第156話 回想1
「よし。次の街に行くか」
「その前に、何があったのか説明してくれ」
「……話しながら進もう」
真耶はそう言って屋敷の出口まで歩き始めた。シュテルは少し真耶のことを警戒しながらも真耶について行くことにした。
「まーくん……」
「待て」
奏は真耶の隣に行こうとするが、シュテルが止める。それを見ていたルーナとクロバ、アロマの3人はその場を動けなくなってしまう。
「ルーナ、クロバ、アロマ、お前らが真耶のことを信じてやってくれ」
玲奈はそう言って3人の頭をわしゃわしゃとする。
「そうだよ。私達が真耶くんを信じてあげないとダメでしょ」
「マヤ様を信じることがカナデ様を幸せにできます。私はただ信じるだけです」
紅音とフェアリルはそう言って微笑んだ。そして、真耶達の後を追う。
「真耶くん……」
「君達は僕達といてもらう」
「っ!?」
希望と雷斗はモルドレッドとヴィヴィアンの後ろに行く。そして、手首を縛り拘束した。やはり怪しんでいるようだ。真耶が敵だと。
真耶は1度後ろを振り向くと、前を向き直して話を始めた。
「悪いな。お前らに黙ってて。話せばこうなるってわかってたからさ」
「そんなことはどうでもいい。その先を早く話してくれ」
「……いいよ。俺の本当の名前はケイオス・レヴ・マルディアス。アヴァロンに住むラウンズの1人だ」
「っ!?じゃあ君は敵だと言うことか!?」
「……どう考えるかはお前たち次第だ。お前達が敵だと思うのなら俺はアヴァロンに帰る。味方だと思うのであれば奏達と2人で旅を続ける」
真耶はシュテルの問に対しスラスラと答える。
「そうか。なら、君の説明を聞いてから判断させてもらうよ」
「……分かった。じゃあ、説明する理由はもう無いね。モルドレッドとヴィヴィアンと一緒にアヴァロンに帰るよ」
「っ!?何故だ!?私達は君の話を聞いて判断すると言っているのだぞ!」
「だからだよ!……分かった。お前らはそんなに聞きたいんだな?それなら教えてやるよ」
真耶はまるで人が変わったかのように怒り出した。その剣幕はこれまで感じたこともないような恐怖感をその場の全員にもたらす。
真耶は少し気を落ち着かせると目を細くして話を始めた。
「お前らも聞いただろ?エルマは俺の事を最強だと言った。だが、それは強違いだ。俺は最《《強》》では無い。最《《恐》》だ。俺のアヴァロンにいた頃の異名はな、最恐の処刑人だ。この意味がわかるか?」
「処刑人……?」
「そう。俺は人を殺し、スパイを殺し、反逆する者を殺す男だ。それが仕事だからな。そんな生活の中俺にはそう言った2つ名が着いた。分かるか?俺は人殺しなんだ。アヴァロンにいた時からな」
そう言って話す真耶からは少しだけ怒りのオーラが出ていた。奏はそんな真耶を見て少しだけ不安な気持ちになった。
「ラウンズでは頻繁に円卓会議が行われる。そのラウンズテーブルでは会議をするが、決定権は全てアーサーにある。俺はある日のラウンズテーブルで……いや、話すより見てもらった方が早いな」
真耶はそう言って右目から赤い光を、左目から白い光を放った。
「っ!?まーくん……その目……!」
「あぁこれか?フッ、クロニクルアイもコントロールすればオンオフが切り替えられる。”共鳴しろ。共鳴眼”」
真耶はそう言って共鳴眼と心眼を発動した。その目を見た奏達は突如として頭の中に映像が流れてくる。
(共鳴してる……!?まーくんと!?)
「これが真実だ」
真耶がそういった時奏達の意識はどこか遠くの場所へと飛ばされたような気分になった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……そこには円卓があった。その円卓には17人の人物が座っている。その中にはモルドレッドとヴィヴィアン、ガウェインと知っている人が座っていた。その中には真耶もいる。
「それでは、会議を始める。今日の内容は、反対勢力をどうするかだが……我の意見は戦争を起こすというものだ。お前達はどうだ?」
「素晴らしい意見でございます」
「賛同しますわ」
アーサーの意見にそう言って賛同したものがいた。それは、ランスロットと女性……
(誰だろ?)
「待てよ。ランスロット、グィネヴィア。戦争なんてしてしまったら被害は想像以上だぞ。もっと他のことを……」
「ケイオス!あなたは王の考えを否定するのですか?」
「っ!?お前、それ本気で言ってんのか?」
「えぇ。私はいつでも本気ですわよ」
グィネヴィアと呼ばれた女性は真耶に対してそう言う。真耶はその言葉を聞いて少しだけ殺気を強めた。
「ケイオス。では、お前の意見を聞かせてくれ。反対勢力を君はどうする?」
「全員拘束する。仲間になるというものは受け入れそれ以外を公開処刑すればいい」
「なるほど。お前の意見も一理ある。だが、いずれはまた同じことをするものが現れよう。その時はどうする?」
「それを起こさないための公開処刑だ」
「だが、それでは相手の勢力を削ることは出来ん」
「俺達がやるべきことは、勢力を削ることじゃない!」
真耶はそう言って立ち上がった。そして、机を強く叩き、何かをはらいのけるような仕草をする。
「だが、不穏分子は消しておくべきだ」
「考えの相違だ!」
「では、多数決で決めよう。我の意見か、お前の意見か」
そう言って多数決を取ろうとした。しかし、真耶はそれを聞いた途端何も言わなくなって席を立った。
「どこに行くんだ?」
「どうせ俺の意見は聞かれはしない。俺はラウンズを抜けるよ。さよならだ」
「そうか。でも、簡単に抜けられると思うのか?」
「俺に勝てるとでも?」
「……」
真耶の一言でその場は沈黙に包まれた。アーサーは少し殺気を強めて真耶を見つめる。
「……仕方がない。全員でケイオスを殺せ」
『ハッ!王の御心のままに!』
そう言ってラウンズ全員が立ち上がり戦闘態勢を取った。しかし、真耶は眉一つ動かさない。ずっと平然とした態度でアーサーを見つめるだけだ。
「この状況で、我に勝てるとでも?」
「……そうだな。勝てるさ。だが、お前らを殺したところで何も変わらない」
「なら、ここで死んでもらおうか」
「それは、1番無いな」
そう言った真耶の目には2つの白い光を放つ輪が描かれていた。
「転移眼だ!」
誰かがそう叫んだがそれももう遅かった。真耶の姿は一瞬にして消え、その場には何も残らなかった。
「クソッ……!ラウンズに命じる……!ケイオス・レヴ・マルディアスを全力で殺せ!」
『ハッ!王の御心のままに!』
そして、ラウンズの姿も一瞬にして消えた。
「出てこい」
アーサーは誰もいなくなった部屋で虚空に向かって言う。すると、虚空の中から真耶が現れた。
「よくわかったな」
「お前のことだ。我と2人で話す機会を作ろうとしたのだろう。気配など全く読み取れなくともいることは分かる」
「フッ、さすがは王だ。……今回俺が残ったのはお前に別れを告げるためだ」
真耶はさっきとは違い、真面目な表情で、かつ落ち着いた声でアーサーに言った。アーサーはそんな真耶の顔を見て少しだけ俯く。その様子は、これまでの……いや、奏達が知っているどのアーサーとも違った。
「そんな顔をするなよ。お前は王だろ」
「だが、我とお前は友だ。友と別れるのは辛い」
「別に永久に会えなくなるわけじゃない」
真耶はそう言って目に魔力を溜め始めた。そして、魔法陣を描き始めた。
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