第159話 連合国結成
奏達は誰もいなくなった場所で静かに立ち尽くしていた。
「……」
「……」
その場の空気を壊すものなどいない。皆、何を言っていいかも分からず黙り込むだけしか出来なかった。
そして、少しだけ時間が経つと奏が口を開いた。
「……私達はとんでもない人を生み出してしまったのかもしれないわ」
そんな言葉にシュテルは少しだけ考え、
「……そうだな」
と、答える。
「……これからどうするの?」
ルーナが聞いてきた。だが、そんなことはこの場の誰もが知っている。今の月城真耶……いや、ケイオス・レヴ・マルディアスはこの世界の敵の可能性が高い。
それに、もしケイオスが敵となった場合誰もケイオスに勝てない。1秒でも前に立って居られれば御の字だ。
そのためには対策を打つ必要がある。
「……シュテル、あなたは今すぐ人を集めて。希望、あなたは今すぐクラスメイトを全員集めて。今からケイオス・レヴ・マルディアスを殺すための会議を開くわ」
その言葉に驚く者はいなかった。そして、シュテルと希望は低い声で言った。
「……了解した」
「……わかった」
その言葉は空に瞬く間に消えていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……一方その頃真耶は……
1人、暗闇の中を歩いていた。ここは、先程までいた時の里とはかなり離れた暗闇の森。真耶はそこに1人でさまよっていた。
「……」
理由はただ1つ。この森のある場所が、おそらくこれから奏達が行き、行動を起こすと思われる場所から1番離れているからだ。
「……フフフ……」
真耶は1人で笑った。
「全て失ったか……。だが、俺はもう何もいらない。地位も名誉も、モブを辞めることさえしなくてもいい。ただ、俺は友を取り戻すだけだ。そして、奏達にもう1度……いや、これは欲張りすぎだな」
そう呟いて森の奥へと入っていく。その後ろ姿はまるで、死神のようだった。
━━……それから1ヶ月が経った。月城真耶という人物が世界の敵だと広めた奏達はすぐに連合軍を作り上げた。
その動きは早く、全世界に知れ渡り、全世界からその連合軍に入りたいと言う人が出てきた。
当然だが、そうなればアーサーは黙ってはいない。何度かラウンズを送り込んできたが、冒険者達や、チート持ちのクラスメイト達が反撃をし、追い返した。
すると、何日かしたところでラウンズは来なくなった。それと同時にモルドレッドとヴィヴィアンの姿も消えたが、おそらくケイオスの元へと行ったのだろう。
そして、その間の時間は、どの勢力も動きがないまま過ぎていったのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……そして、奏達は……
「では、これより聖教会奪還作戦の概要を話します」
奏がそう言って話を始めた。ここは、大聖魔道連合国。元々シュテルの国だったが、他の国が併合したことにより新しく作ったのだ。たった1ヶ月でこの国の規模はかなり大きくなり、今や世界の中心と言っても過言は無い。
そんな大国家で開かれている会議というのは、元々玲奈が所属し、アーサーを召喚してしまったガルマ王国の聖教会を奪還するというものだった。
今は、その作戦会議中……。冒険者達は、テーブルを囲むように立ち、話し合っている。そして、テーブルの上には地図やなにか文字が書かれた紙など色々置かれている。
「……これで全部の案が出ました。どれもいい案なのですが、決定打に欠けますね」
「そうだな。今の最高戦力はカナデ、君だ」
「だが、その奏の攻撃はケイオスに通じない」
「いえ、通じるには通じます。ただ、基礎体力や魔力耐性、全属性耐性に超回復などの多くのスキルがあるせいで、小さなホコリがかすった程度の傷にしかなって無いだけです」
ルーナがそう言った。しかし、クロバがすぐに言う。
「でも、ケイオスはある程度の攻撃は無効じゃなかったっけ?」
その言葉にその場の冒険者達は言葉を失った。
「本当なの?誰か証明出来る人はいる?」
「俺だ」
そう言って後ろの方で1人手を挙げた。その人は、クラスメイトの暗雲霞だ。彼の職業は暗殺者で、暗雲霧音の兄にあたる人物だ。
霞は奏の問いかけに答え、話を始めた。
「俺は1度ケイオスに会いに行った。まぁ、それもお前らが出した命令なんだけどな。それで俺はあの男の調査をしに行った」
「それで、どうだったの?まだ私達はその結果を聞いてないけど……」
「……フッ、あれは化け物だよ。俺らは一応プロの暗殺者だ。誰かに気取られずに動くことなんか容易にできる。俺は霧音と一緒だったからかもしれんが、直ぐにバレたよ。いや、もうすぐとかそう言う次元ではなかった。やつは俺が来ることを知っていたかのように俺が来る方を向いて椅子を作り座って待っていたのだ。気配も消して、姿も見えなくしていたはずなのに何故かやつと目が合う。どこに動いても隙がない。そうこうしていると、いつの間にか霧音が人質に取られてしまった。それでわかったよ。ケイオスという男は正真正銘の化け物だって。まぁ、その時は何事もなく返してくれたけどな」
霞の話を聞いてその場の全員は言葉を失った。
「……まぁ、まーくんだった時も半径1km以内に侵入した人は感知してたしね」
「でも、真耶くんのあれって1km以内に侵入した悪意のあるものを直感で感知してたんだよね」
「だとしたら、マヤ様の感知能力は精度が桁外れに良くなってます」
そんな会話をする。だが、これまで話してきた中で言えることは、ケイオスが化け物だということ。勝つ方法は無いこと。そして、まだ敵なのか味方なのかも区別がつかない事だ。
奏達からすれば、敵対するのなら敵とみなすだけだが、ケイオスからはどうなのか分からない。一応、殺意を向けられれば殺すとは言っていたが、ケイオスが奏達を殺すとは考えにくい。
「もし、ケイオスが私達に敵対するのであれば、私達を先頭にして戦います。異論は?」
その問いかけに全員首を横に振る。これで大体のことは決まった。あとは、こちらから行動を起こすだけ。
「……あ!そういえばだけどさ、なんであんなにケイオスについて知ってたの?」
突如玲奈が聞いてきた。
「私ですか?」
ルーナが聞く。すると、玲奈は首を縦に降った。
「私なら簡単ですよ。博識に聞きました。まぁ、途中でケイオスに邪魔されて博識がズタボロにされてそれ以上聞けなくなったんですけどね」
そう言って少し暗い顔をする。まさか、博識さえも潰してしまう。飛んだ怪物が現れたものだ。
「……では、これにて解散!」
奏がそう言うと、冒険者達はぞろぞろと部屋から出ていく。その顔は、いつ戦争が起こっても良いといった表情だ。奏達はそんな中その部屋に残って話をする。、
「皆には悪いけど、ケイオスを殺すためよ。協力してもらうわ」
「あぁ。了解した……っ!?」
その時、どこかで地震が起こった。その自身はかなり強い。急いで窓の外を見ると、なんと遠くに城が出来ていた。
「あれは……!?」
皆はその城を見て言葉を失う。いや、正確に言うなら城のある方向だ。その方向から何かがものすごい速さで向かってくる。
「っ!?君は……!?」
その向かってきた男に対し奏達は思わず言葉を失ってしまった。
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