第157話 回想2
「……なぁ、1ついいか?」
アーサーは魔法陣を描く真耶に少し暗い顔をしながら質問する。
「ん?なんだ?」
「なんでお前は王にならなかった?王になるのにふさわしいのは我ではないお前だ。だが、お前は王にならなかった。それは何故だ?」
アーサーはどこか神妙な趣をして聞いてきた。真耶はその問いに対し、少し考えた後魔法陣を描く手を止め言った。
「なぁ、アーサー……ふさわしいと言うのは、どういう意味でふさわしいんだ?」
「っ!?そんなの決まっている!君の方が強いし、頭がいい!冷静な判断も出来る!だが、我は君より弱いし頭も悪い!すぐに感情的になる!ケイオス!お前の方が優れているんだ!だから我はお前の方が王にふさわしいと言ったんだ!」
そう言ってアーサーは怒鳴り声を上げた。真耶はその言葉を聞き、1度目を閉じて開くと自分の手のひらを見つめながら言った。
「俺の手はもう汚れている。お前も俺の異名を知ってるだろ」
「最恐の処刑人……」
「そうだ。だが、お前の異名は希望の王だ。俺はお前の希望という光の影で生きるのが好きなんだ」
「だとしても……!」
「じゃあもう1つ聞く。なぜ俺が王にならなかったと思う?」
その問いにアーサーは答えることが出来なかった。なぜ真耶が王にならなかったのか、それはアーサーがずっと悩んでいた事だから。
「……俺が王にならなかったのは、俺の手が血で汚れきっているからだ。さっきのラウンズテーブルも、お前は戦争をすると言った。だが、お前は戦争をするとは言ったが殺すとは言っていない。だが、俺は処刑すると言った。この違いが分かるか?」
アーサーはその問いに答えられない。
「お前は優しい。その優しさが今のアヴァロンには必要なんだ。だが、俺は優しくない。子供の頃から人を殺してきたせいで、感情はもうなくなってしまった。お前は俺が冷静だと言ったな。冷静な判断ができると。だが、俺は冷静なのでは無い。常に効率を求めているだけだ。そのためには人を殺すこともやむなしと考えている」
「っ!?」
「俺はな……もう冷静な判断が出来なくなってきているんだ。人を殺し続けたせいで人を殺すことについて何も思わなくなった。だが、お前は違う。今回のラウンズテーブルも、前回も、そのまた前回も、お前は人を殺すとは言わなかった。聖戦が起きた時も、人を殺すとは言わなかった。俺にはお前の優しは持ってないんだ。だから王にならなかった」
真耶はそう言って小さく微笑んだ。アーサーはその話を聞いて言葉を失う。
「強さだけが全てでは無い。優しさも必要なんだ。多分、これ以上俺がこのアヴァロンでラウンズを続けていれば、俺は確実にただの殺人マシーンと化してしまう」
真耶はそう言って魔法陣をもう一度描き始めた。途中まで作っていたからか、もう半分以上完成している。
アーサーはそこまで言われてはさすがに止められないと思ったのか、真耶を止めるのを止めた。そして、少し悲しい目をして真耶を見つめる。
「どこに行くつもりだ?」
「前から行きたいと思っていた。地球という場所らしい」
「そうか……。代償は?」
「ハハハ……覚えてたのか?俺の言葉を?」
「当たり前だ。俺はお前に初めてそのことを教えて貰って力について考えるようにしたんだからな」
「そうか。《《大きな力には大きな代償が伴う》》。これは俺がずっと大切にしている言葉だ。ハハッ!まさかお前からその言葉が出るとはな。……この技の代償は基本的に無いよ。ただ、魔力を大量に使うってだけだ。だから安心しろ」
アーサーはそれを聞いてほっとしたのか安堵の息を漏らす。
「そうだ、最後に俺からお前に1つ教えてやるよ」
「今か?我に言える立場が?我は王だぞ」
「フッ、様になってるな。だが、俺はお前より1万年以上長く生きている。年上の話は聞くものだ」
「そうだな」
「……フッ……。その優しさを忘れるなよ。この世界は力が全てじゃない。大事なのは、相手を思いやる優しい気持ちだ。自分を見失うな。そして、自分が王だということを忘れるな。じゃあな」
真耶はそう言って魔法陣を完成させ、時空間の扉を開いた。
「この魔法は俺の固有。”理滅・転世界・極覇”」
真耶画像唱えた瞬間、時空間の扉の奥に巨大な魔法陣が現れた。その魔法陣は、1人で発動するには巨大すぎる。
真耶はそれほどまでに強大な魔法を使用したのだ。アーサーはそれを見て改めて真耶を尊敬する。
「……また、会えることを願うよ」
そして、遂に真耶はその扉の向こうへ行ってしまった。アーサーに一言だけ残して向こうの世界へ行ってしまった。
「……」
アーサーはその場で黙り込む。
「また会おうな。ケイオス……いや、師匠……」
その言葉は、誰もいなくなった虚空の中に飲み込まれるように消えていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……そして、奏達の意識が現実に戻された。現実に戻り前を向くと、悲しい顔をして涙を流す真耶がいた。
「それから俺は世界中を回った。初めはユーラシア大陸。……いや、まだ大陸が別れていなかった時代に。そして、大陸が別れ、日本では弥生時代に。それから何年、何十年、何百年、何千年と時が過ぎていった」
真耶はそう言って振り返ると前に進み始める。そして、話を続けた。
「色んな国を回って色んなことを学んだよ。世界中の人と話してその国の常識も知った。そんなある日、事件は起きた。2012年、俺がたまたま日本にいた時、ある店で銃声が聞こえた。俺は世界中を回ってきて、何度も事件に巻き込まれたからその銃声が本物だってすぐにわかったよ。俺は直ぐにその場に向かった。気配は消してね。すると、そこにはある男の子がいた。それも、俺と全く同じ容姿をした男の子が」
「っ!?それって……」
「もしかして……まーくん?」
「そうだ。それは、月城真耶だった。俺は、その子を見て何かしらのシンパシーを感じた。だから、いつか話す機会を伺ってずっと監視してたんだ。すると、その事件が起きてから1週間後、真耶が家の屋根の上で立っているのを見つけた。その時すぐにわかったよ。真耶は自殺をするつもりなんだって。だから、俺は初めてその日真耶の前に姿を見せた。そして、言った。ここで死ぬなら、お前の記憶も何もかもを全て持ったまま俺が変わりに月城真耶として生きてやると。真耶はその提案を快く受け入れてくれたよ。そして、俺はその日ある魔法を使い月城真耶となった。それも、俺自身の記憶という代償を払い」
奏はその言葉を聞き目を見開いた。他のみんなも同じようにしている。どうやら驚きのあまり言葉を失ってしまったようだ。
真耶は、そんな皆を1度振り返り一瞥すると、前を向き直して話を続けた。
「俺は、初めは記憶があった。自分はケイオス・レヴ・マルディアスで、月城真耶なんだと。だが、時を刻む事にケイオスだったという記憶は消えていった。そして、俺は完全に月城真耶となったのだ。ただ、俺自身の体はケイオスを忘れようとはしなかったがな。だから、あんなに人間離れした男になったんだ」
「じ、じゃあ……本当の月城真耶は……?」
「死んだよ。俺が殺した。自殺しようとしていたところを俺が殺った。月城真耶本人は死ぬことに躊躇はなかった。ただ、月城玲奈という心残りがあったらしい。だから、俺はその代わりをしてやったという訳だ。そして、俺はずっと月城真耶として生きてきて優しい世界というものを知った。平和で安全な世界というものを。そんな中、俺達は異世界へと召喚された。そして今に至るというわけだ」
「そんな……!じゃあ、まーくんはずっと私達を騙してたの?」
「まぁ、そうなるね。でも、不自然なことは多かっただろ。ありえないほどにモブだったり、オタクの一言ではまとめきれないくらい異常に強い。そして、人を殺すことにさえ頓着がない。まぁ、月城真耶となって少し感情は芽生えたが、それももうない。ケイオスとして完全に目覚めた俺は、再び感情を失った。そもそも、俺がオタクになったのは、日本のアニメには多くの感情があったからだ。今の俺に足りないものは、感情。それがわかっていたから小学一年生の頃からオタクとなった。だが、それも無駄だった……。」
それからも、真耶の話は続いた。その話を一言一言聞く度に、奏の心には辛さ、苦しさ、怒り、etc……。そのような色々な負の感情が渦巻いていく。
しかし、何より怒りが強かった。なぜそのような大事なことを黙っていたのか?なぜ1人で抱え込むのか?普段の自分ならそんなことを思うはずなのに、今の自分は騙されてたことに対する怒りしか芽生えない。
そんなこんなしていると、遂に外に出ることが出来た。外には、時の里にいた女性が片膝を着いて真耶に対して敬意を表している。
「ケイオス様、お待ちしておりました。エルマ様はどちらに?」
「先に帰ってもらった。そんなことより
またせたな。悪かった」
「っ!?滅相もない!頭をおあげ下さい!」
時の里にいた人達は真耶の様子を見て慌てる。
「そうか……」
「それでですが、私達は何を?ケイオス様はこれからどちらへ?やはり、アヴァロンに帰るのですか?」
「お前達には理滅王剣リーゾニアスを探して欲しい。恐らく、宝物庫にあるはずだ。そして、俺はアヴァロンには帰らない。見た感じ、アーサーの様子がおかしい。その理由は恐らくこの世界だ。この…………なんて言うかわからんこの世界に干渉したせいだ」
「ペンドラゴンですか?」
「そう、それ。恐らく、俺がこの世界に召喚された時に、元々アヴァロンに住む存在の俺を召喚したことで地球だけでなくアヴァロンとも繋がってしまったようだ」
「左様ですか……では、ケイオス様世界をどうなさるのですか?」
真耶はその問いを聞いて少し黙り込んだ。
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