第154話 エルマの気持ちと真耶の意思
皆は、まやの優しい笑顔を見て安心した。そのせいか、だんだんと体から力が抜けていく。
「なんで……!なんでそんなことを仰られるのですか!?ケイオス様!何故ラウンズに戻られないのですか!?」
『俺が戻らないと決めたからだ。古臭いルールに縛られやがって』
「そんな……!では、ここにいる人全員を殺すと言ってもですか……!?」
『……フフフ……出来るのか?』
「出来ます!」
『ならやってみろ』
真耶がそう言った瞬間、エルマはすぐにナイフを取りだし奏を殺そうとした。しかし、出来なかった。
『どうした?殺らないのか?』
真耶はそう言う。しかし、何故かエルマは両手が動かない。まるでなにかに掴まれているかのように動かない。
「なんで……!?体が……!」
『癒優、彩花、俺に掴まれ』
真耶はそう言って2人に手を差し出した。2人は戸惑いながらもその手を握る。その瞬間、真耶の後ろに巨大な魔法陣が現れた。その魔法陣からは大量の魔力が溢れだしている。
そして、その魔法陣からとてつもないほどの光が放たれた。その光は真耶たちのいる空間を一瞬で埋め尽くすと、周りを真っ白に染め上げた。
2人はその光に目が眩み、目を閉じる。そして、光が止み次に目を開けた時には、目の前に奏達とエルマがいた。
「っ!?なんで……!?」
「もうめんどくさいからな。遠距離で話すのも疲れるだろ」
真耶はそんなことを言いながらエルマに近寄る。
「お前の長が使った魔法は”時渡し”だ。時渡しは一方通行で1度行けば同じ方法で帰ることは出来ない。そういうルールだ。エルマはこの意味わかるよな?」
「っ!?ルールの……改変……!」
「当たり。でも、少し違う。消滅だ。”理滅・転次元”。見たことないか?」
真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべた。奏達は真耶の話を聞いているが、なんの話しをしているのか全く分からない。ただ、すごい魔法を使ったということだけ分かる。
奏は今の真耶を見つめた。さっきまでとは違い、優しくなっている。でも、なぜだか真耶が本当に優しいのか信じられない。
「まーくん……」
「奏、お前らには後で説明する」
「あ……うん……」
やっぱり上手く言葉が出ない。前はちゃんと話せていたのに、話が上手くできない。でも、真耶はそんな奏に怒るわけでもなく優しい笑顔で見つめるだけだった。
「ケイオス様!わかりましたわ!私はあなたを無理やりにでもラウンズへと連れ戻します!」
「やめておけ。お前では俺には勝てん。時の里の人全員アヴァロンの人なんだろうが、全員でかかってきたとて俺には勝てん」
「分からないじゃないですか?」
「じゃあやってみろ」
「”光蝕竜”!」
エルマは無詠唱、無陣、オーブすら使わずインペリアルエルマを発動した。すると、エルマの手のひらから光る竜が現れる。その竜はものすごい速さで真耶の元へ向かってきたが、真耶は微動だにしない。
「消えろ。”黒繭”」
そのまま手のひらから闇の力を放ち、光る竜を飲み込んだ。そして、光る竜は瞬く間に消えてしまった。
「それだけか?たしか、インペリアルエルマはお前が作った技、そして、お前の最強の技だったな」
「あ……う……このおぉぉぉおぉ!」
エルマはどこからか剣を出し向かってきた。恐らく武器召喚の魔法だろう。やはり、ラウンズの側近と言うだけあって、そこら辺の剣豪よりは強い。多分シュテルとか希望位の強さだろう。
「愚かなやつだ。俺が武器召喚が使えないとでも?」
そう言って真耶はただの剣を召喚した。だが、それはそれでアヴァロンでただの剣だったもの。当然こっちの世界のものより強い。そして、エルマはアヴァロンの者飛ばれないようにこっちの世界の武器を使っている。当然真耶と戦っては勝ち目がない。
「剣での勝負で最後に勝敗を決めるのは剣の技術だ。お前より俺の方が技術は上。無駄なあがきはよせ」
真耶はそう言ってエルマの所持する剣を弾き、そのまま服を切り裂いた。
そのせいで、エルマの白くてスベスベの肌が顕になる。エルマは自分の服が切られたことを確認すると、すぐに体を隠し、その場にへたりこんだ。
「見ろ。これが現実だ」
「クッ……!何故……何故そこまでして戻られないと言うのですか!?ケイオス様が戻られれば、この世界もアヴァロンも平和になるのですよ!」
エルマは大粒の涙を流しながら真耶に訴えかけた。しかし、真耶は全く揺るがない。そして、依然としてその強い殺気を強めたまま言った。
「理解しろよ。なんで俺が抜けたのか……それは、アーサーが嫌いだからだよ……!俺はあいつのせいで何度もアヴァロンの人を殺した。俺はな、もう嫌なんだよ。あいつの言うことを聞くのがな」
そう言って自分の手を見つめる。それは、自分の血で汚れてしまった手だ。アヴァロンにいた頃は血で血を洗うような生活だった。だから、何も思わなかった。でも、日本に来て、安全という喜びを知った。そして、異世界に来て再びこの手を汚した。
だが、アヴァロンにいた時は違う。この手を汚したのは、自分の意思だ。自分で考えて行った結果だ。だから、後悔はない。
「もう……アヴァロンにいた時とは違うんだよ……!分かったらアヴァロンに帰れ」
「本当の本当に帰ってきて下さらないのですか?」
「帰らない。もし、俺がアヴァロンに帰る時が来たなら、その時はアーサーに忠誠を誓う時では無い。アーサーを殺し、俺が王になる時だ」
真耶はそう言ってまっすぐエルマの顔を見た。エルマは少し驚いた表情をすると、少し微笑んで振り返った。
「私はケイオス様の意志を尊重します。なんせ、私の主はケイオス様だから。だから、困った時はなんなりとお申し付けください。そして、王になるその時が来たらお戻りください。私はいつでもお待ちしております」
そう言って忠誠を誓うように片膝をつき、漫画やアニメで王様に謁見する時のような姿勢をする。
「……フフフ、悪いな。待たせることになる。だが、お前の気持ちは理解した。いずれ戻ってくる。その時まで生きろ。たとえ肉体が破壊されたとしても、魂だけの存在となって生きろ。そうなった時は、俺が助けてやるよ」
「っ!?……ありがとうございます……!ケイオス様の御心のままに!」
エルマは真耶の言葉を聞き、そう言って涙を流した。真耶はそんなエルマの頭を撫で、優しく抱きしめる。
「ありがとうございます……!……あの、最後に質問なのですが、モルドレッド様とは今どんな感じなのですか?子供は作りましたか?」
「ばっ!それは……あ」
後ろからとんでもない殺気を感じる。だが、ここはまだ我慢してくれるそうだ。
「エルマ……良い感じだよ。でも、まだ子供は作ってないよ」
「そうですか……。では、子供をお作りになったら私も抱きしめたいです!それでは、先に戻ってお待ちしております」
エルマはそう言って次元の扉を開き、アヴァロンへと帰って行った。
「ねぇ、まーくん。モルドレッドちゃんとどういう関係だったの?」
「いや……その……夫婦だよ。まぁ、そのことも含めて帰りながら話してあげるよ」
真耶はそう言って少しだけ不敵な笑みを浮かべた。
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