第160話 ケイオスの脅威
「……」
奏達は、その男を見つめる。しかし、声が出ない。突然のことすぎて言葉を失ってしまったからだ。
「よぉ、久しぶりだな。奏」
「っ!?何しに来たの!?ケイオス!」
そう、向かってきたのはケイオスだった。
「何しにって、ちょっと忠告をしにな」
「忠告……?」
「そう忠告。お前ら、聖教会を取り戻そうなんて考えてるだろ。やめておけ。お前らじゃアーサーには勝てない」
ケイオスはそう言いながら窓を壊し奏達の前に降りてくる。奏はそれを見てすぐに構える。
「そう構えるな。俺は争いに来たわけじゃない」
「信じられないわ」
奏がそう言った途端、突如ケイオスに向かって矢が飛んできた。しかし、その矢はケイオスに当たることは無い。なぜか、空中で止まってしまった。
「っ!?」
「……俺と戦うつもりか?言ったよな。俺は、俺に敵意を向ける者に対しては容赦はしない。これは最後のチャンスだ。手を引け」
ケイオスは少し目を細くし、声を低くして言った。
その言葉から放たれる圧力にその場の誰もが動けなくなる。
「け、ケイオス……!あなたの言うとおりなんかしないわ!必ず私があなたを殺す!」
「やめておけ。お前では俺に勝てない。だから、さっきから俺に対して魔法を放とうとしている玲奈の努力も無駄に終わる」
「っ!?なんで……!?」
「はぁ……、俺を舐めるなよ。魔力の波が揺らげばすぐに分かる。お前らに本当の魔法を見せてやるよ」
ケイオスはそう言って指をパチンッと鳴らした。その瞬間空間が歪む。そして、その空間が真っ赤に染った。
奏達は手も足も動かすことは出来ない。視界は真っ赤に染まりぐにゃぐにゃに歪む。その瞬間、冒険者の中の1人が悲痛な叫び声をあげた。
「ぎゃあああああああああ!」
その1人が叫び声をあげると、続々と他のみんなも叫び声を上げていく。
「いやあああああああああああ!」
「やめてえええええええ!」
冒険者達が続々と倒れていく。それを見ながらケイオスは言った。
「まだ終わらない。これで最後と思うなよ。”理滅・天変地異”」
ケイオスがそう唱えた瞬間地面が揺れ始めた。地震だ。その地震は瞬く間に強くなっていき、建物を壊してしまう。
そんな時、街の方で竜巻が発生した。ちなみに、今奏達がいるのは部屋の中のはずだ。だが、さっきの地震で天井は壊れてしまった。そのせいで空が見える。いや、正確に言うなら空は見えない。なぜなら、隕石が降ってきているからだ。
「……そんな……」
「これって……」
「神の……力……」
その場の冒険者達は皆絶望した。なんと、隕石が降ってきているのだ。その隕石はかなり大きく、街1つ壊すには簡単すぎるくらいだ。
奏達はその時確信した。この技を喰らえば死ぬと。そして、ケイオスは本気で奏達を殺しに来ていると。
その時、奏は自然と杖を収納魔法の中から取りだし構えていた。この杖は、奏専用神器、クノストスの杖だ。通常の魔法の威力を数十倍に上げ、魔力消費量を抑える優れもの。
「ケイオス!あなたは私が殺す!”インフェルノノイズ”」
奏がそう唱えると、小さな火の粉のようなものが飛び散り始めた。その火の粉は瞬く間に数を増やしていき、当たりを埋め尽くす。
「ケイオス、これであなたは動けないわ。火の粉であなたを捕まえたからね。触れれば最後よ。連鎖的に爆発するわ」
奏はそう言って結界を張る。奏はそれで勝利を確信した。奏はケイオスを火の粉で覆い、檻のようにケイオスを閉じ込めた。
かなり魔力を込めたから、さすがに下手に触れることは無いはず。
「……フッ」
ケイオスはそんな奏の様子を見ながら笑った。その刹那、ケイオスは火の粉に触れた。
奏はそれを見てすぐに構える。火の粉に触れたということは、その後大爆発するということだから。
奏は結界に込める魔力を多くした。そして、結界を強くする。しかし、その結界が役に立つことは無かった。
なんと、爆発しないのだ。火の粉はケイオスの手を避けるかのように離れていく。
「なんで!?」
「考えたな。確かに範囲攻撃なら必中だ。だが、火の粉に魔力を込めたのは失敗だったな。魔力の波を使えば吹き飛ばすことが出来る。そして、間に魔力の波を挟ませておけばぶつかることも無い」
ケイオスはそんなことを言って火の粉を全て吹き飛ばした。
「クッ……!」
奏は苦し紛れに呻く。
どうやらこのケイオスという男は奏達に対しても容赦は無いらしい。真耶なら確実に諦める。奏達のことを思ってやめてくれる。ただし、それは真耶なら。
「……勘違いするな。俺は真耶じゃない。だから、敵意を向けてきた者が誰であろうと容赦はしない」
ケイオスはそう言って殺気を強めた。気がつけば、隕石はもう自分たちのほぼ真上と言っていい高さまで落ちてきている。
見た感じ、あと3m程度しか間は無い。
「っ!?……ダメ……まーくん……助けて……」
無意識に奏はそう呟いた。しかし、真耶はもうこの世界にいない。いや、正確に言えばいるのだが、それは真耶ではなくケイオスだ。だから、どんなに呼びかけても真耶が助けてくれることは無い。
「死ぬ……!」
奏は泣きながら目を瞑った。
ケイオスはそれを見て何故か手を止めた。あとこの手を下ろすだけなのに、何故か止めた。だが、ケイオスは手を止める気は無い。それにもかかわらず、手を止めた。その時ケイオスは自分でも驚く程に強い力で手を止められている。そんな気がした。
だが、その答えはすぐにわかった。
『ダメ!マヤ!それをやったら後悔するよ!』
そんな声が聞こえる。見れば、目の前に女性がいた。クロエだ。クロエはケイオスの腕を掴みそう言ってくる。
「止めるな。なぜ俺が後悔すると言うんだ?敵意を向けるものは敵。その敵を殺すのに、なんで後悔すると言うんだ?」
ケイオスはくらい口調で淡々と述べる。しかし、それに対しクロエが言った。
『本当は分かってるんでしょ?だって、泣いてるもん。それに、今は自分で手を止めている。本当は殺したくないんでしょ?あなたがケイオスでもマヤでも、カナデちゃん達は殺したくないんでしょ?』
「っ!?」
ケイオスはそれを聞いて完全に手を止めた。いや、自分を抑えているような感じだ。そのせいか、手はかなり震えている。
『ねぇ、ちゃんと覚えてるでしょ?カナデちゃん達との楽しい時間を。あれは嘘じゃない。本当の時間だったんだよ。良いの?今あなたはそれを壊そうとしてるのよ』
クロエはケイオスを諭すように言ってくる。ケイオスはその言葉を聞くと自然と涙が出てきた。
「……そうだな……。ありがとうクロエ……」
ケイオスは小さな声でそう言う。そして、1度垂れてきた涙を拭うと震える手を上にあげた。そして、指目をパチンッと鳴らす。
その瞬間、奏達の頭上にあった隕石は光の粒子となって散っていった。街にあった竜巻も光の粒子となって散っていく。そして、その粒子は街に降り注ぎ、壊れた街を修復したのだった。
倒れた冒険者達も、その光で回復したようで、すぐに起き上がった。
「っ!?なんで……!?」
「奏、今日は悪かったな。ただ、忠告はした。この後どうするかはお前次第だ」
ケイオスはそう言って振り返ると、指先から光を放ち、空中に円を書く。その刹那、円は空間を繋ぐ扉となった。
「……じゃあな」
ケイオスはそう言ってその扉の中へと入って行き消えた。そして、再びその場に静寂が訪れた。
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