第161話 苦悩
ケイオスは、静かな部屋で1人椅子に座っていた。
「……」
足を組み、顎に手を添え俯いているその格好を見れば、考え事をする人に見えるのだろう。だが、その通りなのである。
ケイオスは椅子に座り考え事をしていた。
「……奏……」
小さく呟く。しかし、その声が奏に届くことは無い。
「真耶……じゃなくてケイオス。疑問。これからどうする?」
「ん?モルドレッドか……悪いな。今はちょっと……っ!?」
なんと、突如モルドレッドがキスをしてきた。モルドレッドの柔らかい唇がケイオスの唇に当てられる。
「美味しい。ありがとう」
そう言ってモルドレッドがどこかに行こうとする。しかし、ケイオスは無意識にその手を掴んでいた。
「ん?何?どうしたの?」
「……なぁ、俺の事どう思う?俺は、俺が俺じゃない気がするんだが……っ!?」
そう言うと、再び奏がキスをしてきた。今度はゆっくり舌を入れて。
「ん♡……ん♡……ぷはぁ」
モルドレッドは少し頬を赤らめてゆっくりケイオスに抱きついてくる。そして、胸に顔を埋めながら言った。
「私は今の真耶……じゃなくてケイオスもいいと思う。でも、1度真耶を知ってしまったから、私は真耶が良い。あの優しくてかっこよくて強い真耶が良い。でも、どうするかはケイオスが決めること」
モルドレッドはそう言ってケイオスの膝の上から降りた。そして、1度ケイオスを指さして頬……ではなくみぞおちを突いた。しかし、ケイオスは微動だにしない。
「普通の人ならここが聞かないことは無い。でも、ケイオスには効かない。だから、人間離れしている」
そう言ってもう一度ケイオスの膝の上に飛び乗った。そして、おんぶをしてもらっているような形で抱きついてケイオスに言う。
「でも、あなたは人間。たとえその心が壊れてても、自分が自分じゃないと思ってしまっても、ケイオスはケイオス。そして、真耶は真耶。だから、あなたは人間でケイオスなの。この意味わかる?」
「……すまん。分からん」
ケイオスは申し訳なさそうに言う。モルドレッドはそれを見て少し目を細めると、またまたキスをしてきた。
「っ!?」
さすがにここまでされるとケイオスも動揺して動けない。
「ん♡……ぷはぁ♡。これからあなたが気に入らない回答をする度にキスするから」
モルドレッドはそう言ってケイオスの頬をつねる。
「それで、わかった?」
「……何となくわかったよ。俺は俺だしな。でもさ、時々考えるんだよ。俺は真耶なのか、それともケイオスなのか?てさ。それに、ケイオスってことを認めてからさ、自分の子をコントロール出来ない時があるんだよ。だから、俺は本当に俺なのか?敵意を向けられると自然と殺そうとしてしまう。その時は、俺は本当にケイオスなのか?何か違う人が乗り移ってるんじゃないかって考えるんだよ。それに、なぜだか俺の体から自分とは違う魔力を感じる時がある……っ!?」
またキスしてきた。普段のケイオスなら何も感じないはずなのに何故か恥ずかしいという気持ちが込み上げてくる。それに、モルドレッドの唇が美味しくて頭がとろけそうな気分だ。
「……ぷはぁ♡。どう?頭がとろけそうだって思ったでしょ?これでわかったでしょ。あなたは人間なの。他の人と同じ感情を持っているの。ただ、その感情を自分で封印してしまっているの。だから、はふのケイオスは感情を上手く表せない人なの。それに、ケイオスは自分がコントロール出来ないんじゃなくてしてないの。最初から諦めて力任せになってる。なんでやる前から諦めてるの?」
モルドレッドはそう言ってケイオスの目を見つめた。その真っ直ぐな眼差しがケイオスの目に直接飛んでくる。
「あなたは力がある。だったらなぜその力を使わないの?最強なんでしょ?」
「……おい待て、俺は最強とか言ったことが……っ!?」
モルドレッドは再びキスをしてきた。さすがに何回もしたせいか、ほんのりモルドレッドの頬が紅い。
「ぷはぁ♡。ねぇ、ちゃんと答えてよ」
「……お前も恥ずかしいのか?顔が紅い……っ!?危ねぇ!」
今度はシンプルに後ろに転けそうになった。と言うよりモルドレッドが急に倒そうとしてきたから後ろに転けそうになったのだ。
「危ないだろ。……てか、椅子の背もたれ折れただろ。”物理変化”」
ケイオスは久しぶりにこの技を使った。すると、何故か悲しさが込み上げてくる。
「……なぁ、今更だけどさ、俺って真耶になれると思うか?ケイオスじゃなくて真耶に」
「なれるよ。だって、あなたはケイオスであり真耶だから。確かにあなたは真耶の記憶をもらってなりすましていただけかもしれない。でも、あなたは真耶として生きた時間は本物だよ。あれは嘘じゃない。だから、あなたは真耶になっても大丈夫なんだよ」
モルドレッドはそう言ってもう一度真っ直ぐな目でケイオスを見つめた。
「っ!?……フフフ、そうだな。俺は月城真耶でありケイオス・レヴ・マルディアスでもある」
「そう。だから、これからもよろしくね。真耶」
「あぁ。よろしくな。モルドレッド」
2人はそう言ってもう一度、熱いキスをした。
この日、世界に2人の最強の男が生まれた。1人は、感情を失い人間とは思えない、人を殺す時も何も思わない、冷酷で暗い男。
そして、もう1人は、感情は無いかもしれない。人間離れしているかもしれない。冷酷で暗いかもしれない。でも、その事に悩み少しだけ感情を取り戻した、仲間のことだけを思い、世界を壊そうとする男。
「じゃあ早速、皆を集めてくれ」
真耶はそう言ってモルドレッドを膝の上から下ろすと静かに立ち上がった。
読んでいただきありがとうございます。