。勝手に剣を握り勝手に振っていた。
「”呪念斬”」
真耶の放った斬撃は映し出された奏の右腕を切り裂く。
「そんなとこにいたんだ。早く来ないと……っ!?」
なんと、本物の奏の右腕も切られたのだ。そのことに対し奏は動揺する。
「待ってろ。すぐにお前を殺してやるよ」
真耶はそう言って姿を消した。
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