第158話 決別
「ケイオス様……っ!?申し訳ありません!考えが至らず……!」
「いや、良い。ただ、少し考え事をしていただけだ。なぁ、アーサーの剣ってどこに行った?」
「”希望皇剣エンペラドール”のことですか?」
その問いに真耶は頷く。
「それなら、王が今お使いに……」
「いや、あれは別の剣だ。俺も見た事がない。神眼で見たが、”絶望真剣エンドワール”と言うらしい。あれはアーサーが使っていたものとは全くの別物だ」
その言葉を聞いて、真耶の臣下は全員目を丸くした。そして、言葉を失う。
真耶はそんな臣下を見ながらさらに言った。
「……なぁ、俺の剣持ってるだろ」
「っ!?なぜお分かりに!?」
「お前らからリーゾニアスの気を感じる」
真耶は少し怒りのオーラを混じえながら言った。その言葉でその場の空気はとんでもなく重たくなる。
そして、臣下達はその空気に耐え、汗をダラダラと垂らしながら真耶の顔を見た。
「なぜ持ってる?」
「も、申し訳ありません!いざと言う時のために宝物庫から取っておりました!」
「そうか。それならそうと言え。俺は人の心を読めるが、基本は読まない。言ったよな?報連相をきちんとしろと」
「も、申し訳ありません!罰はなんなりと受けます!」
「いや、今はそれどころでは無い。アーサーが何者かに操られている、もしくは何かしらの精神攻撃で違う人格となっているとわかった以上、その対策を打たなければならない。何故かわかるか?」
真耶は普段の真耶からは感じられないような恐怖心を掻き立てる気を放ちながら、少しだけ低い声でそう聞いた。そのせいで、再びその場は重苦しい雰囲気に包まれる。それはまるで、先生に怒られる生徒のようだ。
そんな中、真耶の臣下が1人口を開いた。
「王が敵だという可能性があるから……です」
「そうだ。よく出来たな。お礼に頭をなでなでしてやろう」
そんなことを言って頭を撫でる。しかも、今の真耶からは想像も出来ないほど優しく、気持ちよさそうに。
当然頭を撫でられている臣下は気持ちよさそうな顔をして顔を赤面する。
「わかったか?今のアーサーは俺達の敵である可能性が高い。そして、そのアーサーに何かしらの魔法をかけたものもいるわけだ。当然だが、あのアーサーにそんなことが出来るということは、それほどまでに強い。さらに言うなら、当然アーサーに魔法をかけるためには近くにいる必要がある。それも、長い時間な」
「っ!?まさか……ケイオス様……」
「そのまさかだよ。……そう、今のラウンズには裏切り者がいる」
『っ!?』
真耶の言葉に臣下だけでなく、後ろにいた奏達も目を丸くした。
真耶はそんな臣下や、奏達を一瞥すると少しだけ殺気を弱めて言った。
「お前達はアヴァロンに帰りエルマの補助をしろ。俺は当初の予定通りペンドラゴンで原因を探す。それと、剣を渡せ」
「ハッ!ケイオス様の御心のままに!……これを……」
臣下はそう言って剣を差し出してきた。真耶はその剣を受け取る。
見た感じ壊れているところは無い。宝物庫に封印した時と変わりがない。だが、魔力が抜けている。
「リーゾニアスですが……魔力が抜けており……その……魔力を永久的に循環させる”無限回路”がなくなってしまったのですが……」
「だろうな。無限回路を取ったのは俺だ。悪用されては困るからな。ぶっ壊した」
「っ!?」
真耶の言葉に臣下は驚き言葉を失う。そして、目を見開き真耶の顔を見た。
「そう驚くな。あれは作るのが簡単だ。”無限石・魔閃石・凍霊石・そして、太極石。この4つの石を合わせれば作ることは出来る」
真耶は平然と言った。しかし、その場の誰もが思っただろう。それは不可能だと。
なぜなら、それらの素材はこの世界にはないから。もしあったとしても、誰も持っていない。
「本当に不可能だと思うか?」
「え?それはどういう……」
「”理滅・物理変化”」
真耶がそう唱えると、手のひらに4つの石が出来た。その石はまるでこの世のものとは思えないほどに魅力的で、恐ろしかった。
「な、出来ただろ。”物理変化”」
最後に真耶はもう一度魔法を使い手のひらを見た。さっきまでただの石ころだった物が、とんでもない強大な力を持つ石となる。
真耶はその石を手に取ると、リーゾニアスを見つめた。そして、まるでその石を入れることを想定していたかのようなくぼみに石を埋め込む。すると、その石はとんでもない力を放ち出した。
真耶はその石の力を押さえ込もうと少しだけ剣に魔力を流し込む。すると、その剣は石から溢れ出る力を全て吸収した。そして、光り輝き力を取り戻していく。
「見ろ。これが理滅王剣リーゾニアスだ」
真耶はそう言って剣を奏達に見せつける。
普段の奏達ならすごいと思うのかもしないが、今の奏達は真耶に対して恐怖心を抱いている。そのせいで、冷静な判断が出来ない。だから、つい思ってもないことを真耶に言ってしまった。
「怖いよ!まーくんは一体何なの!?敵なの!?味方なの!?もう全然まーくんを信じられない!まるで、アルテマヴァーグを作った時のまーくんみたいだよ!」
そう言って怒鳴り声をあげる。真耶はそれを聞いて言葉を失ってしまった。そして、ほかのみんなに目をやる。皆同じ目をしている。どうやら全員俺の事を怪しんでいるようだ。
「……そうか……お前らは俺の事をそう思ってたのか……」
もしかしたら、月城真耶だったら悲しいのかもしれない。だが、今の真耶は真耶では無い。ケイオスだ。だから、悲しいという感情は全く、これっぽっちも芽生えなかった。
「あぁそうか……今わかったよ。なんでもう1人の真耶が介入しなかった世界ではお前達が殺されたのか……。お前達が死ぬことより辛いことってのがあるんだな」
真耶はそう言って、辛そうな顔を見せた。奏達はその顔を見て言葉を失う。
言っちゃいけないことを言ってしまった。言いすぎてしまった。悪いことを言った。そんな考えがみんなの頭の中に浮かんでくる。
しかし、それに気づいた時はもう遅い。真耶は振り返り臣下に指示を出していた。
「まぁ、お前達がやることは1つ減ったな。とりあえずアヴァロンに帰りエルマの補助をしろ。そして、アーサーがあんなことになった理由を探してくれ」
真耶はそう言い剣の鞘を作り鞘に収めた。そして、振り返り奏達を一瞥すると前に歩き出した。
「どこに行くんだ?」
「おい!マヤ!お前、彼女たちに説明しないのか!?」
シュテルと希望がそう怒鳴ってくる。
「説明はした。その後を考えるのはお前達次第だ」
「だとしても……」
「もう、終わりなんだよ。俺はこれまでずっとそういう生活をしてきたから分かるけど、お前達の目は俺に対する恐怖と畏怖、怒り……それらの負の感情しかない。俺は、俺に対して殺意を向けるやつや敵対するやつは容赦なく殺す。俺はお前らを殺したくない。だったら、もう離れた方が良いだろ?」
「っ!?そんな話を……」
「もう良いよ。”理滅・歪曲・転移”」
真耶はそう言って魔法を唱えた。その瞬間、真耶の体が歪み、吸い込まれていく。
「待って……!」
奏は慌てて止めた。しかし、その言葉も虚しく真耶は虚空の中に消えて行った。
そして、真耶の臣下は1度お辞儀をすると扉を開く。そして、その中に消えていった。
その場には、静寂しか残らなかった。
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